[マヌルネコ/コマヌル] 陸を行く舟と、トイレの× × × × <中>







 チビの時からウチは旅をして、その道中よく不思議な場所やフレンズに巡り会えた。今思えばそれは、子供だったからなのかもしれない。


 幼くて視点が低いと言うのは、つまりオトナじゃ見えず、通れない所を潜れるってこと。

 これって、ヒトこそ言えた事だわよね。



  そうそう、低くと言ったら──


 ヒトが電車で変な駅に着くのも、頭を低めた居眠り時に多いんだって。ましてや眠るってのは、オトナも子供も関係ない状態なんだ。


 話がちょっとだけ逸れちゃったね。

でもじゃあさ直接レール上をチビが歩くと、どうなるんだろうかな・・・。



 ねえ たいちょーさん。

 小さな頃の出会いって意外と忘れられないよね。少しの間、肺の空気を空っぽにして目を瞑ってごらん。頭に浮かんだ子に見覚えない?


 それでは引き続き、ウチが "コマヌル" だった時のお話をするよ。聞いて欲しいな。




     ┈┈ ┈ ┈ ┈┈


 パークの何処とも知れない場所で廃線路を見つけ、それを辿った先は霧で何も見えない場所だった。

 ただただ寂しくて線路でうずくまっていると、"アカオオカミ" って娘が声を掛けてくれたんだ。見つけてもらえて、嬉しかった。



 彼女とお友達になって一緒に旅する約束をした。あたしのがチビだけど、この娘は生まれて間もないらしい。2人で色んな所を歩こうと思っていた。




    そこからの、続き。


 1.


 線路の端にトイレ小屋とベンチがあり、腰を掛けてあたしたちは休んでいた。ふと、あたしはアカオオカミが奥から来たのを思い出す。


「ねえアカ、この先に抜け道はないかな」

「おっ♪ と え~とですね──」


 あたしが略称呼びで質問すると、彼女は嬉しそうだった。けど答えとして、抜け道はなかったとのこと。



 この時少し「ん?」って思ったのは、彼女が此処で自分の名前を知ったのが2日前。つまりそれほど奥は長い一本道ってことになる。



「あのーちょっとコマヌルちゃん」


 霧もずっと出続けてるのか──と考え込んでいると、何故か急にアカオオカミがむっとした顔で詰め寄る。



「私からすれば、コマヌルちゃんの来た道こそ進む方向で、抜け道もそちらが近いと思うのですが。引き返すってのも旅なのでは?」


  ・・・確かにその通りだ。ニャギィ...


 でもどうして不機嫌なのか聞くと、こちらの考え込む素振りが疑ってるように見えたから、とのこと。


 あたしは住処がなくて帰る考えに疎かった。言い訳がましいけどそう説明し、お互い謝る形で仲直りした。



 その後も、空飛ぶ魚の娘やコーヒーを作るネコの娘に出会ったお話などした。

 アカオオカミは興味深そうに聞いてくれた。



 空が霧越しでも分かるほどオレンジ掛かってる。

もう夕方、疲れも取れたのでそろそろアカと引き返そうと思った直後、あたしは会っちゃならないモノを見てしまうこととなる



  「・・・・・・? なんだあれ」


 来た方向のレール上に、ボヤけて光が見えた。目を凝らすと赤や緑色に輝いてて、さらに変な形の薄黒いシルエットも目に入る。


 何かがこちらへ向かっていた。けど歩く際の上下に揺れる動きではない。

 まだ乗り物を知らないあたしは、大きくてフレンズっぽくないなあ・・・と思った。



「・・・コマヌルちゃん、ちょっと下に隠れて。あと、少しそれ借ります」


 アカもソレを見据えたかと思うと、手早くあたしだけをベンチ下に潜らせる。


「アレが何か分かるの?」とあたしが聞くも

「いいからっ」と答えてくれない。

ただ彼女に慌ててる様子はなく、何故か麦わら帽子を借り取る。


 アカが居るから怖くはなかった。あたしが潜った上に彼女が座り、左の隙間を麦わら帽子で塞ぐ形にしてる。



「お静かに、前をよく見ててください...」


 アカに促され、息を殺して彼女の両足の隙間から外を覗く。すると少しして甲高い鳴き声と重そうな音が聞こえ、右から左へゆっくり何か通るのが見えた。

 電車ではない、とんでもない物だった



 "赤く燃えた大きなネコ" とそれを囲って "緑の大蛇" が3匹。ソレらがギャアギャアと重そうに、長い鉄のボートを引いていた。


  明らかにフレンズではない


 舟は2連結で車輪がつき、姿がぼやけた複数の何かが乗っていた。向こうから見られてる気はしなかった。多分アカも同じく。


 周りを火の玉らしき球体が浮き、舟の末尾には長いソーセージを三つ編みにしたような・・・チグハグしたものが伸び、引きずられていた。



 ものの数分ほど、重たい音を尾に引いて通り過ぎるソレをあたしは放心状態で見送った。

 怖いとすら感じなかった。


 ただ一つ察したのは、あれは自分たちと根本的に違う旅するモノたち


   ふいに、あたしは我に返った。



   「おぁ あいたっ!? ❥」


 イタズラ紛いにあたしは、アカの左ふくらはぎを弱く噛んで振り向かす。自分でもよく分からないけど、不思議なものを見てはしゃいでたんだと思う。

 何故かアカも喜び気味に痛がってた。


 (明確には分からないかって思いつつ)

あえてアレが何なのか、下から見上げて聞いてみた。とにかく言葉を交わしたかったんだ



「コマヌルちゃんはさっきの、フレンズに見えました?」

「もちろん、見えるわけないでしょ!?」

 ツッコむあたし。


・・・かと言って原種のネコは文字通り燃えないし、ヘビがあたしらより大きい訳もない。

 するとアカは、意外な返答をした



「あれは多分 "お化け" だと思います。でも不思議ですよね。彼らを実際に見てしまうと、こうも怖いとは思わないんですよ♪」


 明るい時間ってのと一人ぼっちじゃないのもあるけど、確かにあたしも怖くなかった。

 パークにもお化けがいるのか。ここがパークなのか怪しく思い始めてるけど。


 ただ、一つ気になったことを聞いてみる...

 「どうしてあたしを隠れさせたの??」


 怖くないなら避難させる必要無かったはず。すると見下ろすアカは若干あたしから目を逸らし、口元を緩ませてこう言った



「こんな状況なんで、せっかくだしドキドキさせたくなったんです。・・・ごめんなさい♪」


 つまり、アカもイタズラ紛いだった。

あたしはニャギィ・・・もといムッとして、今度は少し強く右太ももへ噛みついてやった。


 何故か、彼女は嬉しそうだった。

 あたしも嬉しかった。打ち解けあえて




 でも実はアカオオカミがあたしを潜らせたのは正解だった。だけど霊が怖くないってのは、大きな間違い

 


 あたしがさっき "会っちゃいけない" と言ったのは、ソレがお化けだからではない。


 見たモノに、悪い偶然が重なっていた



 2.



 (今回、お昼時ってのもあるんだけど)

実際チビはお化けを見て怖がるのか・・・あたしから言わせてもらうと、そうではない。


──と言うのも、好奇心のが勝って怖がると言う感情のスペースがない。


 例えば君がチビの時、ネコのバスに出会ったとする。キミ絶対ワクワクしちゃうよ。断言する

 この世はヒトやフレンズのチビには優しい



 UMAの娘にイタズラで化かされたことがあるけど、彼女たちには "構って" という感情があった。通り過ぎたアレらは、それが一切なかった。



 つまり何が言いたいのかと言うと、チビって意外と他者の感情に敏感なんだ


    悪意にも・・・ね。


 前置き長くなったが、本当の異変はここから



      ┈┈


「ふうぅ おいしょっと...」

「あ、頭ぶつけないよう気をつけてください」


 線路を行く猫とヘビのお化け、そして舟を見送ったあたしはアカの股をくぐってベンチを這い出る。

 左先にまだ舟が見えた。緩やかな上り坂をゆっくり進んでいる。


 奥に坂が見えたことで、先ほどより少し霧が晴れていることに気づく。


 今なら最初来た森へ引き返せると思い、アカに声を掛けようと左後ろへ振り向く──

 まさにその瞬間だった。



   (・・・・・・え??)


  あたしは恐ろしい光景を見た。



 なんと、向こうの舟から二つの黒影が地面に飛び降りるのが見えた。ぴょんっと言えるほど軽快に。返って不気味だった。

 丸くて四足の・・・何らか動物の姿に見える

 セルリアンではない。



「んっ・・・?何でしょう、今までこちらに見向きしなかったのに」


 左後ろに居るアカにも見えたらしい。彼女の顔、さっきと違って本当に困惑してる。


 何が恐ろしいってその二つの影、目に当たる部分が青とか緑に光り、明らかこちらへ視線を向けてた。


  あたしの両肩に冷たい電流が走った。


 さっき「チビは他者の感情に敏感」って話をしたよね。

 何故かすぐ分かった、あの視線はあたしの方を見据え、どうしてか悪意も向けられてる


「何かヤバい!アカ、逃げるか隠れるかしないとダメな気がする!!」あたしは訴えた。


 隠れるにしても、あたしが這い出るところを見られてるとアカに言われ、急いで引き返した。

 彼女から見てもこの状況はヤバいと思ったようで、すぐ従ってくれた。

 でも、なぜあたしが目を付けられたのだろう。


 走ってる間の事はよく覚えてない、けど......




「おかしい、もう着いていいはずなのに」

「こっちの雰囲気も...変ですね」


 いくら息を切らして線路上を走っても、森に辿り着かない。それどころか来る途中の柵もなく、左右は壁の坂がずっと続いてた。


 途中、アカが一瞬ちらっと後ろを見た

──かと思うと急に足を止め、あたしがどうしたのと聞くより早く観念したような面持ちで言った。



「まずいですね、目を付けられてる。

私たち、"道に閉じ込められた" と思います。コマヌルちゃんチラッと後ろ見てください」


 アカも息を切らし、切迫した様子。

顔は後ろに向けず流し目で見ると、4足の動物らしき影は4つに増え、向こうから執拗に付いて来てた。

 目は相変わらず光ってる


 ただソレらは近づいて来ず、距離を取って刺すようにこちらを眺めてるようだ。


   アカは続けて言う



「心のどこかで本当は分かっていたのですが、きっとここはお化け専用の道、だと思います。私も気づいた時には迷ってて・・・。


 こうやって目を付けられた以上、もう抜けられないと思います。とりあえず視界に入らないような所へ隠れるべきかと」


 ここ一本道なのに何処へ──と言ってる途中、あたしは霧先にあるものを見つけた。


 「え・・・なんで どうして」


 思わず言葉が漏れた先に、見慣れたベンチとトイレ小屋があった。ボロボロ具合から、先ほど休んだもので間違いなかった



「繰り返しますが、道に閉じ込められたんです。隠れるならあそこしかない。肌寒いかと思いますが大丈夫、貴方は絶対守りますので」


 どうしてか、アカから覚悟を感じる。

それと隠れ場所はもちろん先ほどのベンチ下ではなく、トイレ小屋ってことになる。


 この状況きっとあたしのせいなのに...


 続く


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