第14話 元引きこもりは再開を果たす

 私、三雲茉莉みくもまつりはただくらいだけの階層を機械人形ゴーレム雪姫ゆき胡桃くるみちゃんと並んで歩いている。

 私はさっきの休憩のときに作成した杖の魔道具まどうぐ、『夕焼ゆうやけ』を抱えて歩いている。

 雪姫は剣の魔道具、『紫陽花あじさい』を軽々と振り回しながら進んでいる。危ないからせめてもうちょっと離れてやってほしい。

 ちなみに魔道具っていうのは、ユニーク以上のスキルが付与エンチャントされているものを指すらしい。その付与されている能力は誰にでも使えるんだって。恐ろしいよね。


 みんな私が魔法も使えないのに夕焼けを抱えているのが気になる?

 なになに? うんうん、気にならない? ガチトーンでそんなこと言わないでよ……。


 なんて思ってるか当てようか?


「そんなのいいから早く説明しろよカス」みたいな?

 やっばい自分で考えてたら泣けてきたわ。


 そろそろガチでキレられそうだし説明するよ。

 

 私ね、雪姫と胡桃ちゃんに初級魔法を教えてもらおうと思うんだ。

 雪姫も胡桃ちゃんも後で合流する(予定の)モントもみんな遠距離からの攻撃手段が無いからね。ちなみに近距離は『紫陽花』で雪姫と胡桃ちゃんが順番を決めてローテーションを回していく予定だよ。

 それに、モントと合流したときに強くなった私を見て、驚いてもらいたいんだ。

 ということで何もないここで教えてもらおっかなって思ったわけ。


「よろしくね、茉莉!」「頑張って、ついてきて」


「はいっ、師匠!! がんばりますっ!」


「いい返事だよ、茉莉くん、それじゃ君に一つ質問だ。精霊に関係するスキルは何か持ってるかな?」


 雪姫が偉そうな学校の先生の真似してるの可愛いんですけど……笑わないように我慢……。


「はい!【精霊使い】というユニークスキルを所持しております!」


「それなら楽に魔法が使えそうですね」


「……」コクコク


「まずは茉莉くんのイメージしやすそうな爆発魔法から説明しよう。というか一つ覚えればあとは簡単なんだけどね」


「茉莉、ファイトっ」


 いきなり爆発っていきなり物騒だなぁ二人共。

 普段からそればっかり使ってるししょうがないよね。


「爆発の魔法、『爆炎・一式』は、火、風、破壊の精霊に力を貰い、発動する魔法です」


 破壊て……これまた物騒な。


「この三種の精霊のなかで一番制御が難しいのはもちろん最後に言った破壊です。では何故、制御が難しいのでしょうか?はい茉莉さん」


 あ、呼び方が『くん』から『さん』に変わった。


「自分が一番強いと思ってる思春期に見られる、中二病という病気に感染しているからです!」


「中二病……? よくわかりませんが正解です。あと病気には感染していません。精霊は病気になりません。話がそれてしまいました。破壊の精霊達は自分こそが最強だと思っているのです」


 なんて迷惑な……。


「その自分こそが最強だと思いこんでいる破壊の精霊に、茉莉さんがすることはただひとつ! 


 私魔法使えそう……? モントが驚く顔が目に浮かぶ。


 「その点茉莉くんは問題ないでしょう。力は十分にありますからね」


 あ、『くん』に戻った。お腹痛い、こらえるの疲れた……もうちょっと、もうちょっとだから耐えて私!!


「さぁ、やってみよ――」


「まって雪姫! もう我慢できない」


「どうしたんだね茉莉くん」


「あはははははははははは――――!!!」


「もーどうしたの、茉莉ー。授業中だよ?」


 やっと元に戻ってくれた。


「雪姫可愛かった」


 心からそう思う。頑張って教えてくれる姿が可愛かった……。胡桃ちゃんは……?って思って視線を向けると、丸くなって眠っていた。

 うん、胡桃ちゃんもかわいい……。


「ふぇ!? 雪姫可愛かった!? そ、そんなことあるような……無いような……やっぱりあるような?」


「あーもう雪姫可愛いよぉ、なんでそんなに可愛いの?」


「茉莉―、話が進まないよ―」


 おっと、いちゃついてる場合じゃなかった。


「そうだったね、ごめんごめん」


「あとで『続き』よろしくね? じゃあ授業を再開するよ―?」


「はーい」


「精霊を行使するには力を見せなきゃいけない、詠唱の強さ、本人の心、体の強さ、とにかくなんでもいい、一つ勝てれば十分。詠唱するときには、使用したい魔法と、その結果を想像すれば成功しやすくなるの。ちなみに勝つのは最初の一回だけでいいんだよ」


 雪姫がいいたいのは、勝つのは詠唱するときでもいい。って言うことかな?


「じゃあ茉莉、やってみようか私に続いてね。――火の精霊、風の精霊、破壊の精霊たちよ、我に全てを飲み込む力を与えよ――」


 私は夕焼けを構え、雪姫に続いて唱える。


『――火の精霊、風の精霊、破壊の精霊たちよ、我に全てを飲み込む力を与えよ――!!』


「そこで爆炎って叫ぶ――!!」


 雪姫が叫んだ。


「『爆炎・一式』!!」


 力いっぱい叫んだ。喉が張り裂けそう。自分で精霊を操っているのに流されそうになる。台風の中に居るみたい。

 夕焼け強すぎぃ……。

 ――なんて強い風なんだろう。思わず意識を手放しかけた私を雪姫が支えてくれる。

 私の声が迷宮に響く――。

 次の瞬間、私達の居るこの階層は迷宮から消えた。――。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 わたしはモント。茉莉を迎えに行くために迷宮ダンジョンを逆走しているの。

 突然のことだった。


「あはははははははははは――――!!!」


「もーどうしたの、茉莉ー。授業中だよ?」


 誰かの声が聞こえてくる。一人はすぐわかりました。大声で笑っていたのは茉莉です。でも、もう一人の子は誰なんだろう。見に行けばわかりますよね……。


「雪姫可愛かった」


 ひと目見てわかりましたが茉莉ですね。

 どうやらもう一人の子はゆき、というらしいですね。

 目を凝らすともう一人、女の子が近くで丸くなって眠っている。


「ふぇ!? 雪姫可愛かった!? そ、そんなことあるような……無いような……やっぱりあるような?」


「あーもう雪姫可愛いよぉ、なんでそんなに可愛いの?」


 居心地が悪いんですけれど気のせいでしょうか……。先程茉莉に会いに出ていかなくて正解だった気がします。もう少し待ちましょうか……。


「茉莉―、話が進まないよ―」


「そうだったね、ごめんごめん」


「あとで『続き』よろしくね? じゃあ授業を再開するよ―?」


「はーい」


 授業……? 何のことでしょうか……。


「精霊を行使するには力を見せなきゃいけない、詠唱の強さ、本人の心、体の強さ、とにかくなんでもいい、一つ勝てれば十分。詠唱するときには、使用したい魔法と、その結果を想像すれば成功しやすくなるの。ちなみに勝つのは最初の一回だけでいいんだよ」


 なるほど茉莉はわたしに褒めてもらうために魔法を習得しようとしているようです。

 何故こんなことがわかるんですかって? 勘ってものですよ。伊達に長生きしてませんからね。


 などとわたしが考えていると何やら声が聞こえてくる。


「なんでしょうこの妙な胸騒ぎは……」


 声はまだ続いている。


『――火の精霊、風の精霊、破壊の精霊たちよ、我に全てを飲み込む力を与えよ――!!』


 ――マズい。

 直感的に判断したわたしは、魔力結界を用意する。

 やがて茉莉が魔法名を唱える。


「『爆炎・一式』!!」


 あの小さな体からどうすればこの声が出るのだと言うほど茉莉の声は力強かった。

 ――いけない。そんな悠長にしてられない。

 わたしは用意していた魔力結界で茉莉とそばに居る女の子二人、そしてわたし自身を包み、守る。


 やがて『一式』による爆発が起きた。

 茉莉の使用した魔法、『爆炎・一式』はこの階層全てを一瞬で消し去った。魔力結界には亀裂が走っている。


 わたしは茉莉の元へと歩く。茉莉の意識は有るようだ。


 近づいてくる足音に茉莉が気づきこちらを見る。そして硬直する。


「凄いですね、茉莉」


 茉莉は目を輝かせ私の名前を呼ぶ。


「モント!!」


 彼女の眼には涙が浮かんでいた。とても綺麗でした。

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