ゴロねこニャン吉奮闘記

紫 李鳥

第1話 女の子を助ける話

 


 シーシー


 昼食を終えたニャン吉は、木陰でゴロゴロしながら、つまようじで歯の掃除中。


 今、ご馳走になった焼き魚は、農業を営む山田さんちの。


 少し開いてた台所の窓から忍び込んで失敬したもの。


 悪いと思いながらも、腹ペコになったら、理性も常識もへったくれもねぇ。


 あ~あ~、満腹、満腹。さて、めしも食ったし、昼寝でもするか……。





 スヤスヤ……


 グーグー……


 ガーガー……


 グアーッ! ガアーッ!


 なっ! なんだ? ……あああ、ビックリした。


 自分のいびきで飛び起きたニャン吉は、よだれを拭きました。



「わーい、わーい! 川遊びだ。うれしいな~」


 ん? 桃色のワンピース水着を着て、浮き輪を腰につけた人間様のガキんちょが、両親に手をつながれて、楽しそうにはしゃいでら。


 ……こんな俺らにも父ちゃんと母ちゃんは居たんだろうな。ま、気にすることはねぇか……。俺様は俺様だ。


 はぁ~あ……。なんだよ、ため息なんかつきやがって、みっともねぇ。弱音なんかはいたら、ゴロねこニャン吉の名がすたるってぇもんだ。このへんじゃ、ちっとばっか名の知れた俺様――


「キャーッ!」


 ん? あの悲鳴は、さっきのガキんちょだ!


 ニャン吉は、ゴロゴロから一転して、機敏に身を起こすと、猛スピードで駆け出しました。



 川まで行くと、浮き輪をつけたガキんちょが滝壺のほうに流されていました。


「タマーっ!」


 ガキんちょのママが、泣き叫びながら、名前を呼んでいます。


 ん? タマ? 元カノと同じ名前じゃん。


「タマコーっ!」


 ガキんちょのパパが名前を呼びました。


 ん? ……コがつくのか。ま、いいや


 ニャン吉はピューマのように、しなやかに走ると、流されているガキんちょ、タマコに追いつきました。


 タイミングよく、そばにあったぶっとい木のツルにぶら下がると、ターザンのように、


「ニャ~ニャ~ニャ~♪」


 と、おたけびを上げながら、空中ブランコのように宙に舞い上がりました。


 そして、滝壺に落ちる寸前のタマコの腕をネコ手でつかみ、川辺に上げると、


「……ヒック、……グズッ……ネコがたすけてくれたの? ヒック」


 泣きじゃくるタマコは、ヒックヒック言いながら、目をこすりました。


「ああ。だが、パパとママには内緒だよ。どっちみち信じちゃもらえないだろうがな」


「わか……ヒック……った」


「じゃあ、あばよ」


「ありが……ヒック……とう」


「何ぃ、いいってことよ。持ちつ持たれつだ」


「? ……ヒック」


「じゃあな、あばよ」


 ニャン吉はそう言い残すと、林の中に消えていきました。



「タマコー!」

「タマちゃーん!」


 パパとママが走ってきました。


「大丈夫? ああ、無事でよかったわ。……誰に助けてもらったの?」


 ママがタマコの頭をなでました。


「……ネコ」


 タマコの言葉に、パパとママは顔を合わせました。


「……とにかく、よかった」


「ほんと、ケガがなくてよかったわ。さあ、帰りましょう」


 パパとママがタマコの手を握りました。


「……しろとくろのざっしゅ」


 タマコの言葉に、パパとママは目を合わせると、互いに作り笑いをしました。


「……しゃべったの。オスのネコ」


 タマコの言葉に、パパとママは目を合わせると、またまた作り笑いをしました。




 ったく、ネコ騒がせなガキんちょだぜ。お陰で昼寝もろくすっぽできなかった。


 さて、晩飯は誰んちのを失敬するかな……。山田さんちばっかじゃ悪いから、林業の吉田さんちにするか……。


 では、それまで一寝入り、っと。




「……しろくろのオス」


 ん? タマコの声だ。


「ずんぐりむっくりのざっしゅ」


 ったく、助けてもらって、その言いぐさはねぇだろ? よりによって、ずんぐりむっくりの雑種だなんて。


 嘘でもいいから、血統書付きのシャムとかペルシャとかって、言ってほしかったなぁ……。






「つまようじ、くわえてた」


 トホホ……そこまで言うかぁ。

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