第11話 文章力があがる方法(後編)

「通達」の改正作業を命じられた私――。


 前例を踏襲し、型通りの通達は上司にダメ出しを受けました。


 ――びっくりしました。


 私の改正した通達は、ダメ出しの余地などない、からです。……ちょっとおかしな話に聞こえるかもしれませんね。


 実は、型通りの文章には理由があります。公文書は、公務員の職務を規定することを通じて、遠く国民の権利義務を制限する働きも持っているため、法律のような書き方のフォーマットがあります。

 厳密なルールの下で作成することによって、時代が変わっても、読む人が変わっても常に同じ意味として理解できるようなのです。


 そういう性質の文章を上司は「わかりにくいから」という理由でダメ出しします。私はそれを改稿して再提出しなければなりません。


 ――これが正解の文章をどう直せというんだ?


 私は悩みました。

 公文書としてのフォーマットを外すわけにはいきません。手元の原稿は完璧にフォーマット通りですが、上司からは分かりにくいとNO回答です。

 分かりやすくすることは可能ですが、分かりやすい表現で書くとフォーマットから外れます。

 ……どないせえっちゅうねん。


 答えは、「その上司にも理解できるよう、フォーマットに合った語句と文章表現を使って、文章を作り直す」です。

 しかし、これは慣れないうちはとても難しいのです。自由に文章を考えるとすぐにフォーマットを踏み外してしまいます。狭い枠の中で、分かりやすい文章を考えるというのは難しい。公務員に前例踏襲がまかり通るのはこのためです。以前の通りやっておれば間違いない。


 ――公文書としてのフォーマットに合わせる。

 ――フォーマットが理解できない人にも読みやすい文章に仕上げる。


 二律背反に四苦八苦しながら、私は通達の改正作業を終えることになるのですが、それ以後、そうした文書作成の仕事に携わることが増えました。仕事で文章を書くことが日常的になったのです。





 20年ぶりに書いた小説が、ずっと小説を書いていた学生時代よりよい文章になったのは、普段からこうした文章を書いていたからだと思います。

 仕事で書く文章は、小説の『自由』からは、まったく正反対の『不自由でしかない文章』ですが、文章力という点からみると、文章はやはり文章だったのです。


 文章力を上げるためにはどうしたらいいか?


 私の経験から言わせていただくなら、それは、


 ――反りの合わない上司に、あなたの文章を読んでもらえ。


ですね。もちろん、ダメ出しを受けて、改稿するところまでがセットです。


 上司が相手なので、なんでこんな理不尽な指摘をされなければならないんだ? それはあなたの理解不足だろう――と思っても文句が言えない、というところが肝心なところです。

 頭をひねって「どうやったらもっと適切な表現がみつかるだろう。この人を納得させられるだろう」と考えることで文章力が上がるのです。


 難しい条件ですよね、奥さんや友人に見てもらってもいいのですが、彼らのアドバイスを素直に聞けますか? 私は無理なんです。趣味と仕事では真剣度が違うので、私には上司の方が効果的かな(笑


 もちろんガチで小説家になりたいなら、小説講座で講師の先生に習った方がいいです。ダメ出しは上司とは比べものにならないくらい的確だし、高い受講料がモチベーションにも繋がるでしょう。


 私のような回り道は無用です。

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