[(extra) キタキツネ] わたしの背中で破ける空間 <中>








 小さい頃、お出かけに連れられてさ・・・

建物や広場で親とはぐれて、迷子になった経験ない? 何故かこういう時──



  "ここではない" 場所に繋がりやすいんだって。特にあまり人が来ないフロア。通るといつの間にか狭くて違うところ。



    どうしてか子供に多いみたい。



 わたしは "キタキツネ" よ、初めまして。

肉まんが好きなの。ん・・・ゲーム? "サーバル" がそれなら詳しいわよ。


 きっとあんたたちの思うキタキツネは他のアニマルガールでしょ。わたしとサーバルには "菜々" って飼育員がいるの。長い付き合いよ。



 話題を戻すけど、これはわたしの実体験。

こんな話をフレンズから聞くなんて、なかなか出来ないわよ?



  信じるかどうかは、あんた次第だけど。



 ──

 ──┈

 ┈┈┈┈




 この日はお休みで、天気のいい朝だった。

ほんとはゆっくりしたかったけど菜々にちょっとハメられて、一緒にお出かけすることになったの。



 一応言っとくと恨んでるわけではない。

ただ新人の時よりヤってくれるなって。わたしへの扱いが上手くなったというか......

  というのも──┈┈



『明日ちょっと大事なお話があるんだ。キタキツネもお休みで悪いけど、私の家へ来てくれないかな・・・』


 昨日、パークの帰りに菜々からぽつり。

「ちょっと大事って何よ」と聞いても教えてくれないし、疲れた様子でしつこく聞けなかった。



 ほんとは嫌だけど渋々受けた。だって何だか不安で、菜々が遠くへ行ってしまうとかだとどうしようって思ったから。・・・内緒よ?



  ┈─ガバァンッ 

       とすっ とすっ....


「菜々ぁ来たわよ!昨日何があったの!!?」



 それから家に着くなりすぐ玄関を開け、廊下を抜けて居間へ向かった。すぐにでも不安を拭いたかったんだもん。


「わっ ちょ 早いね びっくりした!?

まずアレ鳴らしてから入ってよキタキツネ・・・」



 菜々はお座りして驚いてた。服を畳んでいたらしい。あと"アレ" ってのは呼び鈴のこと、前にもお世話になった例の。 それと──



  菜々こそ鍵かけなさいと言いたい・・・。


 それより、何があったのか聞いた。

 すると菜々は気恥しそうに口を開く。



「あ、えっとね......一緒に街まで出かけたいと思ってさ・・・」


「え、それ・・・はぁ!??」


 思わず変な声が出た・・・。腹が立ったのではなく、と言うか安心した。けどお話ってそんな事? と思ったから。



 昨日教えなさいよって言いたくなったけど、また少し不安になった。まだ何かあるんじゃないかって。


 わたしって気持ちがすぐ顔に出る性格なのかも。菜々もこちらの様子に驚いたらしく少し早口で言った。



「あ...!! キタキツネごめん、本当にごめんね...。びっくりしたよね・・・その、正直言うとお手伝いして欲しかったんだ...。


 フレンズの管理に大事な物たくさん買うから一人だと難しくて・・・ね?美味しいお昼も一緒に食べよう?」


  美味しいお昼なんて、もう嬉しくない。

つまり荷物持ちを手伝って欲しいってのと、でも純粋にわたしとお出掛けをしたいよう。


 面倒じゃなければ断らない・・・・・・

 いや、断ったかも。



 もしかして菜々は・・・わたしに出向かせるよう、わざと内容を勿体ぶったのか。


 わたしを手玉に取るとは生意気な。

 でもどうしてか嬉し、いや感心した。



「キタキツネは何だかんだ、きちんと来てくれて偉いよ。今までもそうだったよね、よしよし」


   ┈┈なで なで......



 俯くわたしを撫でながらよく言ったもの・・・でも大したことじゃなくて安心した。早とちったわたしもわたしなわけで。


 まー本当に何かあると困るし、たまにはいいと思ったの。これがハメられた内容。



 と言うことで、わたし達は出掛けることに。





 紹介が遅れたけど、ここのパークはヒトとフレンズが一緒に暮らし、都市まであるの。殆ど外に出ないから前は知らなかったけど。


 そんなわたしを菜々は、社会見学として何度か街へ連れ出してくれた。


 恥ずかしい話、初めてコンビニへ入ったときは売り買いが分からず、堂々とその場で食べちゃったのよね肉まんを・・・。


  懐かしい、菜々には迷惑かけたなぁ。



 サーバルは予防接種で留守だから二人で出かける。嬉しい・・・あっ 美味しい物が食べられるから嬉しいのよ! 




  「ん、娘ら 奇遇だな」


 街へはバスで行くんだけど、二人で待合所にいたらキンシコウに会った。待ってる間お話・・・と言うよりわたしはツッコミだけど。

この娘もクセあるのよねー・・・。



「時に、戦前の物資補給と言ったところか。一昔前は、勝つまで欲っしてはならなかったそうだぞ」


 いや戦いにも勝ちにも行かないわよ・・・。


「娘 知っているか?ヒトは発狂して虎と化すらしい。私も いずれ・・・」 ※山月記


 あんた人じゃな─・・・人って虎になるの!?

ぶっ飛んだトークに、菜々は何故か感心してた。それから乗るバスが来たけど

別れ際キンシコウはこんな事を言った・・・・・・



「娘、地は地獄が近い場所。寄ったらすぐ離れるのだぞ」

 

 ・・・なんか意味深、占い師みたい。

いつもと少し違うキンシコウ。だけど──



  わたしは後で思い知ることになる




「っひゃ~危ない寝過ごすとこだった、ありがとねキタキツネ」


 バスで眠る菜々を何とかはたき起こし、都市に着くとお昼過ぎ。賑やかな街中をゆく人やフレンズらを横目に──


「まずはお昼食べに行こっか。肉まん何かよりも美味しいところ、知ってるんだ」



 菜々から言われ、そこで食べたのはオムライス。ビーフシチューみたいなソースがかかった美味しそーな。ふわとろ卵に白いご飯、実際すっごい美味しかった・・・


   ──ハマるっ。



「どう、美味しかったでしょ?だから朝の事は許して欲しいな」


 別に怒ってないし・・・でも素直に言えなかった。わたしもこのツンケン直さないとなぁ。




 それからデパートへ向かった。人やアニマルガールががやがや居て、やっぱり落ち着かない・・・。


実はここ、前に菜々と来たことがあって少し記憶にある。3階建てで少し広め。


 ・─1階は食料品

 ・─2階は着るものとかの衣料品

 ・─3階はゲームコーナー


   が、並んでたわね。



「キタキツネも見て回るのいいけど、ちゃんとついて来てよ。貴方すぐ迷子になるんだから」


 菜々が言うけど、それお互い様でしょ・・・。

買うものがいっぱいあるってことで、まず1階の食料品売り場から付いて回った。


 ただここにも美味しい物があってさ。試食コーナー、お昼食べても行ける魔の境地。しかもアニマルガールは貰いやすいの。



 何故か "酢飯" の試食があった。これすごい美味しくて、後はこれに合う何かがあればなって。お話には関係ないけども。




   ┈┈でも、ここからなの



 菜々と歩いているうち、何だか疲れて休憩所を探すことに。売り場を抜けた先の小さな通路を二回左へ曲がると、これまた小さな鉄扉を見つけた。


 「こんなの・・・前まであったっけ」



 来たとき扉は閉じてた。けど何故かわたしは勝手に開けて入っていたの。ボーっとしてたにしても、 従業員専用って場合もあるのに。



 ・・・自分に妙なものを感じ、でも見回すと少し寂れた感じの空間だった。すぐ先に階段が二つある。右前方が二階、左前方は地下へ。



 エレベーターやエスカレーターを使わない人の通路か・・・けど誰もいない。 "ゴォォォー..." って機械音なのか重苦しい音だけ響いている。



 上への階は明かりが切れかかっているのかジラジラしてた。上下とも20段行かないほどで折り返している。上の階へは左周り、下へは右周り。



 それでここにも椅子は無く、でも休みたくてとりあえず上への1段目で座ろうと思った。



  ・・・・・・ふぅー... よい──あっ


 けども左回りに身体を捻って腰を低くし

"よいしょ" が出る前に、あることを思い出してしまった。


  (菜々を置いて来ちゃった......)

          ┈┈ぽふんっ...


 あちゃ~と思いながら尻尾と尻をついて段に座る。と言うよりデパートへ付いて来たのはわたしの方か・・・。


 だから "勝手に抜け出してきた" が正しい。また迷惑かけるとダメだ、足が楽になったらすぐ戻って菜々に謝ろう。


   そう思った次の瞬間だった


 「──うぁ、痛った!?」


 座るわたしの首と背中がビリビリした。

寒い例えではなく、凍ったタワシをぶつけられたように痛くて冷たい。二階の空気がおかしい



 でも本当に恐ろしいのはここからだった。

立ち上がり、回れ右をして見上げると、何故か二階の出入り口に巨大なチェーンが掛かっていた。


 そのチェーンの真ん中あたりに古い紙の札が下がり、そこには赤く乱暴な字で



      "反 禁止"


 と大きく書かれてた。 "立入禁止" ではない。ワケ分からないがヤバいのは分かった。二階は売場なのに、真っ暗で妙な気配がするし空気も違う。



 気配は・・・ "磁場が乱れてる" から。つまり普段の場所と違う。思えばこの空間へ来た時、ガヤガヤ音がいつの間にか消えていた。



  ...!  ここに居るとマズい!!


 今度は強烈な寒さを感じ、元の鉄扉から出ようと急いで身体を向ける。けど思わず動きを止めた。恐ろしいことはまだ終わっていなかった



   あっちの出入口で何か光っている


 わたしのお腹ほどの高さに赤くボンヤリ。ビビりながらも目を凝らすと・・・・・・火が燃えている。

さらにその下にも黒くて太い棒が見えた



 ・・・分かっちゃった "黒いロウソク" だ。お股の高さほど長さがある、いつの間にか道を塞ぐように。

"アレに絶対近づくな" わたしの勘は言ってる。


   同時に左側からも違和感が・・・



  「う゛っああぁ!!?」


 ろっ骨が捲れそうな叫びで、後ろへ離れて尻もちをついてしまった・・・。左の壁に泥がこびり付いていた、ひどい異臭


 さらに後ろでトロトロと湿った音が。

へたってビクビクしながら見ると、まず地下への階段が右側に見えた。その真っ直ぐ先の壁から、同じく臭い泥が壁からゆっくり流れていた。



  ┈┈うあ...ぁ、ヤバい、ヤバい......!!


 歯がガチガチしてもう涙が止まらない。

怖いのもだけど、何故かこの時のわたしは菜々に謝りたくて仕方なかった。悪い娘でごめん......



 でもそれにはまず此処を抜けるべき。人ってね (フレンズだけど) こういう怖くて動けない時こそ、助かる事への勘は鋭くなるの・・・


   わたしはそうだった。


 肉まんを鼻で探す時より脳をフルフル回転で観察すると、此処・・・見ている方向は何も起きないのが分かった。


 つまり、背を向けた側が別次元になる。


1・座って二階へ背を向けた時(痛い空気)

2・首元がビリビリし二階を見上げた時

3・その後に出入り口を見た時

4・壁のヘドロを見て後ろへへたった時


 1.初め、二階から妙な感覚はなかった。

2.ここで出入り口に背を向け黒ロウソクが出た。3.確か逆時計回りで今の左壁を背いた。4.その背後のドロドロ。



 二回ほど背を向けるとすり替わるようで、それ以上は分からない。むやみに方向転換できない。


 ちなみに天井を見ると、足元に赤い花びらのような物がいつの間にか数枚。でもよく見ると、何かの剥がれた爪だった・・・。喉がスースー......


  お昼のオムライス吐きそうになった。



 ここまで尻もちをついたまま考えたけど、出入口も二階にも絶対行けない。あと足元を見たから、天井もおかしくなってるはず。見てないし見たくない。


 菜々が来るまで待とうと思ったけど、空間が違うと隣に居ても気付けないんだって。菜々のお話で聞いた。


 無事に行けそうなのが地下・・・でもキンシコウが言ってたけど、下は危ないらしい。でも此処に居てもきっと飲み込まれるから行くしかなかった。



  どうしたものかな、ごめんね菜々・・・。


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