ドタバタ通学路!!

 衝撃の事実(ただ単に依代が忘れていただけだが)を知った依代は目にも止まらない速さで着替え、ものすごい速さで階段を下り、食べかけだったパンを咥え


「ふぃっふぇふぃふぁふ!!!」


 と謎の言葉を残して玄関から飛び出した。

 妹たちはそんな姉にあきれながら黙々と朝食を食べ続けた。


 家の門から飛び出すと、ちょうどインターホンを押そうとしている二人組と目が合った。その二人は彼女を見た途端あきれたような安心したような表情で依代に話しかけた。


「おーよかったー。てっきり今日が学校だってこと忘れてるのかと思ったわー」

「依代ちゃんおはよ!私は依代ちゃんなら大丈夫だと思ってたけどね~」


 そこにいた二人は同じ高校で1.2年と同じクラスメートだった『佐久間櫂(サクマ カイ)』と『登坂沙良(トウサカ サラ)』だった。

 二人はどこか安堵の表情で依代に近寄る。


「わ、忘れてたわけじゃないよ!!妹たちが入学式の話をしていて思い出したとかは全然ないよ!」

「それ以上言わなくていい、十分わかったから」


 依代がしゃべるのを遮るように櫂が手をかざす。話を遮られて依代は不貞腐れた顔をしたがそれを沙良になだめられ気を直した。

 三人はそんな他愛のない話をしながら学校へ向かうのであった。





「――そういえば依代」


 休みの週に何をしていたかのことでだべっていると櫂がある話題を切り出した。


「ん~?どした?」

「いや、今日のことを忘れてたってことだからもしかしたらで聞くんだけどさ…、今日の新一年の入学式でしゃべることぐらいはもう台本とか書いてるよな…?」

「ん?なにそれ?今日は私たちの始業式が終わったら帰れるんじゃないの?そうプリントにも書いてあったし」

「はぁ!?いやいや、さすがにアホなお前でもそこは覚えてると思ったんだが…。始業式忘れるぐらいだから、はぁ…」


 大きなため息をつきながら頭を押さえる櫂。依代は依代で自分が何を忘れてて何を覚えてるかを頭を抱えながら整理している。

 長期の休みを挟んでいて多少のことを忘れることはあるが依代ほど忘れることはまずないであろう。そんなことも平然とやってしまうところは依代らしいとは依代らしいが、周りで一緒に活動してる者からしたら呆れるを通り過ぎて憐れみを覚える。


「というかお前そんなんでよく生徒会長やりたいとか言い出したよな。俺と沙良が裏でいろいろ支えてるとはいえそもそも立候補の時点で落ちてなきゃおかしいだろ」

「そう?生徒会立候補の時の依代ちゃんかっこよかったよ?いつもはちょっと、ほんのちょっとだけ変なこと言っちゃったりしちゃったりするけどやるときはちゃんとやる子だし」

「あれ、なんかすごく遠回しにディスられた気がするんだけど…?」

「ん~?何言ってるの、私は依代ちゃんのこと褒めてるんだよ~?」


 ジト目でにらむ依代を沙良はさらっとかわす。沙良は茶化しながら言っているが彼女らが高校二年生の時に行われた次期生徒会立候補選挙では依代らしからぬ名演説で当時生徒会長になるといわれていた男子を抜いて依代が生徒会長になったのだ。


「まぁそこは認めるけどさ、1.2年と生徒会関係とは無縁だった依代がなれるとはわないだろ…」

「そこは依代ちゃんの生徒会になれる天性の才能があったんじゃないかな?」

「もしそんなのがあったなら最初から生徒会に入っててほしかったわ。生徒会長の引継ぎ作業とかその他もろもろの作業、先輩が教えようとしてもこいつ一向に覚えられなくて最終的には知り合いだってことで書記の俺が覚えさせられる羽目になったんじゃねぇか」

「まぁまぁそこは友人の好みとしてさ、大目に見てあげなよ。私だって全力でサポートしてあげるからさ」


 嫌がりながらも、それでも依代のサポートをしてくれるのは見た目によらずな櫂のやさしさである。

 そんないい話で終わりそうな雰囲気だった空気を依代以外の二人があの事を思い出し断ち切った。


「で!新入生への言葉はどうするんだ生徒会長!?」

「ねえ!新入生への言葉はどうするの生徒会長!!」


「え、えっとぉ…頑張って入学式までに考えるよ…」


 二人に言われタジタジになりながら依代はそう答えるしかなかった。

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