第40話 賭け/予感
「……と、いうわけで取り逃がしました……」
「シーラ・レオンハート三世一生の不覚だ……」
銃の発見をしたあと、その場でしばらく俺は爆睡した。
シーラ曰く、叩いても起きなかったらしい。魔力切れとは恐ろしいものである。
現在俺たちはシーラの家にてアレックスくんを交えて状況を報告中だ(それと腕の傷の手当をお願いしている)。
「ボクの方で騎士団及び政府機関の方を調べてみましたが、正直あまり目立った情報は手に入りませんでした」
と、アレックスくん。
「しかし、俺たちがこの目で見たからな。間違いなく騎士団と犯人には接点がある」
その件に関しては、あとはどうやってあの騎士団長を追い詰めるかだ。
「それに、この銃が動かぬ証拠だし」
俺が言うとアレックスくんは押収したオートマチックを確認する。
この世界の銃と比べてはるかに重い銃の感触に彼は少し驚いたような顔を見せた。
「まさか……本当に実在したなんて……」
「間違いなく、この銃から発射された弾丸の線状痕は大臣襲撃の銃弾と一致するはずだ」
「物的証拠があれば騎士団長を追い詰められるかもしれない……!」
興奮気味にアレックスくんが語る。
「しかしにゃー、クロカミ探偵団総出でも逃げられるとは……、アイツらはなっとらん!」
「どういうブラック上司なんだお前」
「犯人の身柄の確保が難しくなったのは確かかもしれませんね。またスラムに潜み続ける可能性は少ないでしょうし」
「一応、この銃の回収に戻ってこないかとクロカミに見張らせてるよ」
アレックスくんに俺は答える。
「騎士団の協力はある程度は取り付けられるかもしれません。騎士団も一枚岩ではなくて、どうやら、最もクロカミの排斥を目的にしている筆頭が彼、エドワード団長のようで、そして、必ずしも彼が騎士団全体の人心を掌握しているのではないらしい」
「内部分裂しかねない状態でもあるわけだ」
「リチャードの後ろ盾になる反クロカミ派の議員などがいる可能性も高いですね……」
「まったく、アイツらになんの恨みがあるんだか……」
と、俺は愚痴をこぼす。
「そのエドワードと言う奴は後々縛り上げるとしてだ。実行犯のアイツはどう捕まえるかにゃー?」
不貞腐れ気味にシーラが呟く。
「そこで、ボクに一つプランが」
我々の頭脳系のチーフたるアレックスくんが提案する。
「お? どんなプランだ?」と、俺は尋ねる。
「ボクが囮になり、彼らにボクを襲撃させるんです」
「それは……」
……危険ではないか?
「って言っても、どうやって向こうをおびき寄せる?」
「ボクが……」
と、彼は一つ息を継いでから言った。
「集会を催し、その場で『クロカミの解放』を宣言します」
エルドリッチ・ルーサー大臣が暗殺されたのがクロカミへの擁護が原因なのだとすれば、それ以上に過激な『クロカミの解放』という言説は確かにクロカミの排斥派の怨嗟を買う可能性は高いかもしれない。
「その場で、もしかすると再び実行犯を釣ることができるかも知れません」
「アレックス、そのプランはどう考えてもお前が危険ではないか?」と、シーラが口を挟んだ。
「大丈夫です。ボクとて魔術の心得は有りますからね」
どういう魔術で凌ぐかは分からないが、それも含めて考えがあるのだろう。
「もっとも、ボクの発言がそのまま効力を持つ……というわけにはなりません。実際にそれでクロカミは解放にはならないでしょうし……、その時を狙って襲撃が来るかどうかは賭けなのですが……」
「それをやるなら、モチロン……事前になんらかの情報を流しておくのが無難なだろうな」
情報を流布し、アレックスくんへのヘイトが高まった点で公の場に出ることで、向こうが荒事に出るのを待つ。
確かに、あまり可能性の高くない賭けのようにも思える。
集会なんてわざわざ人目の多い危険な時を狙って向こうが打って出る確証など一つもないし、実行犯にまた同じ人間を使う可能性だってそこまで高くはないだろう。
……いや、しかし……とも思う。
大臣の時が、わざわざ祭りの時を狙ったぐらいだ。
見せしめ、という意味か?
それ以上に……
……あのキザったらしい鬼畜騎士なら、大臣に続いてあえて再び派手な劇場型犯罪を起こすという妙な予感めいたものがあるのも確かだ……。
「その賭け、のった。
アレックスくんの身の安全さえ大丈夫なら、今度こそその襲撃現場を抑えて……」
「……今度こそアタシが、あの悪党をとっ捕まえてやろうじゃないか!」
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