第30話 旅立ち

 いよいよコントラタックの出発の朝。皆意気揚々と馬にまたがる。それに荷馬車とタマ子の乗る馬車。

 見守る国民達の表情も不安、歓喜、号泣と様々だった。国王とグレタ隊長の挨拶の後、先頭のハリーの号令で皆動き出した。


 まずはエスポワール王国の街や村を訪ねる。城壁を出てスヴニールの街を抜け、西にあるヴァンに向かう。

 馬車があるため全速力で馬を走らせる事は不可能。ほど良い駆け足で進むが距離にして120km。時間がかかる。


「タマ子王女様お喉は乾いてませんか?」


「お茶を貰うわ。カヤも一緒に飲もう」


 かなり馬車は揺れ疲労が増す。お昼になり馬車が止まった。先頭のハリーが休憩を促す。


「お姉様大丈夫ですか?」


 馬車の窓に顔を出したのはタマ子の弟セオだった。


「大丈夫よ。心配するとセオが疲れるわ」


「はい」


 セオは姉思いの優しい子だった。タマ子は馬車から降り身体を伸ばす。

 砂漠のような荒れ果てた土地が広がっていた。


「タマ子、どうだ?城壁を出た感想は」


 ハリーが馬で駆け寄り尋ねた。


「すがすがしいわ。でも私達の王国は広いのね~魔界が攻めてくる理由が分かる気がする…」


「広いよ。だがバリアの外はもっと広い。鉱山や高原、それに広い海。それが魔界に支配されている事が悔しいんだ。1度負けてしまった事も腹立たしいよ。だが…今度こそ!」


 ハリーは思いのたけをタマ子にぶつけた。多分士気が上がっている証だろう。


「そう言えばフローレンスから手紙を頂いた?」


「あぁ、もらったよ」


「返事を書いてあげてね。フローレンスに頼まれてるの」


「返事…か」


「便箋ならあるわよ」


「いや……タマ子はそうして欲しいのか?」


「私は…別に。フローレンスが寂しがってたから」


「手紙の内容は?気にならないのか?」


「え…人の手紙ですもの……」


 ハリーは何も言わず馬を走らせ先頭に戻って行ってしまった。


「タマ子王女様…お辛いですね」


 そばで聞いていたカヤがそう言った。


「…そうね」

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