第五話 吸血鬼様、噂される

 吸血鬼が転校してきてずいぶんと日が経った。

 だから、吸血鬼にも友人ができて、遊んで、談笑して、高校生活を満喫している筈だ。

 登校を終え、教室へ向かう。

 そう、私はお守りから解放されている。


「よっシー、よっシー。ちょっといいか? 相談したいことがあるんだが……」

「よっシー言うな」


 されていなければ、いけないんだ。

 何故、こんなに懐かれているのか……。

 相談なら、教師にでもすればいい。


「今日はいつもより人に見られている気がするのだが?」


 そうでしょうね。

 学校だから人に見られているでしょうね。

 それは普通ですよ?


「正直、何か怖いのだが……」


 吸血鬼なら凝視される側ではなく、する側で恐れられる立場だろう。

だが、それも無理からぬこと。

 何故なら


「よっシーにウィル君、今日も一緒だね!」


 私たちが恋人同士だと見られているからだ!


「何故だ!?」

「うおっ! よっシー突然なに? どうしたの?」


 かきピーに当たっても仕方がない。

 この学校中で私と吸血鬼が行き着くところまで行ったこと噂になっている!

 行き着く先をさしあたりがない言葉で表すのなら、めしべとおしべの受粉。


「かきピー、聞いてくれ。最近よっシーが冷たいのだ」


 そういう誤解される言葉を口にするから、こんなことになる。

 吸血鬼の発言からもわかると思うが、本人はそう噂されていることに全く気付いていない。

 それがさらに噂を広げ、悪化させるというのだ。


「よっシー言うな。私は冷たくない、普通だ」

「俺の言うことを聞いてくれないではないか」


 唐突に吸血鬼が囁いてくる。

 金髪紅眼で顔だけはいい、発する言葉は意味深なものが多い。

 吸血鬼は嫌でも目立つ。

 それは分かる。

 だが、何故私なのか!


「よっシー、よっシー、聞いてる? なんか今日怖いんだけど?」


 お前が絡んでくるからだよ!

 怖いのはお前の言動が興味の的だからだよ!

 私も今の状況を観察されていて怖いよ!


「どうしたの、よっシー? なんだか目が怖いよ」

「何? 何? 俺、何か怒らせるようなこと言った?」


 駄目だ、イライラが顔に出てしまっている。

 彼らは悪くない。

 そこを間違えてはいけない。


「いやー、私はとてもいい友達をもったなー。あと、よっシー言うな」


 周りに聞こえるように、大きめな声で棒読みする。

 さぁ、友達宣言だ。

 下手に黙っていたから駄目だったのだ。


「よっシー冷たい! 私たちはそれ以上でしょ?」(意訳:親友だよね)

「そうだな! 俺とお前はそんな言葉ではあらわせぬ!」(意訳:お隣さんだな)


 お前ら……

 わざと言っているだろう。

 もうさっさと教室へ行くべきだ。


「はいはい。吸血鬼に興味がある人が見てるだけ。気にしなくていい。怖いものじゃない。もう大丈夫。オールオーケー」


 私は会話を切って教室へ向かう。



 教室についてようやく人心地ついた。

 よく考えてみれば一方的にイラついていた気がする。

 少し疲れているのかも知れない。


「よっシー、急にどうした? 機嫌が悪いのか? 俺でよければ相談に乗ってやろうか?」


 さっきまで視線が怖いとか言ってた吸血鬼が、今度は私を気にするのか。

 へたれなのか人がいいのか、よくわからない。

 まあ、どうでもいいか。

 適当な理由でも言っておこう。


「別になんでもない。予鈴が鳴りそうだったから、急いで教室に来ただけ」

「おかしいな、予鈴までは5分はあるな」


 こいつ……

 どうしてこういう時は察しがいいのか。

 ふと気付くとまた周りの注目を集めている。


「ねぇ……あれ……」

「……本当だ……あの、首元……」

「あれ……絶対に……札……だよな……」


 今になって周りの話し声がいつもと違うことに気が付いた。

 そういえば、今日はイライラしていて周りの様子を見ていなかった。

 今日のそれは恋人とか茶化したものではなく…

 なんだろうか、よくわからない。


「おい……やっぱり……」

「……間違い……首元……」

「本当……絶対に……アレ……だな……」


 首元という単語が聞こえた。

 自分の首元を触ってみても特に違和感はない。

 ということは、吸血鬼のほうだろうか。


「よ、よっシー……どうしたのだ? 今日は本当に……おかしいぞ……」


 私は首元をよく見るために顔を寄せる。

 吸血鬼の顔が妙に赤くなり、私から視線を外していたが、どうでもよかった。

『¥3,980』

 よく見ると、カッターシャツの首元に値札がついていた。


「散々引っ張っておいてこれかよ!」


 なんか、もう色々と本当にごめんなさい。

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