悲喜交交

 紹介文、あらすじにある「馬鹿馬鹿しくも哀しい」という一言が、どれだけの意味を持っているのかと読後に思わされる物語です。

 読み進める内に私は、三人称で書かれているのにも関わらず、主観で夫婦を語る人の前に座っているような気持ちになりました。親しいのか親しくないのか分からない友達、或いはたまたま相席になった人か、そんな関係の人が何かのついでに出してきた話を聞かされているような、そんな風に。丁寧に描写があるにも関わらず、私はどうにも作中の風景も、この夫婦の外見も頭に広がらず、ただ向かいに座る人が話しかけてくる、そんな雰囲気を感じてしまいました。

 この物語を主観で語る第三者の声は、朗々として聞き取りやすく、名優を思わせる程でした。

 これは地の文が中心となっている事と、作者の持つ文才があればこそ感じられた事だと思います。物語を俯瞰できる読み口だからこそ、こんな感覚に陥ったのですから。

 その物語は、確かに馬鹿馬鹿しいです。

 確かに哀しいです。

 しかし結末まで読んだ時、その人の胸に去来する想い、それ故に想像できる未来は、様々のはずです。

 このまま悲劇的な結末に向かうのか、それとも一晩、寝てしまえば弥次喜多のような関係が続いていくのか、はたまた…そういう隙間がある物語にできるのも、作者の持つ感性故だと思います。

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