[(extra) キタキツネ] タンスの中で、おんぶを好きになったワケ <長>





 ───

 ─┈

 ┈


 菜々と遊びに行ったデパートの地下に、異様な調理場があった。天井が低くて空間が真っ青…寒いし、物も散らかってすごく歩きにくい。



 大体ここって・・・地下とか無かったはず。

もしかしてだけど、心細い感覚が別の何処かと繋がるキッカケになってしまったのかも。


言い方として波長が合った、とか?


 正直怖くて、来た道を逃げてしまいたい。

 でも引き返すことができない。



おかしい事言うようだけど何故か背中の先、つまりわたしの後ろも変になるの・・・。

 だから先へ行かないとっ──


   急に背中がゾクッとした。

   思わず振り向いてしまうわたし。



・・・何も居なかったが、階段の上で気配を感じる。ヤバイと思い、急ごうと前へ向き直ると


   ある "物" が先にあった...


 それはたくさん積まれた段ボール。

さっきまで無かったのに。・・・ここでやっと気づく

"行く方向に背を向けちゃった・・・"



 しかも中から妙な視線を感じる。

 わたしの感が言う ┈┈あれに近づくな!


 「 くっ!? うぁ..! あぅ...ぁ....!!」


   ──ドカッ


 金縛りみたく身体が動かなくなり、冷たい床に尻もちをついてしまった。ヤバい立てない!

 必死に踏ん張るその時だった──



 『キツネのおねちゃん、こっち...!』


 舌っ足らずな声がして、冷蔵庫の下段を見ると小さな影。何故かフカフカのパジャマ姿した女の子が中から "おいでおいで" をしてた。



 不思議とそれを怖いと思わなかったの。

後ろが恐ろしいのもあるけど、この子に悪いモノを感じなかったんだ。身体も動いた


   ── はっ..はぁ  はぁっ......


  ヌけた腰を引いて何とか潜り込む。


    ・・・・・・


 内部は十分なスペースがあって寒くない・・・と言うかぽっかぽかだった。二人で屈み、階段を下りて来るモノをやり過ごす


  『ここならもう怖くないよー』


 この妙な場所や状況も気になるところだけど、それは後で菜々にダメ元で聞くとして──



  今重要なことはね・・・

  どうやったら元の場所へ帰れるか。


  ┈┈┈┈

  ┈┈────



 助けてくれた優しい女の子 "なーちゃん" は何だか寂しそうに、また舌っ足らずに言う



『まだ怖いよね、一緒に帰ろーよ・・・。

でもその前になーちゃんと "おももだち" になって欲しいんだ』


 帰れることに一瞬希望が見えたけど、外側ではさっきの気配の正体が結局立ち去らず、唸って待ち構えているのよね・・・。



 姿は人だけど膨らんでてとても普通に見えず、ナタのような物を持ってる。


 ただ冷蔵庫の中と外に境界があるらしく、こちらには来ないよう。あとしゃがめないみたい



 ここで安心したのか、わたしの興味はなーちゃんへ向いてた。

 この子の言葉に対し思った......



  帰るって、何処へ行くつもり・・・?


と言うのもこの子、此処にかなり慣れている。彼女もここの存在 (幽霊とか) なのではって。自覚はしていないらしい。


『キツネおねちゃん...だいじょぶ??』


 考えにふけるわたしを、心配そうに覗き込むなーちゃん。青い空間内で目が合った。

 無邪気な子供の顔だ・・・。


  今更だけど "だいじょぶ" が口癖のよう。



 ・・・考えてもラチが明かない。

   思い切って聞くことにしたの。


「その、何度も悪いわね。 少しいい?

あんたの言う帰り先、というか帰り道って一体どこなの?」


 

 あくまでたずねるのは幽霊か、ではなく道と場所。無自覚だし絶望させたくない。だけど彼女は寂しそうに言う



『おねちゃんが、おもだち になってくれるかをまず聞きたいな・・・』


 どうやら、なーちゃんにとって今はわたしの答えだけが重要らしい。...けど不思議。

この状況なのにそれを嬉しく思った。


  誰が相手だろうと好かれるのって悪くない。

  んで思ったの



 こんな幽霊のお友達って・・・素敵かも。

恥ずかしいけど、こちらもきちんと伝えないといけない。


「わたしでイイなら・・・その、よろしく。

...ありがとね。勘違いしないで欲しいんだけど、早く帰りたくて友達になるんではないから。

それは分かってね。


わたしと繋がったら切っても切れないわよー。

後で担当の娘も紹介したげる」



 担当の娘ってのはもちろん菜々のこと。

わたしにしては上出来か、最後が脅しじみてるけど。こんなの昔は興味無かったのに


  ・・・少しはお利口になれたかな。



 一方、何故かなーちゃんはキャーともウンとも言わず、ただ嬉しそうに口を開けて固まってた。驚いたのかな



 幽霊の件はやっぱ伝えない。教える必要ないし落ち込ませたくないし・・・何だか放っておきたくもない。もう友達だし当然だわね。



   ・・・・・・


『ほら見みてーあっち。キツネおねちゃんにやっと教えれた♪ すぐ気づくと思ったけどー』


 見みてー って・・・。舌っ足らずになーちゃんがわたしの前へ這って後ろを指差し、見るとダクトの通路が。暗い中に点々と青い光が続いてる。



 道幅は狭いけどここより天井のスペースが高く、立てずとも膝と手の平で這って進めそう。

 でもなんで後ろに気づけなかっ──


   「・・・あっ!!」

   『ぎゃっ!!?』


 突如しまったと感じ、後ろを見る格好のまま毛が逆立つような声を上げるわたし。まただ......


  "破ける後ろ" には気を付けてたのに。



 ここでヤバいと思ったのは "後ろを向いた" ことでも "ダクトへ背を向けてた事" でもない。



 なーちゃんの事だ。前に来て後ろを指すもんだから、彼女自体に背中を向けてしまったこと・・・短い悲鳴も聞こえてた。


  彼女は後ろで何に対して驚いた?

  恐るおそる前へ向き直って確認するが──...



『もービックリしたでしょおねちゃん!』


 なーちゃんは変わらず屈む格好でいた。

驚いた様子だけど異常は無さそう。どうやらわたしの声にびっくりしただけのようだ。


   ......よかったぁ。


 そういえばナタ持ってるアレに背を向けても、あの時もう既に変化なかった。どういう事だろう?


『ほらもう早く行こーよ。キツネおねちゃんが怖がるの見ててももう楽しくないっ......』


 

 なーちゃんも何だか急かしてくる。とりあえず言うこと聞いて、通路へと這うけど・・・ここで彼女からある注文が来た。


  『あっ!やっぱ前を進んで欲しいの』



 何故か先を行かせたいらしい。疑問と思わずもう前へ出てたけど、こっちとしては彼女のお尻を追って・・・道案内してもらいたいのに。


  理由を聞こうとしたが──


    『そりゃーんっ』

    ──ぼふッ 「ぎゃわ!?」



 背後から彼女の掛け声がしたと同時に腰へ衝撃が走り、思わずマヌケな声を出してしまった。

 何事かと思ったけど──


『くふ..やったぁ。おねちゃんの背中つーかまーえた♪ しっぽもぽかぽぽ..ふかか。

 パジャマより "もちい" ♪


  ずーっと こうしてたいな......』



 背中にしがみ付いた、しかもわたしの大きな尻尾も挟んで。先ほど背中を向けた時に気持ち良さそうで、乗りたくなったらしい。


 嬉しいのか、途中舌が回ってない。

 背中の心配はもういらないかな...。



 温かい背中と尻尾のクッション...この子にとって贅沢なおんぶだわね。見えないけど頭を屈め、両手両足でへばりついているのが分かる。


 下ろそうとは思わない。このまま進むことに


  ┈┈ずーり   ずりり......

    ┈┈ずーりずり



  ──? 何か忘れてるような


「・・・・・・あっ!」

『うぁ!?なしたのおねちゃん次は!!』



 そうだ、 "帰り先" を聞くの忘れてた。

黙ったり驚いたりするわたしに、いい加減少しイライラしてるみたいだ。ごめん


   『そーだったね、えーと──』


──結果から言うと行先はこの子のお家・・・だけど、内容がこれまた妙なものだった。

 簡単に言うと......着くのは



   "お家にあるタンスの中" らしい。


『かくれんぼして見つけたんだぁ』との事。

こんな状況でもう驚かないけど、寝る前にタンス内の服をよけ、奥へ進むと此処に着いたと言う。



 これまで何度か此処へ来て、やっと会ったのがわたしなんだって。朝やお昼は来れないらしい



・・・タンスがそんな作りなワケないし、夜だけ来れるっておかしい。


   中で眠って夢を見てたのでは

   てか、寝る前にかくれんぼ?


......でも夢だったら、わたしから見てこの状況が説明できない。こちらが夢の一部?つまりわたしは幽霊とか?


   ──いやいや。



 しかもおやすみの時に来れるってことは、なーちゃんから見て今は夜中ってことになる。

 わたしと菜々はお昼に来たのよ。

 

  なんだもう色々と噛み合わない。

 きっとこの子の記憶がごっちゃりしてる。


 それか、ふと思ったんだけど・・・・・・

わたしかなーちゃんが "幽体離脱" してるとか?あぁワケ分からなくなってきた、おかしくなる




『おねちゃんも背中も好き。気持ちぃ......』


 ・・・やっぱもういい、やめやめ。

心地よさそうな声で我に返り、考えるのもやめた。少し背中が暑いけど満更でもないし。



  ┈┈ずざ    ずりり...

      ずりずり


 ダクト内はわたしらの息遣いと這う音だけ聞こえる。青い光と少し埃っぽい中、進みつつ後ろも警戒するけど...何も付いて来てない。



 その後なーちゃんはそろそろ居眠りするかと思ったけどそんな事もなく、また話をしながらおんぶで進む。



・冷蔵庫はひみつきちにしていた

・彼女は畑で穫ってきたとよく母親に言われる

(・・・多分からかわれてるんだと思う)


・わたしはフレンズで、飼育員と過ごしてる

・好きな物 (肉まん) 好きな色とか



──などかな。話の内容は意外と普通(?)で、なーちゃんは幼稚園児らしい。


 (正確には幼稚園児だった、か。生前は)



ちなみに母親を "おかしゃん" と呼んでた。

生前って考えると少し泣けてくる。

結局分かれ道は無く、一本道が続いてた。



 途中で何故かわたしの "いたずら心" が発動してしまう。この子が怖がる素振りをしないから、ちょっぴり見たくなった・・・。


  だってわたしキツネなんだもん。

  背中の彼女にこんな質問をぶつける──


「さっきはほんと感謝してる。あんた居なかったらアレに首チョンパされて、身体が無いとおんぶも出来なかった。・・・わたしが

頭だけの状態で助け求めてたら、どう思う?」



 すると彼女はギュッとしがみつく。ちょっと苦しいと感じる中、なーちゃんは言う



『だいじょぶじゃない・・・そんなのやだ

  なーちゃん "お漏も" して泣く......』


 少し涙声の正直な彼女に、可愛いと思いつつ "しまった" と感じた。背中越しに震えが伝わってくることから、予想以上に怖がってる。



 もしかして慣れてたのは、冷蔵庫が安全だと感覚で分かったからなのかも。わたし以外に何か来たわけでないようだし。


  それと背中で "お漏も" は流石に困る

 改めて謝ったものの......



『じゃあお家に着いたら一緒に遊ぼ!んで一緒にお風呂も入ろーね♪ いつも使うシャンプー見せたげる、楽しみー!』


『それで一緒のお布団で寝るんだー♪』

『 "しいくいん" のおべんきょうも教えてー』



 いつの間にか送り届けるってよりか、一緒に過ごそうって流れに。間髪入れずこの子の願望が飛び、わたしはうまく断れなかった。


  でも楽しそうと思ってるわたしもいる。

  一杯食わされたのかも。



 それから20分ほどか、相変わらずなーちゃんを乗せつつ這っていた時のこと。前方に何かが

 「ちょっと何よアレ・・・・・・?」



 少し先に、人のようなものが複数いる。

けど驚くべきは皆が宙に浮いており、しかも上半身だけの姿で顔と下半身がない。


 ナタ持ってたアレを思い出し、すぐ警戒するが背中の上でなーちゃんは言う


  『アレもだいじょぶ、よく見みてー』


 わたしは内心すごくビビってたけど、目を細めて見ると・・・たくさんの衣類だった。ハンガーに掛かり、青い光の影になってる。


 

   ┈┈ずーりずり...... 


 もっと近づくと、周囲は鉄の壁だったのが急にタンスの内側みたいな、木の壁になってた。


  『ふー おいしょっと......』


 なーちゃんはここでわたしから降りた。

ふかふかのパジャマを着た小さな背中が前に見え、かと思うとこちらへ向いて彼女は言う



『やっと着いたね、ほらタンスでしょ。

これをくぐるとただいまなの。ほめてほめてー!』


 青い光に照らされる中、彼女は目を輝かして催促する。忘れないうちに "よしよし" したが・・・・・・



  『はぁ〜......♪』

さっきもだけど、何故か嬉しそうに固まるなーちゃん。息を吐きつつ、口は開けたまま。

 ・・・この子の癖なのかな。


 満足したのか続いて彼女は静かに言う。

 それは何か区切りを感じる顔つき



『キツネのおねちゃん。お友達になってお話しとおんぶもしてくれてありがと、嬉しかった。

飼育員って面白そう・・・・・・お家で待ってるね』


 彼女が衣類を避けるとタンスの開き戸が。

それを押し開くと光が漏れ、眩しくて前を見ることが出来ない。ところが......


「うぁ、ちょっと置いてかないでよ!?」


 なーちゃんはこちらが目を眩ませてる間に、構わず行ってしまった。わたしも置いてかれまいと追いかけるが......


    ──バァンッ




  「・・・・・・?あれ、この場所って」


 見覚えのあるフロアが広がり、思わずその場で辺りを見回す。お家ではなく元居たデパートの、二階にある家具売り場だった。


 わたしはそこに売られているタンスの中から、しゃがんで両手を突き出す格好でいた・・・。



「あっ キタキツネ!? そんなとこで何してるの!探したんだよまた勝手に居なくなって!」


 ちょうど二階を探していたのか、向こうから菜々が駆け寄って来た。この売り場にお客はおらず、すぐ目に付いたようだ。


 この時やっと菜々に会えたから嬉しいはずなのに、わたしはそれどころではなかった。


 「先に女の子が出て来なかった!?」


 思わず菜々に聞くも、そんな子は見てないって。わたしも改めてタンスを確認するが、奥に通路なんてもちろん、衣類すらもなかった。



 それから菜々とデパート内で、あの子を探し回ったけど見つけられなかった。最初に迷い込んだ階段の空間はあったけど、特に異常なし。



「タンス内で夢を見てたんじゃないかな?

ほらキタキツネ、歩きっぱなしで疲れてたでしょ。無理に付き合わせた私が悪いのか、ごめん・・・」



 菜々は悪くない、それに夢なんかじゃない。おんぶの感触と温かさは残ってる・・・切っても切らせないと約束したのに。



 あれから結局、夕方に菜々の家へ帰った。

階段空間へ迷い込んだ時に肩揉みすると決めてたけど、菜々はやんわり断って心配してくれた。



 どうせ信じないと思いつつ、あそこでの事を伝えた。だけど意外にも菜々はわたしの言葉を信用してくれた。


  まぁわたしたち前もこんな事が──


「いい?インターホンの件は関係ナシ。

貴方がそう悩んでてさ、それをね・・・ウソだなんて私だったら絶対に思わない」



 心の中を読んだのかって位に素早く、そして真っ直ぐわたしを見据えて菜々は言う。

 本当、あんたって娘は・・・。



  結局あの子の行方は分からなかった。

  けどあれから2週間後──


 あのデパートは過去に、一階が土砂崩れで沈んでいたことが分かった。菜々とサーバルがわたしを心配し、調べてくれたらしい。



 今は建て直されたけど "あの場所" は絶対それが関係してると思う。


 つまり別次元にある過去のフロア。

 だってあの時あったモノって、


・泥、歯や爪

・無いはずの地下

・行けない上の階

・足がイってしゃがめない異様な形のヒト?

・そしてなーちゃん・・・


 その災害で関わってそうな物ばかり・・・

人が犠牲になってるのなら尚更見つかりそうな。


 舌っ足らずな "あの子" も......まだ小さいのに。涙が溢れてくる



 何故わたしがソコに繋がったのか・・・

それは分からない。でも始めに言ったけど、心細さが "波長" と合ってしまったのかも。



  まだ残念に思ってる事がある。


 せっかくあの子とお友達になり、切らせないと約束したのに。彼女が現れ、憑いてくれた・・・とかそんな事は無かった。


   幽霊の友達が憑いてくれたお話を

  どっかで聞いたのに。


 今思うと名前も教えてなかった。

"キツネおねちゃん" って呼んでくれたけど、せめてキタキツネと教えてたら・・・もう心残りばっかり



  でもこれで "体験談" はおしまい






    あくまで体験談は、ね。


 それから三か月ほど経ったある日の事。だいぶ落ち着いたわたしは、サーバルと一緒にまた菜々の家へお邪魔することにした。



 菜々も前の件で一人が怖いらしく、わたしらが来ると喜んだ。んで時間もあいたし、各自くつろいでたの。


 わたしはベッドの上でだらんだらん。

 サーバルはカーペットでごろんごろん。



 ふと仰向けでいると、背中が痒い。

そこで菜々にかいてもらうことにしたの。



「菜々ぁ..ちょっと背中かいて欲しい〜」

「あのねキタキツネ、そこ私のベッドなんだよー?...ふふ、まいっか。ほら背中こっち向けて」



 うっ "背中を向ける" にあの場所を思い出して内心ビクッとした。あと一瞬、菜々が嬉しそうに見えた気が


 ちなみにサーバルが代わりに掻こうとしたけど、わたしが断った。あんたの爪は痛いのよほんと...。



  ┈┈こしゅ  こしゅ......

      かり   かり....


   (くひっ... ぁ あぁは〜......♡)


 「あーっ.. 菜々ちゃん次それ私も!」


 後ろで毛皮を捲って掻いて貰い "ぽわーん" とした気分になるわたし。サーバルがカーペットで羨ましがってる。

 飼育員の ってか菜々の指は安心する。



 ところがしばらく堪能してると菜々はふっと手を止め、急に思わぬ事をわたし達に聞いてきた。



「・・・ねぇサーバル、キタキツネ。

今でこそ私は飼育員だけど、何でこのお仕事を目指したかって分かるかな?」


 あれ、確かそんなの聞いたこと無かった。

菜々=飼育員って言う固定した考えを持ってたせいか。



「うーん、菜々ちゃんはアニマルガールとお友達になりたかったからっ?」


「同じく動物が大好きだから、、かな。ここではフレンズだけど。分かるわよあんた見てると」


 予想した答えをサーバルに続いて言った。



  それとね、知ってる?

  飼育員って二種類の人が居るんだって。



   動物のことが "好き" な人か

   動物のことが "大好き" な人。


 けど何故いきなりそんな質問をしたんだろ。


「もちろん大好きだし友達も大正解。それと──」


 おや、話は終わってなく菜々は続ける



「最初の友達がフレンズの娘だったの。

でもその娘とは最初に会ったきり・・・ほんとはまた会いたい。


 つまりフレンズは私にとっての始まり。だから大好きだし、そんな娘たちの支えになるには飼育員が一番いいと思ったの」



 そんな事とそんな思いがあったのか。

わたしらは本当いい娘に逢えた。あと菜々もこの立場なら、昔の娘に逢えるのではと思ってるのかも。


   けどね──


「菜々ちゃんカッコいい、何か嬉しいよっ!小さいときって、かなり前かな?

・・・その娘元気だといいねっ」



 サーバルが菜々を思うがまま誉める。

けど会いたい娘が今も元気かは、正直考えにくい。普通のフレンズが姿を保てるのは大体10年ほどって聞いた。多分サーバルも察してる。


   あれ?でも・・・・・・


「ねぇ菜々、何で急にそんな話をしようと思ったのよ?」


 別に「ふと思いついたから」と言われればそれまでだけど、何か違う気がした。過去のフレンズの話題は上手く遠ざけて聞く。


 すると菜々は少し恥ずかし気にこう言った



「ちょっと変な事言うけど私ってね・・・

気を許せる相手の "背中" が好きだったりするんだ」


 菜々からまさかのカミングアウト。

驚いた、逆にわたしはデパートの件で背中や後ろが少し苦手なのに・・・あぁでも分かった。


 わたしの背中を掻くとき嬉しそうだったのはそういう事か。



「菜々ちゃんは背中をどうするのがイイの?キタキツネにしたようにカリカリするのがいいのかなっ」


サーバルがわくわくした様子で菜々に聞く。

話題が変な方向へ行ってるような?



「ソレもいいけど特に"おんぶ" が好きなんだ、大人にもなってアレだけど。全身で味わえるし、安心するし──」


 おんぶ・・・か、今考えると懐かしい。

冷蔵庫のあの子もまだ小さかったし、生きてればおんぶが好きになってたかも。



  ......あれ?まだ何か引っ掛かる。


 "背中が好き" なのと "最初の友達" がフレンズなのは分かった。じゃあ何でわたしの背中から、飼育員になるきっかけを話したんだっけ?



「貴方たちだから聞いて欲しいんだけど...

最初の友達も、私がチビの時に一人で勝手にかくれんぼした時に会えた娘なの」


「えっ、一人でかくれんぼ!?

皆で いーち、にーぃ、じゃないんだっ!?」


 サーバルは内容に驚いてるけど、こちらはこちらでまだ引っ掛かりが取れない。

 菜々の話が続く──


「親が私を構ってくれなくてさ、寂しかったの。だから夜、先に寝る前に隠れれば探してもらえるって、ふと考えたん...だと思う」



 チビの時だからそこは曖昧なのか。

でも何だろう、菜々の話も色々とおかしい部分がある。


   わたしも質問をぶつける


「あんたの話だとそれ、家の中で夜中に一人でかくれんぼってことよね。家には他にフレンズが来てたの?──何処に隠れたかって覚えてないの?」


「キタキツネ今日は冴えてる!私も聞きたいっ」



 菜々の隠れた場所がわたしの中でかなり重要な気がする。だけどその前にサーバル......


    "今日は" って何よ・・・。



「寝室で隠れたから押入れかタンス──」


 この瞬間わたしは、菜々の言葉を一瞬聞いてなかった。 "やっぱりその単語が出た" と思って。あと奥があったとか言ってた。


 きっと内部は普通ではなかったんだと思う


「そんなとこにいたフレンズなら、UMAの娘かもしれないねっ それならきっとまた会えるよ!」



 いや、きっとUMAの娘ではない。

しかもサーバルの言葉から、普段その家に居るような娘でもなかったってことだ


  ・・・もういいや、直接試そう。



「菜々、話を戻すけど良ければ久しぶりにおんぶしてあげよっか」


「えっ 私キタキツネにおんぶして貰った事・・・・・・でも正直言うと、して......欲しくございます」

 「ありゃっ 菜々ちゃん??」


 何故かモジモジして畏まってしまう菜々。

まぁ欲望に素直なのはいい事だわね。特にがっつかないとこが上品で。


 もう察したと思うけど "あの子の顔" を思い出したの、わたしの中で。


  もちろんただのおんぶじゃない。

  四つん這いにわたしはなる


「んっ キタキツネそれお馬さんじゃっ??」

「元が四足だしイイのよ。ほら菜々、尻で乗られると腰痛めるからちゃんとしがみついてよね」



 サーバルのツッコミに適当な理由を言う。

一方、菜々はこれまた何故か無言のまま固まり、でも嬉しそうに四つん這いのわたしへしがみ付く。


 この際さりげに尻尾で背中にクッション。



「あれ・・・やっぱりだ、キタキツネ。

貴方の背中というかおんぶって、何か懐かしい感じがする。私の背中好きって、親の影響ではないのは分かってたんだけど」


 無言だったのは菜々も察してたからか。

自覚してないけど、背中をスキになったきっかけは最初の友達のはず。


 横で「二人とも仲良しだっ」と少しすねた様子のサーバル。



  もう少し借りるわよ、悪いけど。


 菜々が言うに、デパートでわたしがタンスに居た地点で何か感じたらしく、でもその理由は分からなかったらしい。つまり......


「なーちゃんってアンタだったのね」

「え!?私の愛称をどうして・・・」



 実はわたしもデパートでの事を、全て説明したわけではなかった。場所や後ろが変になること、女の子に助けてもらい案内してもらったことは説明したが──


・その子の名前 (なーちゃん)

・おんぶで一緒に出口を目指した事


 何故かこれらを見事に伝えてなかった。

自分でも疑問に思う。んで、菜々もチビだから覚えてなくて。


 これ、もし本当ならお互い時間を超えて昔に出会ってたってことだけど、そのきっかけって──


 「 "寂しい" とか "迷子" とか、かな」


「えっ 何なに!? じゃあ菜々ちゃんとキタキツネって昔に会ってたって事なの?ズルいけどすごい、そんな事あるんだねっ」



 信じられないけどそういう事になる。

現実でも迷子とかで、別の場所に繋がることがままあるし。結果が良いか悪いかは別として。


  特に子供の波長って・・・

  強いのかもしれないわね。

 


「私の最初の友達はキタキツネって事だねこれ」


 起きたことが不可解すぎるけどそう思いたい。その方がわたしもすごい嬉しい。


 だって幽霊じゃなかったし、土砂崩れで埋まった子じゃないし、切っても切らせないが叶ってたんだから。



「ふふ、それにしてもキタキツネはやっぱ温かい背中しているね。安心する」


 そりゃ元動物だから背中は温かい。

ちなみに "だいじょぶ" が口癖なことを聞いてみたら確かにそうだったらしい。


  もう間違いないじゃないの。



 この後ちょっとスねてるサーバルを二人で捕まえ、同じくこの娘の背中も菜々に堪能させてみた。


「サーバルの背中も涼しい触りでよかった」って言ってたわ。



 それをわたしは肉まん食べながらベッドで見てたけど、サーバルも嬉しそうな顔してた。

 あんた達も仲いいわよね、なかなか。


 "寂しい" という気持ちがいい方へ繋いでくれたパターン。長くなったけど聞いてくれてありがと。



 みーんな、切っても切れませんように。

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