第19話 弓道対決!?


 第2体育館。


 主に弓道や柔道、合気道など畳の上で行われるスポーツ選手のために設計された練習場だ。


「今日はどのような勝負をするのでしょうか? 跳姫さん」


「確か、弓道もたしなんでおったよな、姫川理沙」


「ええ。

 幼い頃から日本のアニメや漫画、ゲームが好きだった私は、当然のように弓道の カッコ良さにも惹かれたわ。

 これこそ、私が求めていた『美』だと。

 背筋正しく弓を持ち、矢を放つまでの美しい所作は、まさに芸術。

 大和撫子という言葉がピッタリよね」


「大量の風船を空に向かって放り投げ、それを撃ち抜いた数で勝敗を決めるというのはどうじゃ」


「公式ルールに従って勝負するよりは、面白いかもしれないわね。

 さらにゲーム性を高めるために赤い風船5点、青い風船10点、黄色い風船15点など、さまざまな色の風船を準備し、制限は時間90秒にしたら、より面白くなると思わない」


「じゃあ、いつも通り道具や衣装の準備は俺に任せてくれるかな」


「私は構わないけど、跳姫もそれでいいかしら」


「ああ、それで構わんぞ」


 俺は、さっそく斎藤さんに電話をかけ。


 弓道の道具一式を持ってきてもらった。


「ありがとう。

 本当にいつも助かってるよ」


「いえいえ、こちらこそ。

 姫川さんには、いつもお世話になっていますから。

 お役にたてることがあったら、何でもおっしゃってくださいね。

 あと、さっきから気になっていたんですが!?

 左袖のボタンが外れそうになっていますよ」


「えっ!」


 斎藤さんに指摘され、確認してみると


「ホントだ。

 ぜんぜん、気がつかなかった」


「まったくしょうがないヒトです。

 このままだらしない格好をしていたら、姫川さんが恥をかいてしまうかもしれませんね。

 ホラ、制服を貸してください。縫ってあげますから」


「お願いします」


 ブレザーを脱ぎ、斎藤さんに手渡す。


 スカートのポケットから簡易型『裁縫道具』を取り出し。


 あっという間に、ボタンの修繕を済ませてしまう


「はい、終わりました。

 他にも外れそうになってところがありましたから、ついでに直しておきました」


「何度見ても斎藤さんの裁縫技術はスゴイな。

 とっても真似できないな」


 斎藤さんから制服を受け取り、俺は感嘆の声を上げる。


 ちなみ風船は『自腹』で買ってきた。


 二人が弓道着に着かえている間に、最低でも300は風船を膨らませなければいけないのだ。


 理沙も愛理沙ちゃんも、化け物じみた集中力と運動神経を持っているからな。


 そんなことを思いながら風船を膨らませ続けること。


 数分。


「お待たせ!?

 ずいぶんとたくさん風船を膨らませたみたいね」


「心眼を使っても、数えきれないほどじゃ。

 この短時間で、よくこれほどの数の風船を膨らませたものじゃな」


 弓道着に着替えた二人が姿を現した。


「弓道着姿の理沙は凛々しくてカッコイイな。

 月並みなセリフだけどさあ。

あまりの美しさにハートを撃ち抜かれちゃったよ」


「ありがとう、龍一。

 とても嬉しいわ」


「某はどうじゃ、似合っておるか?

 神一かみいち


「愛理沙ちゃんの場合は、神秘的なオーラがあるよね。

 エクソシストというか?

 退魔師のコスプレをしているみたいな、ハハハっ」


 ついつい、笑ってしまう。


「龍一、それは……さすがに失礼よ」


「そういう理沙も腹を抱えて笑ってるじゃないか」


 愛理沙ちゃんは、無言のまま弓を構えて、矢じりを俺の方へと向けてきた。


 俺は両手を高く上げ。


「は、はやまるな」


「愚か者にかける情けなど無い」


 そして愛理沙ちゃんは、躊躇することなく弓を射る。


 足元に落ちていた風船を蹴り上げ、矢の軌道を変えた。


「某の必中の矢を避けるとわな。

 ーーさすがは姫川理沙の彼氏じゃな」


 笑いごとじゃないから、一歩間違えれば死んでいたから。


 マジで……。


 弓道スペースには観覧席というものがあり、俺はそこから風船を投げる手はずだ。


「龍一。

 準備ができたから、いつでも投げていいわよ」


 理沙から合図がきたので、俺は空に向かって大量の風船を放り投げる。


 パン、パパパパパっパン。


 目にも止まらぬ速さと正確無比な動きで、次々と風船が割られていく。


 だが理沙には欠点があった。


 それは『多汗症』だということだ。


 彼女の汗を吸いシワくちゃになった白い着物。


 胸当ての下で存在を主張する豊満なオッパイに、脇の下。


 もちろん、手汗も凄かった。


 そのため『百発百中』とまではいかなかった。


 自慢じゃないけど動体視力だけは、人並み外れていると自負している。


 ピピピっとセットして置いたタイマーがなる。


「そこまで!?」


「まあ、こんなもんかしらね」


 爽やかな笑顔で叫び。


 理沙はハンドタオルで汗を拭き。


 水分補給する姿もステキだった。


 赤7コに青53コに、黄123個。


 赤5点、青10点、黄15点だったから……合計は『2千410』点か?


 ハイスコアだな。


「遠慮はいらぬ。手元にある風船をぜんぶ落とせ。

 某がすべて撃ち抜いてくれる」


 などと、豪語ごうごしていたけれど。


 やっぱりナイフ投げとは、勝手が違うのか?


 結果は、赤い1、青い0、黄0点で……合計は『5』点というさんざんたるものだった。


「また、私の勝ちみたいね」


「空から落ちてくる風船を矢で撃ち落とすのが、これほど難しいことだと、最初から知っておったら!?

 こんな無謀な勝負を申し込まなかったのに、無念じゃ」

 

「では、お楽しみの罰ゲームといきましょうか?」


 どこからともなく『水風船』を7コほど取り出すと、愛理沙ちゃん目がけて投げつけた。


「つ、冷たい……のじゃ……ブルブル」


 びしょびしょに濡れた弓道着って、想像していた以上にエロいな。


 ヤバイ!? 鼻血が噴き出しそうだ。


「な、なに!? 

 エロい目で見ているのよぉ。

 死ね、この変態っ」


「グギャアアア」


 理沙の鋭い回し蹴りがわき腹にクリーンヒットする。


 相変わらず良い蹴りをするぜ。


「じゃあ、私たちはシャワーを浴びてくるわね、龍一。

 絶対に覗いちゃっダメだからね。

 さあ行きましょう、跳姫さん」


「あ、はい……」


 2人は隣接されたシャワー室へと歩いていった。

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