第28話「決意」
「あの……」
この状況で僕はどう動くべきか。魔法使いが二人も同じ街にいるのだ、ダンジョンマスターと悟られぬようにするには事件が解決するまで大人しくしているのも選択肢の一つではあった。
「僕にも何か手伝わせてください」
だが、敢えてそれを選ばず、僕は協力を申し出ていた。理由はいくつかある。一つは、このまま放っておけば犯人は僕の仕業に見せかけて犯行を重ねることが考えられること。そして一つは、より深刻な問題だった。
『何故犯人は魔法使いが滞在している街で事件を起こしたのか』
元になるのはそんな疑問だった。この女魔法使いにしろもう一人にしろ、行方不明事件を解決した魔法使いなのだ、無能なはずはない。現に人間業ではない犯行の目撃情報までをあっさり入手してのけている。この状況でわざわざ犯行に及ぶということは、自身が補足されることがないと見ているかもしれず、この場合予想される最悪はこうだ。
『僕がダンジョンマスターであることを知り、犯行をなすりつけられることを確信している』
顔すら知らない存在に力のことが知れてしまっている。拙いなんてものじゃない。第三者、犯行をなすりつけられそうになっただけの被害者を装って魔法使いたちから距離を置いている内に犯人は捕まるなりなんなりしたものの、僕がダンジョンマスターだと魔法使いたちにバレた、なんてことになったら僕は終わりだ。
『協力を申し出て、想定していた最悪だった場合はダンジョンの力を用いて魔法使いに気取られぬよう口を封じる』
今思いつく対処法はそれぐらいしかなく、犯人への情報を得るにも魔法使いたちの近くにいた方が良いのは言うまでもない。ただ、犯人の行動が不自然さを魔法使いたちがどう見るかも今は気がかりであり。
「……一応言っておくが、危険だよ?」
「わかってます。けど、偶然かもしれませんが僕とトラブルがあった相手を狙ったというのが気になりますし、このまま犯人が僕と悪い意味で関わり合いになった相手を狙うとしたら――」
僕には犯人が誰を狙うかに心当たりがあった。役人時代の同僚と上司だ。
「仮に僕が犯人だった場合、私怨で狙うならまずこの人物と言う人物が居るんですよね。『助けたい』なんて気持ちは欠片もないものの、なんと言いますか……」
「ああ、寝覚めが悪いとかそういうものかな」
「気にし過ぎとか神経質なのかもしれません。もっとも、それだけじゃないんですけどね」
「ん?」
よく考えたら、これはある意味で好機でもある。せっかくだからあいつらのやったことを話してしまおうと思った僕は悪くないと思う。
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