魔王を討伐しに行ったら劇団を組むことになりました

女神なウサギ

第1話 出会い

 「いよいよだな」

「うん、いよいよだね」

「私の魔法を見せてあげましょう」

「回復は任せて」

俺たちはそれぞれ、勇者、戦士、魔法使い、僧侶。そう、魔王を討伐するべく結成されたパーティーなのだ。この世界ではモンスターと人々が共存していたが、魔王の策略によりモンスターが魔王に味方するようになった。そこで俺たちはよりを戻すために集まった。いろいろな困難を乗り越え、今まで共存してきたモンスター達を気絶させることに胸を痛めながらも冒険を続けた。そして今まさに魔王と対峙するところだ。

いかにも重厚そうな鉄の扉が立ちはだかる

「あっ、あそこの扉の向こうだ」

が、意外にも扉はすんなり開いた。鍵くらいかけておけよ

「さあ、観念しろ魔王め・・・」

魔王を見た瞬間、絶句する。おじけついたわけではなく、ただただ反応に困った

「どうしたんだよ・・・なっ」

「うそ」

「ハムハムだ」

そう。魔王の正体はハムスターだった。巨大な訳でもない、ごく普通のゴールデンハムスター。これまた人間サイズの背もたれがない木製の椅子にちょこんと座っている

「えっと・・魔王、だよな?」

「そうだよ。ん?なんだ、そのうっかり部屋を間違えたみたいな顔は。私が魔王でなければ何だというんだ」

ああ、その質問ならすぐに答えられる。ハムスターだろ。とういうか、お前が魔王ならなんでモンスター達が味方しているんだよ、逆に!確かにかわいいけどさ!

「えーっと・・いろいろと理解が出来ないんだが。君は何が目的なの?ハムスターの野望って正直、想像がつかない」

「野望か・・そうだな。おいしい草を永続的に食べることが出来れば幸福だろうな」

お知らせします。この発言からこの子を人畜無害に認定します

「なあ、どうするよ、この子」

「どうするって言われてもなあ・・ハムスターじゃ危害は加えられないし、女子2人組は楽しんでいるし」

悩む俺たちをよそにふわふわなハムスターの手触りを楽しむ僧侶と魔法使い。そこの魔王、まんざらでもない顔するな

「リク、とりあえずひとっ走りしてゲージ持ってきてくれない?」

「ゲージってまさか、お前」

「そのまさか。飼おう、この子」

「・・・」

「・・・」

黙り込んでも他に案はでない。

「分かった、ちょっと行ってくる」

ダッシュで駆けていく戦士を、いってらっしゃいと見送る

魔法使いが不思議そうにきいた

「あれ、リクどこか行ったの」

「うん、ゲージを取りに行ってもらった」

「えっじゃあ、まさか」

「うん、この子飼おうよ」

やったーと喜ぶ魔法使いことミルから魔王を飼うことになったこと

を聞いた僧侶ことレナも目を輝かせている。ちなみに、俺が勇者ことレオです。

しばらくしてリクがゲージを持って帰って来た

「おっす、お疲れ」

リクはかなり疲れているらしく呼吸が荒い

「どうしたの?かなり息が上がっているみたいだけど」

「いや、どうもこうも。ほら、俺らって町では英雄じゃん?だから町に入った瞬間に歓迎責め。ゲージをくれって言ったら遊んでいる場合ですかって言われるし・・」

―ああ、なるほどね

ともあれ。無事にゲージは手に入り、あとはこのハムスターをお持ち帰りするだけだ。

「おい、そこのハムスター。優しいお兄ちゃんがゲージを持ってきてくれたからこれに入って城まで行くぞ」

ハムスターは怪訝な顔をした

「ゲージだと?お前、私を誰だと思っている。全ての悪を束ねる王だぞ。人間なんぞに仕えるか」

おっ魔王としてのプライドはあるのかな

「ええっ、行かないの?お城まで行けばサラダバーがあるよ」

レナの発言にミルがつけたす

「サラダバーなら葉物野菜も食べ放題だよ」

「つまり、好きなだけ食べて良いのか」

うん、と同時に頷く女子2人

そっぽを向いて赤面する魔王

「なら、仕方ない。ついて行ってやろう」

前後撤回、プライドは無いな。やっぱりハムスターだわ

俺は全員に号令をかける

「そうと決まれば早速行こう。皆、準備して」

「はーい」

ちなみに、瞬間移動とかはできないから城までは徒歩です。近くて良かった

その後、無事にお城に到着。リクが言っていた歓迎責めやら非難やらを乗り越えて王の間へ向かう

「よーし、着いた。これで後は王様に討伐の報告をするだけだな」

言いながらおもわずにやけるリク。こいつ、結構現金なんだよね

扉の前の衛兵にあいさつをする

「ご苦労様です。魔王の討伐をして参りましたので王様にお目通り願いたい」

「なんと!ついに魔王を倒したのですか。さあ、どうぞ。王様もお喜びになられるでしょう」

失礼します、と、王の間へ入室

「王様。魔王を討伐したのでご報告に参りました」

「おお、そうか」と目を輝かせている純白のひげを蓄えた貫禄にあふれるご老体がこの国の王様。

「魔王討伐、ご苦労であったな。勇者とその仲間たちにはほうびをやろう。ところでそのゲージは何だ?」

「はい、これには魔王が入っております」

「何?魔王だと」

「はい、諸事情により生け捕りに致しました」

「お前達、まさかとは思うが情けをかけたわけではあるまいな?」

ビンゴ!その通りです!!

「王様のお怒りももっともです。しかしながら、魔王の姿をご覧いただければきっと分かっていただけるはず」

ゲージを開けて魔王を見せる

「この者が魔王でございます」

キュウキュウと鳴くハムスター

「―お前達、私をたばかっているのか?」

「えっ?」

「これのどこが魔王だ!どうみてもハムスターであろうが!!」

いや、そうなんですけど・・

「王様、これにはわけが。おい、お前も何かしゃべって」

再びキュウキュウとなくハムスター

「そうじゃなくて人語」

「いい加減にしろ!さては、魔王に怖気ついて逃げ出したあげく、物言えぬハムスターを魔王に仕立て上げたな」

すみません、その考察は1ミリもあっていません

「いえ、決してそのような」

「ええい、無礼者め!出ていけ!次に城に入る時に魔王を討伐していなければ刑に処す」

「そんな~」

講義する間も無く衛兵につまみ出される

「あ~あ、怒らせちゃった」

リクも諦め気味だ

「まあ、信じろっていう方が無理なんだよ」

「ボク、痛いのは嫌だよ」

いつの間にか一人称が私からボクになっている。かわいさに磨きがかかってよろしいことだ

さて、どうしたものかと考えているとミルがある案を思いついた

「そうだ!魔王を倒す劇をやりましょうよ。それを王様に見て頂ければ討伐したと信じてもらえるはずです。それならこの子も傷つきませんし」

なるほど、と、納得する一同。

「じゃあ、早速やるか」

準備に取り掛かろうとする俺をレナが制止する

「待ってください。やるのは良いと思います。でも、どうやってやるんですか?各国の劇場は魔物の襲撃により破壊されてしまいました。直そうにも我々には技術がない」

言われてみれば確かにそうだ。娯楽施設は破壊しつくされ、このパーティーには大工も演出家もいない。今復旧している場所は、ペガサスを飼育している牧場とかピクシーの飛び交う植物園だ。そして王様にご覧いただく以上はどうしても劇の上演中に魔王が襲撃する形をとらなくてはならない。王様を岩肌がごつごつしているところなんかに呼び出せないからね。となるとまずやらなくてはいけないのは・・

「舞台を自作するための仲間集め、か」

「そうなりますね」

ミルが指折り数える

「必要なのは、舞台を組み立てる建築士と舞台の照明や音響を担当する演出家、魔王の衣装を作るファッションデザイナーですね。今のままの姿では魔王と信じてもらえなので」

「仕方ない、やろうぜ」

リクの言葉に「おーっ」と賛同する一同。

「ボクはまず、サラダバーに行きたい」

そう言う約束だったからね。

かくして勇者とその仲間たちの仲間集めの旅が幕を開けたのだった

まずはサラダバーにレッツゴー!













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