第9話 読み専との付き合い方

 読み専という言葉あります。

 そして、読み専を自称する人がいます。





 私が「読み専」という言葉をはじめて知ったのは、三年半ほど前、某小説投稿サイトでのことでした。カクヨムができる少し前、私がはじめて小説を投稿したサイトです。コメント欄である人物のことを指して「読み専」という言葉を使っていた人がいたのです。


 読み専……なにそれ?


 しかし、私の疑問はすぐに解けました。それは小説投稿サイトであるにもかかわらず、稿もっぱを指していう言葉だったのです。


 そこでの「読み専」は、多分にさげすみのニュアンスを含んだ言葉でした。


 その読み専と呼ばれていた人は、自身では小説を投稿せずに、読むのが専門。何人ものWeb作家さんの小説をするように読んでは、辛辣なダメ出しをコメント欄に残していっていたようです。


 ――ろくに小説を読まずに、ダメ出しをされた。

 ――自分では一切、小説を書かないようだ。

 ――書く苦労も知らない「読み専」のくせに。


 ってな具合で、作家さんたちは怒り心頭――というような感じでした。読み専はWeb作家たちから毛嫌いされていたのです。


 ふうん。


 私は傍観者的立場だったので「ふうん」です。


 作家さんたちの怒りはよく分かるし、私も同じ目にあったら心穏やかではいられなかっただろうと思います。


 でも――ですよ。


 ダメ出しをされるのは、仕方がないと思うんです。だって読んだ人がそう感じたんだから。

 小説をどう読むかというのは、読者の自由です。作者であっても、他人の自由な感想に文句を言う権利はない。


 さらに「書く苦労も知らないで」に至っては、おかど違いもはなはだしいと言わざるを得ません。

 読む人は読むだけで、書いたりはしないのが、むしろ普通なのですから。


 Web作家にときおり見られる「自己と自作を相対化して見ることができていない状態」です。作家にとって好ましい状態ではありません。


 アマチュア作家は忘れがちですが――小説は読者の手に渡ったときから、読者のものになるのです。










 上のは、昔話。

 いまのカクヨムでは事情が少し異なります。


 読み専は蔑称ではなくなりました。小説を読むだけの人も、胸を張って読み専だと言えるのがカクヨムです。


 某サイトでは、疫病神のように毛嫌いされていた読み専は、ここでは福の神です。なぜか?


 PVや★をもたらすからです。


 カクヨムでは、PVや★を集める小説から「書籍化」されていきます。出版社が運営に関わるカクヨムは、売れる商品としての小説を求めており、PVや★の多く集まる小説は出版しても売れるという目算が立ちやすいからです。


 書籍化はわかりやすい「作家デビュー」のしるしであり、Web作家の目標、明るくまぶしいゴール。そこへ導いてくれるのが、小説を書かない「読み専」です。


 読み合い――のように、書き手ばかりがお互いの小説を読みあっていても、PVは上がりません。読み合いではなく、書籍化がゴールのカクヨムでは、いかに多くの読み専に自作を読んでもらうかが重要で、Web作家たちはそこに頭を悩ませるようになります。


 読み専の立ち位置は、三年半前と180度変わりました。


 なかには読んでもらおうとするあまり、読者におもねるような作風のWeb作家も現れてきます。


 ――こういう小説が好きだ。

 ――あんな小説が読みたい。


 読者の好みに合わせた(合いそうな)小説がカクヨムに溢れます。


 無理もありません。評判が評判を呼ぶ――というWeb小説のシステムを考えるなら、PVはお金と同じです。書籍化、アニメ化、ベストセラー……すべてはひとつのPVからです。そうした作家さんを批判する言葉を私は持ちません。





 でも、そこには私が小説に求めるはない。

 あるのはひとつのPVに汲々とする作家の不自由ばかりです。


 あなたはPVのために小説を書くのか。

 それとも自由のために書くのか。


 いったいどちらだろう?

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