第17話 部活紹介:工作部

 PC部を出て、南畝さんをフロアひとつ下の工作部へと案内する。

「いい機会だし人形を診てもらおうよ。南畝さんの人形、頭の動きが左右でちょっと違うよね」

「最初はそんなこともなかったのですが」

 見学と人形の診断を頼むと工作部部長がすぐに対応してくれた。金属加工、粘土、木工と工作部の対象は広く校内の修理屋さんとして多くの部活が頼りにする。

「受けの一部が欠けちゃってるね」

「壊れているということでしょうか」

「このくらいならすぐに修繕できるよ。ん。以前の修理痕もあるな。真似して直してみよう。一日だけ預かっていいかい?」

 その日はそのまま人形を託して帰り、翌日に引き取りに行くと首の動きばかりでなく、骨組み――〝背〟の軋みやどうがねのガタ、腕から外れかけていた衣装や乱れていた髪まで直された完調の人形が待っていた。昨日、預けて帰る時には不安気だった南畝さんも満面の笑みだ。

「そうだ。工作部も人形あったでしょ。精巧に動くやつ」

「あるよ。触ってみる?」

「彼女に触らせてあげて」

 引き出された人形は構造が剥き出しでロボットと呼びたくなるメカメカしい工作だった。身長は三十センチくらい、大きさも操り方も糸で吊るマリオネットに近い。

「なんだっけ。カーボン? チタン? 軽くて丈夫なんだよね」

 両手の指を駆使しワイヤーを通じて操られるその人形は南畝さんを感嘆させる。

「すごい。滑らかに動きます……」

「でしょ。わお。いきなりうちの子が動かすより美しく動いてる。さすが」

「これは人形劇のために?」

「いや。メカが作りたくて作っただけ。コンピューターから制御したいと思ったんだけどまだ人の手の方が滑らかに動く」

「ぜんぶワイヤー越しなんですね」

「外装がね、市販のフィギュアだったりで少し残念なんだ」

 そう言って工作部の部長はちらりとこちらを見る。

「あんたらのとこ、月華が気に入ったらしいね」

「南畝さんの演技を、ですね」

 操ることに夢中な南畝さんに代わり私が応じると、いいな、と軽い溜息が返ってきた。

「うちの部は何をしても泥臭くてさ。月華にラブコール送っててもなんだけどいっかな関心を持ってもらえない」

 南畝さんが工作部部長の腕を人形に伝い登らせ、肩に立たせて耳を引っ張って見せる。乙女文楽の人形とは操り方も違うはずなのに。

 ふと、思いついて乙女文楽の人形を示し、訊いてみる。

「この乙女文楽の人形をこちらの技術で作ったらどれくらい軽くできますか?」

「あれは十五キロ近くあったね。そうだな――五キロに収まると思う」

「そんなに?」

 南畝さんが驚きの声を上げる。もっともだ、と思う。

 ――その重さなら演技自体も変わる。

 胴金と呼ぶ身体への固定方法も必要性が薄れそうだった。乙女文楽の演技を根本から変えてしまう話だった。

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