敗者の居場所2


 その夜遅く。

 瓦礫から這い出すものがあった。

 低く呻く様は正にゾンビ。だが、瞳だけは蛇のように収斂し、煌々と輝いている。

 ずるりずるりと足を引きずり、やがて一つの廃屋に辿り着く。


「……いるか? いるんだろう!?」


 殆ど潰れた掠れ声で、叫ぶ。

 聖壇に望みの男が現れると、ジェイドは膝を折った。


「力をくれ。……もっと、力を。……奴に負けない力を!」

「その必要はない」

「……あ?」

「お前には失望したよ、ジェイド。二度も敗れ、未だ魔獣に成りきれない」

「魔獣……?」

「どこまでも中途半端な男だ。貴重な蟲を、返して欲しいものだね」

「待て……! 待ってくれ……」


 立ち去る男へヨタヨタと縋り付くジェイド。

 男は心底うんざりしたようにジェイドを見下し、足で払った。

 幕の向こうに消える間際、側に立つ女へ囁く。


「処分しておけ」

「わかったよ」


 入れ違いに進み出る女。

 濡れ羽色のボサ髪から覗く陰気な瞳が、ジトッと一瞥した。

 女の異様な雰囲気に、ジェイドは後退りする。


「……く、来るな! ……穢らわしい足長が!」

「苦しいでしょ? いま楽にしてあげる」

「ヒッ、……ヒハハ! むざむざ殺されて堪るか! 俺は、俺はッ! ルディクロなんだ――――!」


 ジェイドの体が裏返った。爆発的に伸び上がる大蛇。

 毒牙を晒して、ごう、と飛びかかった巨体が、女の眼前で真っ二つ。

 縦に割れた胴体が、彼女の両サイドを通って壁に突っ込んだ。


 長い胴がブツ切りにされる。不可視の刃物に刻まれたかのように。

 蛇は形を失い、血飛沫を噴いて崩れ落ちた。

 賽の目の肉片が無残に散らばる。


「――――ルディクロは、キミだけじゃないんだよ」


 緋に染まった女は、腕を組んだまま一歩も動いていない。

 濡れた服をぐしょりと寄せて、目を閉じた。


「赤いのに冷たい。……キミの血は、あまり気分がノらないね」


 大蛇の死骸からジェイドを引きずり出して処理を終える。

 以後、黒蛇が里を襲うことは、二度となかった。

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