第4話 ラーメンダンジョン

 自分のアパートがダンジョンになった。



 何を言っているのか分からない? ま、俺も判らない。いやー、冗談じゃないんだな。これが。自室のドアを開いて外に出ようとする。と、洞窟のようなダンジョンとなっている。しかも、毎日、出口までのルートが変更される。なんて嫌がらせ、これじゃ、会社に行くのも一苦労だ。



 だから、遅刻する。ちょと待て。勘違いするな。俺は、無断遅刻するような人間じゃない。ちゃんと会社に断りの電話くらいは入れるのだ。報連相は大事だからな。



「済みません。今日のダンジョンはちょっと複雑で、一時間は遅刻しそうなんです」


「もう、来なくていいよ」



 上司の言葉に茫然自失した俺は、ダンジョンの中で佇んでいた。動くことが出来なかった。会社を辞めても行き場所がない。そもそも、どうやって生活をしていくんだ。故郷の両親に啖呵を切って東京に出てきたっていうのに、ダンジョンのせいで……。



 憂鬱になりながら、何とかダンジョンから脱出して、近くのラーメン屋に行った。久しぶりのラーメン屋は果てしなく美味しく感じた。



 汁をたっぷりと飲み込んだ後、満足感で嫌なことを忘れていると、隣の席に座っていた女性が泣き出した。話を聞いてみると、彼女もダンジョンで困っているらしい。暗いところが嫌いで食事に行くのもままならないとのことだ。



 彼女を慰めてから自室に戻った。しまった。電話番号くらい聞いておけば良かった。そう思いながら、部屋から出ると、いつものダンジョンがあった。くたびれた表情のサラリーマンが目の前を通り過ぎていく。



 あれ? 今まで気づかなかった。よく目を凝らしてみると、かなりの人数がダンジョンの中を歩いて何処かの目的地に向かっている。



 そうだ。俺はあることを思いついた。ダンジョンの中でラーメン屋をやれば良い。出るまでに時間がかかるのが当然だから、お腹が空いている人も沢山いるはずだ。



 チャーシューは厚いほうが絶対に美味しい。ネギは好みがあるから、オプションで量を選べるようにしよう。ゆで卵は個人的には好きだけど、半熟でトロ~リとした味を出すのは難しい。これも同じくオプションだ。



 ラーメン屋を始めた俺は、今まで嫌いだったダンジョンが好きになっていった。なにせ、ダンジョンにはどんな日でもお客がいる。絶えることが無い大通りの前に出店したようなものだ。



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