シューマン【森の情景】より【なつかしい風景】

私は早足になった。


高くしていたランタンを少し下げ、踏み固められている歩きやすい道を、その先に吸い込まれるように足早に行く。




嬉しくて仕方なかった。


チラホラと人工的な気配が置かれたその道の先に宿があるに違いないのだから。


どんな獣が出るかも分からない森での野宿は避けられたのだ。




──正直にいうと恐ろしかったのは獣というより、いや、獣だって恐ろしいに違いはなく、熊なんか居た日には、それでも、まぁ、より大きかったのは、なんというか。




私はそう誰に向かうでもない言い訳を頭の中に回しながら、遂にレンガで舗装された道に出会して歓喜した。


声が出そうになったが、そんなのをこの先に居るはずの人々に聞かれて不審者と思われ宿泊拒否だけはされたくない。


私は思わず口角の上がっている口を閉じ、道の先だけを目指した。




もうすっかり日は沈み切っていて、私は今日初めて入ったばかりの夜の森にいたのだが。


森の中、目の前に現れた小屋がなんだかとても〝なつかしい風景〟に思えた。


人が居る、という確証がなつかしかったのかも知れない。


窓から溢れ出る明かりは、私が手にするランタンの火と比較にならない。


まるで都会の中心を歩いている気分だった。


私は少し弾む息を整えようとしたが、足が早いままではなかなかどうも上手くいかなかった。




それでも私は自分の身なりを少し気にする。


やっと辿り着いたここで何かの気に障り孤独に追い出される事だけは避けたかったのだ。






そして私は、目の前の扉を開ける。


カランカランと穏やかな音と共に、私の身は暖かさと光に包まれた。

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