マガイダー、異世界で婿養子になるってよ

ムネミツ

第1話 マガイダー、異世界に立つ

 「ここは何処だっ?」

 眼前に迫る大地に拳を突き立てて着地して、土煙が上がる中で俺は立ち上がる。

 「ゲゲ! 空から暗黒騎士あんこくきしが降ってきた!」

 煙が晴れた俺の目の前には、棍棒で武装し緑色の肌に赤い目の巨漢の怪人がいた。

 ガシッ! 突然、背後から白い手が俺の腰に回されロックされる!


 「お、お願いです! 暗黒騎士あんこくきし様、お助け下さい!」

 背後から若い女の声が聞こえて来る目の前には怪人、後ろは振り向けない。

 現状、何か事件に介入した事だけはわかった。

 「助けを求められたなら、応えてやる」

 背後から聞こえる女の声の願いを承諾する。

 

 誰かは知らないが売れる恩は売っておいて損はない、情けは他人と俺の為!

 

 正義の味方らしくないと言われるだろうが、他人も大事だが自分も大事だ!

 

 「どこから来たか知らんが俺の獲物は渡さん、その女を寄こせ~っ!」

 怪人がベロンと舌を出して叫びながら俺の頭へと棍棒を振り下ろすっ!


 振り下ろされた棍棒を俺は、スパイク付きの裏拳を突き上げて粉砕した。

 「ぶばっ!」

 粉砕された棍棒の破片が怪人の目に入ったらしく、素っ頓狂な声を上げる怪人。


 武器を壊された怪人が仰け反った隙を逃さず、何者かに腰にまとわり付かれていてやりにくかったが無理矢理足を前に踏み出して腰を捻り、俺の怒りの感情で赤熱化した拳を

 「……黙れ怪人、マガイダーパンチッ!」

 と技の名と共に怪人の鳩尾へと左ストレートで繰り出し、胸板も心臓も鎧袖一触でぶち抜いた。

 名前も知らぬ怪人から腕を引き抜くと、俺の拳から緑色の血がしたたり落ちる

 

 「ひ、ひぃ~~~~っ!」

 腕を抜き血ぶりをした時に聞こえた悲鳴で、俺はようやく自分に纏わりついていた存在を認識した。

 

 俺の横に、金髪に横長の耳をした豊満な胸が特徴的な司祭服らしい衣装を着た女性が尻餅をついて気を失っていた。


 気を失っているなら都合がいい、精一杯アピールして恩を売ろう。

 まず、夜は冷えるので今の内に焚火をせねば。

 「マガイダーファイヤーッ!」

 俺のマスクが左右に開き、牙が生えた異形の口から炎を吐き出して怪人の遺体を焼く。

 即席の焚火を作れた、焚火と言うよりキャンプファイヤーな規模だが焚火だ。

 「とりあえず無事のようだな。起きてくれ、怪人は倒したぞ!」

 次に女性を起こすべくこちらも身をかがめ、女性の肩に手を当てて

揺さぶる。

 女性にみだりに触れるなど問題ではあろうが、必要な措置だ。


 「あ、あ! 暗黒騎士あんこくきし~~~っ!」

意識を取り戻した女性が俺を見ておびえた表情で叫びを上げた。

 

 凄く理不尽に感じたので

 「いや、自分が助けを求めた相手に怯えるなっ!」

 と、会って間もない相手に俺は説教の叫びを上げた。


 「申し訳ございません、先ほどはお助けいただきありがとうございました」

 女性から素直に謝られた。

 

 そして倒した怪人の遺体で焼いた焚火を、俺は助けた女性と囲んでいた。


 「許すよ、あの鎧は恐ろしいからな。俺の名は、マガイダーと呼んでくれ」

 俺は、変身を解いて人間の姿に戻り助けた相手から茶を提供された。

 本名ではなくヒーロー名を名乗ったのは、俺がまだ相手を信用していないからだ。


 「マガイダー様ですか? それはご本名でしょうか?」

 司祭服の女性は勘が鋭いようだ。

 「鎧の名だ、本名はいずれ教えるがそちらの名前は?」

 正直に答える、探知能力などが高そうな相手に嘘は逆効果だ。


 「私の名はラヴィニア・ストーンと申します、アックス教の司祭です」

 ラヴィニアは、俺が聞いたことのない宗教の司祭だと名乗った。


 「聞いたことがないな、つかぬ事を聞くがこの世界は地球か?」

 ラヴィニアへさりげなくこの世界の事を尋ねてみる、ここが山梨県辺りだと言ってくれる事を少しだけ期待して。


 「地球? マガイダー様は、地球からいらしたのですね♪」

 ラヴィニアの言葉に、自分が異世界へ来たと知るが彼女が地球を知っている事から

帰還の可能性を感じた俺は現実に絶望する事はなかった。


 「そうだ、そちらの話しぶりから地球ではない所に来てしまったが地球が認知されている事から帰る希望は出てきた」

 ラヴィニアが司祭だからか、俺は自分の気持ちを素直に伝えられた。

 

 「ええ、この世界の名はルミナ―ス。地球からの勇者が度々訪れる世界です、地球へ帰還された方もおられますのでご安心ください♪」

 ラヴィニアが世界の名前と、俺の不安を解消する言葉を言ってくれる。


 「そうか、ありがとう。帰れる可能性があるならマシだ、これで相談ができる」

 俺は安堵し、ラヴィニアを見つめた。

 「ご相談ですか? 私で出来る事だとありがたいのですが?」

 ラヴィニアが不安そうな顔をする。


 「ああ、できる事だ。俺がこの世界で生きて行く面倒を見てほしい、頼む!」

 俺はラヴィニアに頭を下げた、来てしまった以上は暮らして行かねばならない。

 だが、異世界から来た俺は金も身元の保証も職もないので彼女に頼った。


 プライドなど些細な事だ、武力はあっても社会性がなければ人としてはアウトだ。

 「無一文で住むところも仕事もない! 戦闘や力仕事はできる、貴方の護衛もしよう、頼むからしばらくの間俺を養ってくれ!」

 焚火を挟んで向き合っている彼女に、俺は土下座をした。

 誠心誠意、自身の窮状を訴えて頼み込む。


 「……へっ? あ、あの、頭を上げて下さいっ! こちらこそ、モンスターから我が身を助けていただきましたし神の名の下にお世話をさせていただきますっ!」

 ラヴィニアが驚き慌てながら俺に頭を上げる様に言ってくれたので俺は頭を上げた。


 「ありがとう、どの位かはわからないがお世話になります」

 改めて俺はラヴィニアに礼を言った。


 「ええ、雇用の条件などは後でお話させていただきますがその前にお願いがあります♪」

 ラヴィニアが俺に願いがあると言ってきた、俺としては断る理由はない。

 

 「ああ、俺にできる事で悪事などでなければ可能な限り叶えよう」

 俺は二つ返事で、了承した。

 「それでは、マガイダー様の鎧ではなく人としてのお名前を教えて下さい♪」

 ラヴィニアの願いとは思いもよらぬ事だった。

 「そ、それが最初の願いか? わかった、俺の名は福太郎ふくたろう寿福太郎ことぶき・ふくたろうだ好きなように呼んでくれ」

 マガイダー、漢字の当て字は禍射打悪まがいだあと言うヒーロー名には似合わないおめでたい本名が自分ではミスマッチ感があるので答えたくなかった。


 だが俺は、そんな自分の気持ちを押し殺して彼女に名乗る事にした。

 これから世話になる相手だし、小さい事から信頼関係を築いていきたい。


 恩を売れたと思ったら、そんな事はなかったぜというのは勘弁して欲しいからだ。

 

 俺もライトノベルなどを読んでいたので異世界に来たなら、都合よく街に着けて冒険者ギルドに登録できるとか思いはしたが俺はチートだのを貰ってこの世界に招かれたわけではないので出会った人物にとにかく自分を売り込む事にした。


 改めてみるとラヴィニアは温和そうなやや垂れ目の美少女だ、さっき倒した怪人が狙うのも無理はないと思ったが俺は必死に下心を抑え込んだ。


 間違いを起こすなよ俺、俺はラヴィニアにまだ愛されるようなことをしていない。

 何かあるとしてもそれは、相手としっかり愛情関係を構築してからだ。


 彼女はスポンサー、スポンサー、俺より偉い人、と心の中で呪文を唱える。

 地球での登録制ヒーロー時代でも、偉い人には頭を下げて来た。


 世間の皆様からの支持とお金、ヒーローになるには力がいるがヒーローとして生活して行くには力だけでは足りない。

 

 「どうされました? 何やら気難しいお顔をされてましたが?」

 ラヴィニアが俺に尋ねてくる。


 「ああ、人里は近いのか? 野宿は面倒だなと考えていた、宿を探さねばならん」

 俺は懸念事項を打ち明ける、突然異世界の平原に来て着の身着のままで野宿とか昔のバラエティ番組よりひどい状況に陥っているわけである。

 現代人に風呂にも入らず野宿とか勘弁してくれ、俺は異世界でも快適に暮らしたいんだ。

 「そうですね、この先の街に行けば私が司祭を務める神殿がありますのでそこにお泊りいただこうかと思います」

 ラヴィニアの言葉に野宿の危機から解放されそうな単語を聞いて、俺は内心気合を入れた。


 「俺に選択肢はないので助かる、では急いで向かおうか? 足は用意する」

 俺は立ち上がり、指を鳴らす。

 それを合図に、俺の影から戦車と繋がった黒い龍の頭を持つ馬の麒麟が現れる。


 「……ええっ! モ、モンスターを召喚した!」

 ラヴィニアが俺の麒麟を見て驚く。


 「すまん、だがこいつは害ある物ではない。チェンジ、マガイダー!」

 俺は変身の言葉を唱えると、俺の影から悪魔のような黒と赤で彩られた異形の鎧が飛び出して分割し俺の体に着いて行き全身を覆う。

 更に、鎧から棘が生え俺の全身を突き刺し俺の魔族の血を目覚めさせて鎧の下の俺を人間から悪鬼の如き異形の魔人へと変える。

 

 魔物の鎧を纏い、禍々しき者を射抜き悪しきを打つ者それが魔王装甲マガイダー。


 マガイダーの鎧を纏う資格がある者、それはさる悪魔の血を引く人間のみ。

 人間を愛した悪魔の姫が、子孫に与えた恩寵にして裏切り者の証。


 俺は悪魔の血を引いている、暗黒騎士と呼ばれたのも今になって合点が行った。

 「色々思う所はあるだろうが、この戦車に乗ってくれ安全に運転する」

 ラヴィニアに乗るように勧める。

 「はい、失礼いたします」

 ラヴィニアが乗ってから自分も乗り、麒麟戦車を発進させる。


 この時、俺はビビりまくっていた。

 いや、悪の怪人っぽい男にモンスターが引く戦車に乗せられるって色々大丈か? 

 

 と、思うがこちらとしてもこの世界での生命線である彼女に隠し事は不味いだろうと思うが故に手札を出しているわけで。

 

 「大丈夫ですよ、福太郎様が善き人である事は感じ取れますから」

 俺の心を読んだかのように、ラヴィニアが語りかけてくれたのはありがたかった。

 頑張って彼女に尽くそう、生活目的だけでなく彼女の気遣いに報いる為に。


 そして、願わくば彼女から愛情を得られるように。

 地球に帰る方法が見つかって帰れるなら、それで良い。


 だが、帰れなかった場合はこの世界に骨を埋めるしかない。

 そうなったらやはり、嫁が欲しい家庭を持って子孫を残して行きたい。


 愛のある夫婦生活で子や孫に恵まれた老後、家族に看取られて天寿を全うしたい。

 俺の好みの女性のタイプであるラヴィニア、ラヴィニア女史と呼ぼう。


 出会って間もないのに、恥ずかしすぎるが俺はラヴィニア女史に魅かれていた。




 

 


 

 

 


 



 


 


 


 

 

 


 


 

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