あなたと見たい空

松浦 由香

第1話 忘れられない、青春の一曲

―忘れられない青春の曲はありますか?―

 車のラジオから流れてきたCMに少しほろ苦いものを思い出した。

 俺の青春はどこか間抜けていて、ありきたりで、さほど目立つ出来事はなかった。

 目立ってないし、かっこよくないし、頭もよくないし、運動もそれほどできないけど、それでも、格好つけて、女子にもてたくて、がんばって髪の毛を立たせてみたり、正規の制服のYシャツのボタンを一個外すぐらいの勇気しかなかったけれど、それでも、確かに、高校生だったし、いまなお、さほど思考が成長したとは思えないおっさんだけど……。

 高校生のころに見ていた40歳はずいぶんと大人で、貫禄があって、かっこよかったけれど、いざ自分が40歳を超えると、貫禄も、かっこよさもないと思う。少なくても、今の高校生から見て、自分はかっこいい存在ではないと思う。

 そんなんだから、「もう一度、高校生、やり直したい?」と聞かれて、そうだな。と返事をしてしまったんだ―。

 

 特に売れていた曲じゃない。知っている人は知っている。「懐かしの名曲」そういう番組にも全く出てこないけれど、それでも、俺にとっての青春の曲。

 無理したように明るいギターのイントロ、青春がキラキラしている間には解らない。その曲が、無駄な強がりを表していることなんか。



♪さようなら、青春

作詞・作曲 登坂 あきら


一生懸命に走っていた

走ることで生きていると実感していた気がする

学校とか、部活とか、とにかく走り抜けて気持ちがよかった

友達と騒いでいたあの頃


他愛もない会話

どうでもいい価値観

見た目だけを気にしたおしゃれは

結局一時間と持たない


アスファルトが焼けて熱いんだって気付いた

夏の太陽の下ではしゃげる元気が当たり前で

落ち着かなきゃいけない季節が迫っていることを

見ようとしなかった


さよなら青春

苦い初恋を体験する間もなく過ぎようとする夏

名残惜しそうな蝉の声だけが

僕の耳に残っている


交差点で僕の目に飛び込んできた

キラキラした君

季節も、笑顔も何もかもがキラキラして

僕はすぐに恋をした


不器用な僕が一生懸命君に合わせたよ

君の目に映った時 僕の心は踊ったよ


だけど、君はあいつの彼女

それでも、僕はよかった

つまらない日常が 君によって変わるのならば


青春というひと時が

君によって輝いた

君がいたからこそ

僕の青春は華やいだ


時間は逆らうことが出来なくて 

止めることもできなくて

僕らは大人にならなきゃいけない


さよなら青春

理不尽な冬を迎え

僕は君の瞳から消えて行った

君は未来を見つめ

僕はこの夏に縋りついていた


いつもと違うものの見方で

単純に楽しめたら

世の中は変わる気がする

僕たちは何に追い立てられているのだろう?


さよなら青春

卒業してしまった僕たち

君はあのころと変わらないままかい?

僕はここにいる

でも君のいる場所はここじゃないんだね

さようなら、青春

大好きだった人



 車のラジオから流れてきた。それはもう聞かなくなった、遠い昔の曲だった。

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