第5話 元引きこもりは大図書館に行く

持続力じぞくりょく】【忍耐力にんたいりょく】を手に入れた。

 だ。

 これで私の持っているスキルは3つになった。

 先程の2つと、私が転移する直前に手に入れた【智慧者ちえしゃ】という思考を100000倍にまで加速させるスキルだ。これは本当に便利。

  

【持続力】【忍耐力】のスキルの効果についてはまだわかってない。

 だけど、これから大図書館でスキルに関する情報を探そうと思うんだ。


 大図書館で知りたいことは2つ。


 新たに取得した、2つのスキルの能力とその有用性。 


 何故私が、ユニークスキルを2つ以上取得できているのか。

 


 もし、新たに取得したスキルが戦闘向きのスキルなら、練習を積んで熟練度を上げれば、魔人族なんて楽に倒せるようになるのかもしれない。

 流石にそれはないかもだけど……。


「……着いた」


 大図書館に着いた。

 利用するのは初めてだけど、ルールやマナーは日本とさほど変わらないと思う。

 

 無言で扉を開き大図書館に入る。


 司書さんらしき人が近づいてきた。


 次の瞬間私の体が一瞬硬直する。

 その人の顔に既視感デジャヴ……いや、懐かしさを覚えた。

 でも私の知り合いにこんな顔の人はいなかったはず……。

 

「あなた、ここに来るのは初めて?」


 鈴を転がすような声とはこのことだろう。

 聞く者にストレスを与えない優しさ、安心感を持たせる、そんな声だ。

 思わず夢の世界にトリップしちゃいそう。

 と、私が声に惚れていると、司書さんは「どうしたの?」と首を傾げている。

 ちょっと違う世界に行ってました、なんて言えるわけもなく、


「あ、いえ何でもないです。それと、ここに来るのは初めてです。その……調べ物をしたくて……」


 と――私的に――100点満点の返事を返す。

 

「そう……?ならいいんだけど。初めてきたんだっけ?私は『赤坂あかさか 花乃かの』。なんとなくわかってると思うけどあなたと同じ日本人よ。10年くらい前に召喚されてきたの。あなたは確か……この前こっちに強制転移――じゃなくて英雄召喚された三雲茉莉みくもまつりちゃんね?」


 強制転移て……。あながち間違いじゃないけども。

 

 ていうか若すぎない?連れてこられたの何歳のときよ……。

 そんな私の考えが顔に出ていたのか、赤坂さんが、


「あ、ちなみに私17でこっちに来てそれから歳を取ってないの。今年で30? になるはずよ」


 この世界って召喚された人間は歳を取らないんですかそうですか……。

 私はずっとこのまま……嫌ってわけじゃないけれど……なんだかなぁ。


「この世界って召喚された人は歳を取らないんですね……あ、私はここに来て二週間になりますね」


 なんだろう……この人となら仲良く馴れそうな気がする。

 なんてったって同じ故郷の人だからね。

 その故郷に信頼できる人間は居なかったけどね。


「それで三雲ちゃん、ここには何を調べに来たのかな?」


 赤坂さんはそう言って私に尋ねてきた。

 そうだった。新しく取得したスキルとその情報、そして私が複数のスキルを所持できている理由について調べたいんだった。


「えーっと、新しいスキルを手に入れたんで、その能力を調べに来ました」


 そう尋ねると赤坂さんは驚いたように目を見開き、


「――えっ?」


 うん、知ってた。

 そうなると思った。


「三雲ちゃん、もしかして……新しいスキルって……ユニーク……なの?」


「そうですねはい、スキル名は【持続力】と【忍耐力】です」


「2つも……三雲ちゃん……なんて恐ろしい子なの……!?」


 何処かで聞いたことある気がする。

 でも今は他のことが知りたい。


「おっとぉ、違う世界に心が飛んで行っちゃうところだったよ。でさ、その新しい2つのスキルの能力について知りたいからここに来たってことね?」


「はいそうです。何処にスキルのことが知れる本が置いてありますか?」


「あ、その必要は無いわよ?」


 ――え?


 今度は私が驚かされた。

 赤坂さんが知ってるってこと?

 でもユニークって一つしか無いんじゃ……。図鑑なんて無いよね?


「私のユニークスキルは【解析鑑定かいせきかんてい】。一度目にしたものの情報を90%引き出すことができる」


 知るんじゃなくて引き出すんだね。

 

「更に、対象からの同意さえあれば能力を知ることもできる。でもこれも100%には達しないんだけどね」


 知ることもできるんだ……。

 ある意味チートじゃん……。

 対魔人戦で弱点を見つけたりしたら結構活躍しそう……恐ろしい!


「さて、早速調べてみる?」


 もちろん答えはイエス。そのためにここへ来たのだから。


「お願いします」


「おっけ〜、じゃあ行くよぉ〜。すぐ終わるからね〜」


 途端に私の体が発光し始める。

 うぅ、なんかムズムズする……。

 体中を撫でられてる気分……うへぇ……。


 そんな私の気持ちが伝わったのか、突然、赤坂さんがスキルの使用をやめた。


「はい、おわったよ〜」


 ――あ、終わっただけだったのね。


「あの……どんな感じのスキルですか……?」


「う〜ん……ハッキリ言って戦闘には役立たないかなぁ……」


 えっ……そんなぁ〜。早く帰りたいよ……。


「でも安心して。これは使い方次第ではかなり強力なものになるかもしれないから」


 へ、へぇ〜、あたりってことかな?


「まずは【忍耐力】。これは、使用者の思考に干渉できないようにするスキルね。精神魔法や闇魔法に耐性がつくようなイメージで大丈夫よ」


【忍耐力】強くないですかねぇ……?【智慧者】と組めば誰にも干渉かんしょうされずに物事を考えられるってことでしょ?


「次に【持続力】ね。これは使用者の集中力、魔力抵抗値を一時的に高めてくれるスキルよ」


【持続力】も強そうで安心した。でもちょっと受けのスキルが多いかな〜。


 これってあれだよね? 無能主人公が一気に成り上がるシーンみたい。


「すっごく使えそう……ふふふ……あ、ありがとうございました!」


「三雲ちゃん悪い顔してるよ〜。どういたしまして。確か明日は迷宮ダンジョンに行くのよね?」


「――えっ?」


「あら?聞いてなかったの?」


「今初めて聞きました……」


 そっかぁ迷宮ダンジョンかぁ……。

 魔人とかトラップとか……イヤ。絶対ムリ。断固拒否。逃げれないってわかってるんだけどね。


 そういえば魔物っていないのかな?訪ねてみよう。


「赤坂さん、魔物ってこの世界には居ないの?」


「……居るには居るんだけどね、殆どが魔人の……奴隷になってるわよ?でも迷宮ダンジョンにも野生の魔物は居るわよ。攻撃力が高いらしいから気をつけてね、まぁ三雲ちゃんが防御で負けるとは思えないけど」


 奴隷て……魔人族って恐ろしいのね。

 クリフも似たようなこと(地球人の強制召喚)やってるんだけどね。そう考えると私達も奴隷じゃん……逆らえないようにされたりとか、首輪とか無いだけマシよね。


 でも迷宮に魔物は居るんだね。

 倒したら魔石とか落とすのかな。単純なこの世界のことだからありそう……。

 


 兎に角、明日は迷宮に行くらしい。死なないように頑張ろ。絶対に生きて帰るんだから。


 私はそう決意し、大図書館から出た。そして――。


「明日は弱い敵だけ出てきますように――」


そんな都合のいいことを考えながら、私は寮へと戻っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る