異能力とその概念

「あれは俗に言う異能力で作られた存在だ。そして僕や君を含めたここにいる全員も、異能力者だ」


 何も難しくない当然の常識を言うかの様に、ケロッとした様子で狭間さんはそう言った。 


 なるほど、俺を含めた全員か…………。



「いや俺は何の能力も持ってませんけど」

「何を言っているんだい。藍染くんから聞いてるよ、君が能力者だって事」



 俺は勢いよく藍染さんの方に首を向ける、勢いを付けすぎて軽く首の骨が鳴った程だ。


 しかし彼女の顔は以前変わり無く、ただ何に対しても興味を持たないかの様に無表情を崩さないでいた。

 

 ってか、この人会った時から全くとして表情が変わっていない。まるでその顔のまま固まってるのか、貼り付いてでもいるのかの如くに。



「まぁいきなり言われても分からないから順を追って説明するよ。だから安心してくれたまえ」



 狭間さんはそう言うが、これを聞き終わった時に安心できるのだろうか。


 一抹の不安はあったが、ここで聞かずに帰る訳にはいかない。一応の覚悟を持ちながら聞くしよう、それ以外に避けようもないだろうし。

 

 しっかりと狭間さんの目を見た事で、向こうも俺が心の準備が出来たと理解して、少し頷いてから話を始めた。



「まず僕や藍染くんが能力者だと言うのは知ってるよね、この部屋だったり、何かを撃ち込んだりと」



 すると胸ポケットにあったボールペンを取ると、先端のキャップを緩めると、机と垂直に浮かして勢いよくキャップを回した。


 そのキャップは、コマの様に机の上を回転し、グルグルと回っている。



「これ回ってるよね」

「はい、回ってますけど……」



 だからなんだと思っている間に、回転は徐々に速度を落としていき、やがて倒れた。


 それをまた再び緩めてボールペンに付けると、ちょいちょいと手招きして藍染さんにボールペンを渡した。



「さて、能力とは何か。これを簡単に説明するとしたら、人間が起こす科学では証明できない。というよりも、まだ証明されていない現象なんだよ」



「じゃあお願い」と藍染さんに頼むと、さっきと同じようにキャップを机の上で回し出した。



「回転はいつか止まる。何せ空気抵抗がある、摩擦がある、だから止まる。だが――」



 視線を回転しているキャップに移すと、さっきと何も変わらずに回転し続けている。


 ――いや、違う。明らかにさっきとは違う、何が違う? 速さだ、遅くなるはずの回転が今、確かに速くなっている。


 やがて形が見えなくなる程速くなった時、あの場所で聞いた高音が、この部屋に響き始めた。



「――止まるはずの回転を加速させ、無限の回転を産み出す藍染くんの能力。その名も……! えっと、」

&

「あっ、そうそれ。ツイスト&シャウトだよ」



 カッコつけようとした所、能力の名前を忘れていたらしく少し詰まり、隣からボソッと教えられ言い直した。


『ツイスト&シャウト』


 にわかには信じられないが、こうして目の前で実際にやられては何も言えない。言い返す言葉などない。



「まぁこれが彼女の能力、俗に現象型なんて僕達は言ってるけど、まぁこんな風にあり得ないをあり得させる事が出来るのが、僕達なんだよ」

「はぁ……、確かに能力が存在しているのはこれを見て納得できましたけど……」



 しかし、能力があるとして、それが俺にもあると言うのが納得できない。何か今の様に能力を披露などしていない。


 そんな俺の思いを察してか、狭間さんは少し息を吐いてから説明を再開し、真ん中三本の指を立てた。



「能力と言っても幅が広くてね、僕が考えただけだから一概にも全部当てはまる訳じゃないけど、能力には三タイプあるのだよ。一つは、さっきも言ったけど。炎を出すとか、回転を持続させるとかの能力。藍染くんや、さっき居た多比良くんはこのタイプだね」



 そう話ながら指を一本曲げる。さっきの女性も同じタイプ、どんな能力か気になったが今は目の前の話に集中しよう。



「で、二つ目は。実際にある物を媒介にして発動する能力だね。これは今いない彼が当てはまるから、機会があったら見せてもらうと良いよ」



 そして最後、三つ目の能力を説明しようとした時、「少しややこしいけど」と前置きを付けて説明を始めた。



「最後のなんだけど、いかんせん種類が豊富すぎてね。乗り物だったり、動物だったりと、姿ビジョンを持った能力全てがこれに該当する」



 それを聞いて、俺は不意にさっき起こった事を思い出した。



「じゃあ俺が出会ったあの黒い存在はもしかして」

「そうだね、君があった人型のも実体能力だ。そしてこの部屋も、僕の『トワイライトゾーン』で造った空間だから実体型になるのだよ」



 それを聞き、ややこしいと言ったのがなぜか、少し分かった気がした。


 形さえあれば、人だろうが部屋だろうが全部同じタイプになる。しかしあの黒いのとこの部屋とでは、真逆な程に性質が違い過ぎる。


 しかし、能力のタイプをちゃんと聞いたが、それでもなぜ俺が能力を持っていると思ったのか、そこの説明がまだ成されていない。


 まだ続きがあるはず、ジッと狭間さんの顔を見て待っていると、あっと気づいた様に話を続けた。



「そうだった、重要な部分を説明していなかったね。でもこれに関しては単純だよ、君があの黒い存在が見えてたからだ」



 なんだそれは? あの存在なら誰もが見えていたのでは……、いやそうでもなかった。


 被害に遭ってた女性。あの時は急な出来事で混乱していると思っていたが、もし見えていなかったとしたら、突然押し倒され、バックが宙に浮きながら飛んで行った様に見えてたはずだ。



「これもややこしい所なんだけど、実体型には能力者以外にものとの両方があるからね。けど、あの能力に関しては数日調査してるから、見えないタイプだと判明しているよ」



 捕捉してくる途中に「これも今言っておこうか」と続けて口を動かした。それは特に真剣な顔になってる訳ではなく、さっきと同じ様、柔かな表情のままだった。



「君あの能力者に狙われると思うから、しばらく僕達が護衛するからね」



 あの能力が俺だけに見えていたか考えていた俺の思考を瞬時に切り裂いて、ハッキリとその言葉が脳へと到達した。



 …………えっ、俺狙われてるの?


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