[アミメキリン] きれいな鳥の巣と十三階段 <長>
此処はロッジよ、よく来てくれたわ!
あ、正しくはロッジアリツカだった・・・前にも訪ねたことある?だとしたら被疑者、、失礼、嬉しいわ!
ずばり怖いお話を聞きに来たのね?
ここのオーナーであるアリツさんは今留守なの、先生も・・・。
んー じゃあこうしましょう。
嫌なことを思い出すけど、今回は
私こと "アミメキリン" がお話しするわ。
お話する前にひとついいかしら。
自分が何者か、考えてみない? 私と一緒に。
おいでなさい。私のお話聞かせてあげる。
──┈┈
事は、とある怪奇現象から後の話。
思い出すわね、ちょっぴり首が痛むけど。
それより前に、オオカミ先生があるお話をしてくれたの。私からいい顔と発想をいただくため。そこからまず聞いてくれると嬉しいな。
┈┈┈┈┈┈
夕日が差し、オレンジに染まる部屋の中。
先生は休憩しつつ、部屋の窓から外を指差して話しかける。
「キリンあれをごらん、 "階段" があるよね。これ、幾つかやってはいけないことがあるんだ」
ちほーによっては知らない娘もいる階段。
このロッジには、中も外にもたくさんそれがある。パークで最もあるかもしれない。
んー それにしても
先生のお話は唐突に始まる。相手が構えていないからこそいい顔が見れると考えてるみたい。
でも残念、今回は私にも覚えがある内容。
階段については調べたことがあって、少し得意気にそれを聞かせてあげることに。
┈"別次元へ通じる13段の階段"
文字通りの階段、普通に上るのは大丈夫。
だけど 1..2...13 って数えながら上ると、何処かへ飛ばされて元に戻れなくなるらしい。
ほら貴方、近くの数えちゃだめよ。
としょかんの本によると "断罪" 前に歩く段数。分かるかしら、この数自体がまず不吉なの。減ってはいるけど13段って今も普通にあるらしい。ロッジにはないって聞いた。
「おっ、先を越されたか。流石だよキリン」
ちょっぴり照れる、私が調べたお話。
┈┈┈───
長くなったけど、ここからよ。
前に先生の発想が、怪奇現象として私たちを襲ったことがある。アリツさんは目を怪我し、私は首を吊り。
その事で先生は負い目があったようで、作家を辞めるべきかと仰った。
私はもちろん、アリツさんも引き止めた。
偶然のことで先生は何も悪くない。
唐突にさっきの13階段を思い出す。
何故か先生もちょうど思い出したという。
それから先生が慌ててロッジ内を確認。
幸い1階から3階、外や一部地下もあったけど全て13段はなかったよう。
けど今思うと、もし数えて13段あったらどうするつもりだったのよ先生・・・。
一方、あれからアリツさんはどうも視線を感じるらしい。この時は様子を見ることに落ち着いた、変なことは起きてないようだし。
・・・・・・
でも本当に突然、それは起こった。
何でかは分からない、しいて言うならこの日は雨が降ってたってとこか。
大体1ヶ月後くらいしたある日。
この日は先生と就寝することになった。正直嬉しい。共用のお部屋だけど、彼女の徹夜が多く一緒の時間に眠ることは滅多になかった(ベッドは別々)。
「筆と紙はたまにお休みさせないとね」
キリンは睡眠時間が短い、つまり私も。
だから同時に起きると言うことも中々ない。
「先生もよく休んでください、では」
普段のお話を少しして、いつの間にか眠りについていた。疲れてか眠りは深かったと思う。時間は見れなかったけど
┈┈
┈──( ん、うーん... )
雨音に目が覚め、まず見えたのは暗い天井。
いきなり異変が起きる。掛け時計を見ようと、仰向けから寝返りをするが──
┈┈あれ? ...んっ あれ??
動けない、ベッドと同化したように。
これは金縛り.....ただ、大して驚かなかった。身体が疲れていると起こりやすく、私や先生も実は何度か経験ある。お陰で先生はインスピレーションが働き、私も変な耐性が付いていたのかも。
先生のベッドまで首が回らない。そのうち解けるかなぁと呑気に思い、目先の天井を眺める──
・・・
・・・・・・
──サァー......。
──サァー.......
外の雨音、3分は経ったが動けない
首はいいとして、口は動かない 声も出ない....
やっと普段と違うかもと思い始める。
布団の中で、両脚は閉じて両腕を広げた格好の私。変な話、まだ怖くはなかった
この時までは。 一瞬、
"シュウッ" と風を切るような音が聞こえた
次の瞬間
──ガシャアンッ!!
" !!? "
頭のてっぺん方向から強烈な割れる音
心臓が体内で跳ねた、それこそ身体ごと持ち上がるんじゃないかってくらい。
花瓶が 落ちたらしい。
何かいるようだ・・・先生、ではない?
自分の心音が耳までよく届く。
眠っている間何かがずっといた? 月の光はなく、部屋も真っ暗。だけど、天井越しに影が見えた。身動きも取れない中でこんな・・・
┈┈┈┈┈┈
┈┈┈
┈┈┈┈
花瓶が落ちてから静かになった・・・が、
目がよく見えないから、感が冴えてたんだと思う。まだそこに何かいる感じがした。
私 これ相当 ヤバいかも
と、思った次の瞬間──
──ブチッ "痛きぁっ!?"
針が刺さるような痛みを頭に感じ、仰向けのまま身体が小さく跳ねる。頭の中で言葉にならない叫びがでた。
姿を見ようにも、やはり身体の自由が利かない。いや、刺されたと言うより・・・
──ブチッ.. "あだ!?" ブツ ッ....
ブツッ... "いっ!"
ブチッ.... "ひいィ..." "いっ...ぃ..!"
連続で痛みが走る。
・・・何をされているか分かった
──毛だ、髪の毛を抜かれている
何かが頭から私を犯している。
今日まで安心しきっていた。呼吸が荒くなる。
はっきり言って だめ ヤバい
┈┈ハッ ハッ ハアッ ハアッ
過呼吸で死んじゃいそう
抜かれ続ける中、あることを思い出す。私がさっき話した十三階段のお話・・・その後、先生もお話してくれた内容。
──┈◆
┈┈
私が話を終え、薄暗くなる部屋に先生と二人。電気をつけようと私が席を立った時に先生は口を開く。
『同じ13階段のことだけど、私も少し違うお話をしてあげる。電気はまだ付けないでいいよ』
そう言い、先生は静かに話し始めた。
・・・・・・
┈┈"生贄を求める13階段"
これは室内だけで出来るおまじない。
13階段を真っ暗にし"6段目"
"真ん中" に "3人以上の髪の毛" を
丸く大きく、真ん中を窪ませて置くと中に
『あちらのモノ』が現れると言う。
あ、"下から" 6段目だよ と付け足す先生。
『あと抜いた毛を使わないと効果がない。
大きな "鳥の巣" を作るんだ、髪の毛で』
耳を疑った、髪の毛で鳥の巣・・・?
むしり取るかしないと、出来るはずない。
根の残る髪は霊気を惹くらしい。それを利用するんだろうけど・・・正気とは思えない方法。
あえて動揺を隠して聞く──
『・・・それって何を引き起こすので?』
ロクなものではない、けど気になった。
先生はとんでもない答えを口にする。
『誰かの願いを叶え、拾った者が不幸になる。
死ぬより苦しいほどに』
・・・恐ろしかった。
┈┈ "死んじゃわないど私ぃぃ!!"
死んだ方がいいと思ったことが私もあるけど・・・身震いする。
しかも見るとほぼ拾ってしまうと言う。
魅入られるのか、憑りつかれるのか。後はそのまま上ることだけ考えてしまい、『あっち』に引き込まれる。
ん、じゃあ・・・
『ソレが出現したら誰か確実に終わりでは』
『助けてもらうんだ。二人以上なら片方が上らせないようにして・・・助けたいなら、ね』
素早い返答だ、回答を予想してた?
それに "助けたいなら" ・・・意味深な言い方。
『フフ、教えてあげるよ。
見捨てれば誰かが幸せになるんだ』
『なっ 疲れてるのは分かりますが、そんな怖い事言わないでくださいっ!』
冗談だろうけど、少し冷たい目をしていた覚えがある。"良い顔だね" と言う先生。
ところで──
『どんな・・・モノが置いてあるんですか?』
すると先生は、しかめた顔で答える。
「箱だよ、開けてはいけない。中には、
うーん秘密♪」
思わずズッコケそうになる私。
『ぇ、え?それってどういう~──?』
『あっはは!ヌけた顔もイイね、もらった!』
・・・先手を打ったのに、一杯食わされた。
聞くに "ホラー探偵ギロギロ" の構想らしい。
セン・・・ギロギロが建物の13階段でそれを見つけ、確認のため拾ってしまい.....
と考えていたようで。
開ける、となると箱のようなもの? 先生、秘密って言ったけどまだ考えてないのかも。
生贄かぁ、と思いつつ聞いたお話。
┈─
───
『"鳥の巣"のような形┈┈』
作り話として聞いたはず。
けど、もう笑いどころではない。
"はッ.. イっ ぎぃ いっ やだぁぁァ!!"
いよいよ私は癇癪を起こし頭の中で喚く。
端から見ると、仰向けですごい顔をしてるようにしか見えなかったと思う。
けど、そのうち目に光を感じ・・・
野生解放の状態になったらしい。
すると自分の息遣いしか感じなくなった。気配が消えた、ようだ・・・。ここからの記憶がない。
┈┈┈───
┈┈┈───
( ハッ! ) ──ガバッ
┈┈"ハアッ.... ぅ.. ァ....ぁ...!!"
──......
どれだけ経ったか勢いよく起き上がった。息も上がり、汗で身体が湿っている。
夢かと思ったけど、頭がチクチクするし花瓶も粉々。気を失ってたようで身体がだるい。
残念だけどまだ朝ではなかった。
暗い部屋、確認するためずりずりと重たい身体を起こし、スイッチまで辿りつくけど指が震えだす。
だって、とても怖くなった
"明るくしたら何かいるかも" って。
──パチン
目が眩んだだけで何もいなかった。
ホッと胸を撫で下ろしつつ、お部屋の確認をと思い出し動く。
先生もいない・・・布団、ぐしゃぐしゃ。
掛け時計の短い針は4を少し過ぎたくらい、私にしては長い眠り。
┈┈ザァーー....
外は真っ暗で相変わらず雨の音がする。
さらに見渡すとあるものが目に入った。近づいて見るとテーブルのジャパリまん、いっぱい虫が湧いている。
"え、何これ・・・"
よく見ると虫ではなかった。
虫に見えたのは藍色の "髪の毛"
・・・先生のだ。見ると黄色い毛も混ざっている。私かアリツさんの?
でも間違いない。ここに13の階段はないと聞いたけど、まだヤバいことが起きている
──バタン....
先生とアリツさんを探すことにした。ここは2階、出ると廊下が左右に広がっている。
廊下は最低限の明かりだけでとても静か。
左へ向かおうとして、 あることに気づく。
┈┈サァー.....
・・・何か、部屋と比べて廊下での雨音が遠い。隔離されたような。
「先生?アリツさん?おりませんかー!?」
取り合えず2人を呼んでみる。
お客さんはおらず、少し声を大きめに叫ぶが足音とか全く聞こえない。アリツさんはライト持っているしすぐ分かるはずだけど
──ギィ... ギィ....
軋む階段を降り1階のフロントに着く。
アリツさんはいない。
(3階かしら・・・? 行きたくないのにな)
ふと思った、アリツさんって何処でお休みしてるんだろう・・・それは後で聞くとして。
1階の "ふわふわ" "しっとり" ・・・部屋には誰もいない。何か居ても怖いけど。
──スタ... スタ....
静かな廊下で私の歩く音だけ響く。
アリツさんは視線を感じてたらしいけど、私は感じたことがない。さっきのことがあっても今は感じない。鈍いだけ・・・?何か違う気がする。
そういえば、とうとう雨音が聞こえない
・・・・・・
1階反対側の階段にたどり着いた。
此処は地下への階段とまた2階へ上る階段がある。どちらへ行くべきか
少し考えまず地下へ行くことに。狭く見通しがいいから。いなければ急いで引き返し、2階。
けど、地下への段を踏んだその時
┈┈..ぃち...
・・・何か聞こえた気がする
┈┈にーぃ....
┈┈さーん....
またすぐ聞こえ、心臓が凍るかと思った
数えるような秒読み、上の方から。
かくれんぼをする時のアレに似ている
(・・・今の声って)
「先生!いるんですね!?」
ダカ ダカ
ガタ ダカッ
転びそうになりながら2階へ辿り着くが
┈┈ごーぉ... ろーく....
まだ上から声が聞こえる、3階・・・
最近は行かないようにしていた、3階
"みはらし" 部屋があるから。近づきたくもない、首を吊らされた場所なんか。
けど、状況が状況。行かないと後悔する。
進むべきと顔を上げ、あることに気づく。
6から後の声が聞こえなくなった
何故かまた13段を思い出す 確か──
6段の中心に となると
もしかして、秒読みなんかではなく
"段を数えていた・・・?"
怖いと思いさらに3階へ急ぐけど、
先生はまだ見当たらなかった。3階の何処から周るか考えようとしたその瞬間、
──ゾクッ....!!
左背後から刺すような空気を感じた。
思わず振り向くと、後ろには閉じた赤い木の扉。中は部屋ではなく掃除の用具入れになっている。
隙間風ではない。この先に窓は無いはず。
不吉、凍ったペンが目に飛んできたような感覚。
・・・あれ?
いつの間にか扉が半開きになっていた。中が少し見えるが、明らかに用具入れではなくなっていた。
階段が見える、上への。この地点でおかしいけど、まずここ3階建て。4階は存在しない。屋根裏部屋ってのも此処にはない。
怖くて頭が冴えたのか、もう色々分かった。
まず、知ってる場所ではない。アレは多分13段あって、オオカミ先生はきっとこの先。
つまり・・・
怪奇現象が13階段を強引に作り出した。
となると、先生は "断罪" されちゃう。
でも私全然分からない、先生がなに悪いことをしたって言うのさ。と言うか断罪って何よ。
何故か怖さよりも、この理不尽な状況に対して怒りが湧いてきた。
「だあぁぁ もうっ!!」
もういいヤってやる、とだけ考える。
──バガァンッ ッ
半開きの赤扉を蹴破って中へ入るが・・・
この時は勢いに任せてたけど、まず目に入ったのは、やはり真っ黒い階段。先生の話では、周りを暗くするって言ってたけど、これはもう階段自体が真っ黒。
さらにありのまま様子を説明すると・・・
・窓はなく壁はロッジと同じ木造り
・階段は真っ直ぐ向こうまで続いている
・真っ赤な光が向こうから漏れている
先生がいた、9段目辺りをゆっくりと。
上りきると戻って来れなさそう
「待っててください、今向かいますから!」
ダン ダン
ガタ ダカッ
段を数えないように上る。走りながら確認したけど、先生は私の声に反応しない、意識が無いようだ。
──キリキリ.... キリキリ...
──キリキリ......
ラップ音か、カッターナイフを出すような音が聞こえる。 不安でどうかなりそう
6段目には大量の髪の毛があった、大きな鳥の巣のような。蹴っ飛ばそうと思ったけど・・・何だコレ
気持ち悪い。一つ一つ 毛に色がついていた
フレンズの髪は、ほぼ色がついてるから。
ここに来るお客さんの毛を少しずつ集めて作られたようだ・・・吐き気がした、触りたくもない。
一つ思う、これは先生が集めたのか?
いや多分そうではない、趣味が悪すぎる
先生へ近づくにつれ、両手を斜め前へ掲げようにして何か持っているのが分かった。
大きめの・・・いやだめだ見てはいけない。
何となく分かる、この世の『モノ』ではない。
"連れ戻したいなら" と先生は仰ったけど、やっぱり私はそうしたいと思った。
──がばっ
「はぁ..はぁ... 捕まえた!さぁ...帰りましょう!」
あと2段ほどで『あっち』へ上りきるところで追いつき、息を切らして先生の腰にしがみつく。危なかった。
覗くと、光で先生の顔は赤く染まっている。
意識が無さそう。私に構わず顔は先を向き、目は虚ろでどこを見てるのかよく分からない。口もだらしなく開けて何だか苦しそう・・・
そんな先生を見て、変な気持ちになった。
4階の向こうは、これも赤い光で先は全く見えない。と言うか見ていられない。目が焼けそう、熱い。
"はっ やば!?"
何故かボーッとしてしまい、見てしまった。
目線の斜め下、先生が持っている『モノ』
話通りだと私も侵される ・・・?
・・・はずだけど、どういう訳か異常なかった。でも触るのはマズい。注意しないと。
先生は "黒い卵" を持っていた。
私たちの顔よりずっと大きくおぞましい。見ていると吸い込まれそうで、上が割れてしまっている。中身も真っ暗
箱ではなく黒い卵・・・
「イィィィ──.....ヒィィィ─...」
──ドガ ガガタンッ
" くっ!? "
先生が前のめりに倒れこんでしまった
押さえてるのに、掠れた声をあげながら無理に上ろうとして・・・。角に身体を打たせないよう、すかさず私の腕を下へ回し押さえる。
黒い卵を前へ叩きつける形になったが壊れず、先生はそれでも手を放さない。そんな硬いものがどうして最初に割れていたのか不思議に思う。
けど、次の瞬間....
「がぁ.... ぅあっ... ぁァ.... ゲェェ...」
「え、先生・・・? 先生!?」
両手を前へ伸ばしたまま黒い卵を持ち、突然階段にうずくまった状態で苦しそうな声を上げる先生。様子がおかしい
──キリキリ.... キリリ...
──キリキリ......キリキキ.....
さっきの音が聞こえる。黒い卵は割れた上の部分がいつの間にかこちら側を向いていた。私はこれから恐ろしい体験をする事になる。
「....ごぉぁッ ぼぁ!!」
吐くときのような声を上げだす先生。
段では負担かかるけど、寝かせ見ると
舌を伸ばしていた、口を大きく開けて。不自然にピンとして
弱い力で引っ張られている・・・?
ベロが 物凄く嫌な予感がする
「先生・・・? ぇ!何してるんですか!?」
「ぁがが...あぁ... かっ.. ア ぁ....」
┈┈
先生の役に立ちたくて、博士を訪ねたことがある。そこで偶然ある本を読んだの。
この時は関係無いと思った内容
┈┈┈? 舌を噛み切ると ?
よく覚えてないけど、噛み千切ると
血でいっぱいになって舌が喉を塞いで
死ぬんだって。
死んじゃうんだって。
┈┈
まさか って思った
「ァ.... ァァ ゲェッ....!!」
「ぁ 先生!?うぁぁァァァ!!!」
──ァぇゲッ ブジャアッ....
この時の音はとても表現できない。
血の通った柔い物を噛み潰す音。先生は自分の舌を勢いに任せ噛み千切る。
・・・・・・
「ハッア..! ア゙ァァーーー!!!」
「おごごおッ....」
それを、何とか阻止した
私の両手指三本ずつを、先生の口に突っ込んで。ベロの上下に挟める形で。
そんな事できるのかって思うけど、出来た。
口を大きく開けていたし、ヤらせてはいけないと思った。けど・・・
「痛い 先生ェ!!! ガぃ ィ ヤ゙ァァァ!!」
私の指に先生の鋭い歯が、ベロの代わりに深く食い込む。両指からは血が流れ、骨まで痛くて私こそ眩暈で胃から色々ブチまけそう
「いいィィィひ.....痛いです先生ぇ...!!」
情けない話、涙がぼろぼろ止まらない。
段に対して直角、二人で向かい合わせに倒れたまま、気が別にならないうち先生の口をこじ開けようとする。
「ぐぐ、ぉおっ..あぁ...く....!!」
けど先生は全く力を緩めない。
いや、憑かれているんだ。先生は元の力が強く、このまま私の指を噛み散らしベロごと噛み落としちゃうんだろう。
先生の両手に目を向ける。
相変わらず黒い卵は両手に持ったままだ。
「ぎッ、、このぉ! このぉ!!」
向かい合わせに倒れたまま、両手は塞がってるからどうにか脚を上げて卵を蹴るが手元を離れない。
それと私はもう、触ってはイケないはずなのに脚で触っている
──けど、分かってしまった
これ、先生が手放さないんじゃない。
黒い卵が手に貼りついてしまっている
涙が止まらない。指が千切れそうなのもあるけど、もう一つある事に気づいた。
──ズザ...
ザザザザ.....
黒い卵が少しずつ上へ引き寄せられている、吸い込まれるように。貼り付いた先生もそれにつられ引き摺られている。
上からは赤い光、目が焼ける
「ヒィィひ....ハァ!! アァァァ..」
足で先生にしがみつく・・・だめだ
角にぶつかりつつ私ごと引きずられる。
私の中で、何かが違っちゃいそうだ。
『先生に食べられ、ひひ..それもイイっか』
もうワケ分からなくなっていた。
いっそ好きにしてどうぞって感じ。けど・・・
『....ィンさんっ!それにオオカミさんも!?』
もう耳鳴りで良く聞こえなかったけど誰かが私らを呼ぶ声。バサバサって聞こえたと思ったら下の段から誰かが・・・
「あぁぁ.. ふぅひひ... アリツさん....?」
さっきまで居なかったアリツさんが、飛んで私らの所へ来てくれた。
けど薄れる意識である失態に気づく。
話だと、助けるには『モノ』を持った娘を上らせないようにするって聞いた。
じゃあ・・・
上らせなくした後どうすればいいのか。
「ひっ.... 私に任せてください!」
一瞬アリツさんは何かに驚いた。
目線は先生の頭の上、私の様子にも少なからず驚いただろうけど・・・分かってしまった。
掲げてる黒い卵だ 見ちゃダメなのに
"いっそ皆でパーっとイっちゃおう"
私の頭は完全に諦めちゃった
けど、アリツさんはそんな様子ではなかった
「──ぐむっ ( スウッ ) ぶふーッ!!」
アリツさんは持っていたコップへ水と白い粉を混ぜ、それを口に含み黒い卵に勢いよく吹き付けた。
さらにアリツさんは私に言う。
「"お帰りください" って3回その卵に!
もう少しだけしっかりしてください!キリンさんが言わないとダメなんです!!」
何故かアリツさんは的確に指示をだす。
意識は薄れ、頭も回らないのが好都合だった。すぐに言葉を絞り出した。
「お帰り...ください.... お帰りくだ..さい
お帰り....くださ....い」
3回目を言ってる間、意識が飛びかけたけどどうにか言い切る。けどその先の記憶が無い。
気を失ったんだと思う。
ただ、例えがたい音を聞いたのは覚えてる。
"ベリベリ" って生きた皮が剥がれるような。
オオカミ先生、無事ならいいけど・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます