第25話 魔術と黒髪と銃と

 食事会を通じて、黒髪の人たちとは結構打ち解けてきた。中でもカラス少年はやけに俺に懐いてしまっている。もしかして『異世界騎士』の影響か?


 弟いたらこんな感じなのかなぁ……と、一人っ子の俺はなかなか悪くないものを感じる。


「カイが言っていた銃弾の痕跡について調べてきます。他にも考えたいことがあるので……」

 と、アレックスくんは言い残し出掛けてしまった。


「まったく、カイ兄ちゃんは何も知らないなー」

 小さいながらそれなりにちゃんとしている菜園や、個人スペースを案内されつつ少年と話していても、そもそもこの世界の知識が無ければ黒髪の間でのみ通じるワードを使われても俺にはちんぷんかんぷんだ。


 おかげでなにやら、カラス少年は世話焼きな弟か俺の教育係のようになりつつなる。


 ……分からないことあったらこの子に聞こうっと。


 なにが解放戦線の筆頭なのやら、俺の面目は丸つぶれである。……いや、元から面目なんて無かったか……。


「そもそもの発端が創世神話で……黒一色あるいは白一色は優良人種とされる。黒と白がそれぞれ独立した色としてあるといけないんだよな? あ、黒髪が白髪になったらどうなるんだ?」

「場合によるよ。年老いることで罪が免除されるって考えてる人もいる。年取った人は匿われてるなんて噂も……あくまで噂だけどね」


 こういった聖典への解釈問題というのはこの世界にも存在するらしい。


「カイ兄ちゃんはなんか、そもそも造りが僕らと違うみたいだけど……」


 不思議なことなのだが、この世界はわかり易すぎるほどに中世ファンタジー世界だからなのだろうか……アジア系や黄色人種というのは俺以外に見たことがないとみな口を揃えて言う。


 まったく、俺は何者なのだろうってハナシだ。……異世界人だけど。


「他に黒髪が差別される理由とかはあるのか?」

「偽り人は偽りである故……魔力が無い、あるいは有っても極端に少ないんだって……」

「なるほど、そういう理由か」


 『使えない人種』『劣った人たち』という烙印を押されているわけか。まったく胸くそ悪い。


「それがなぁ、俺らへの扱いが急激に悪くなった事件……があってだな、といっても噂なんだが」

 突如会話に割って入るレニー兄貴……あんた、どこから出てきた?


「ある時、黒髪の中に強力な魔力を持った男が現れた」

「それの何がいけないんだ?」


「考えてもみろや。今まで見下しに見下しまくっていた人間が急に力を持ったら、妬ましくも思うし……何せ、報復が恐ろしい。

 ……と、上の連中、いや黒髪以外の皆が思っただろうな」

「それだけ? ますます勝手すぎる……」


「それだけ……でも無いんだわ。ありあまる魔術の才能と力を持ったそいつは……『禁忌』に手を出したと言われている……」


 レニー兄貴の声のトーンが一段回下がった。

 禁忌? そういえば以前どこかで聞いたような……。


 それってもしかして……、


「……心霊魔術!」

 アレックスくんが言ってたやつだ。


「兄ちゃん声がデカい!」

「その名を口にするんじゃない……!」

 二人に思い切り窘められた。これ、そんなにマズいワードなのだろうか? この世界における『名前を言ってはいけないあの人』みたいなもの?


「許されざる魔術を、そもそも許されない人種が使ったとあれば……なんにしたって問題だわな。まったく、余計なことしやがって……!」


「禁忌を犯したのはその男であって『黒髪』ではないのにな……」


 この件、アレックスくんは知っているのだろうか? だとすると本当に話がややこしい……!


「しかし、あんた、なんでそんな俺達の境遇なんかに関心を持つんだ? はっきり言って危険なだけだし……ここの生まれでもないんだろ? 確か別の世界から来たとか……」


 お? カラスくんに続いて兄貴も信じてくれるのか?


「確かに……なんで俺がこんな事を始めようとしてるのか……正直自分でもわからないよ」

「はぁ……兄ちゃんが不安過ぎる……」


 と、呆れ顔の二人。


 「どこぞの頭の悪い騎士が言ってた、人助けに理由はいらないだの、自分がやりたいからやるんだの。……はぁ、俺も影響されたのかな」


「レオンさんのこと?」

「まぁ、そういうこと。それに、俺しかやるやつがいないなら、やった方がいいのかなって」


 なんか気恥ずかしい。


「とにかく、ウチらはあんたを信用する。だから、黙ってこれを持っていけ」


 なにか布に包まれたものを渡された。やけに重みがあって、手にずっしりとした硬い感触を感じた。

 布を外してみると、中には禍々しい……黒い銃があった。


 魔法銃だろう。


「これはあまり知られていないことなんだが……いくら黒髪の魔力が少なかろうが、数日おきに一発ぐらいなら撃てる……ヘトヘトになるけどな。

 ただし、飛距離も命中精度も期待するな。ゼロ距離でやれ」


「……受け取れない。これは流石に……」


 洒落にならない。


 もしかすると、俺は残酷で、酷く無責任なことを言ってしまったかもしれない。


 なにが、「このままでは良くない」だ。「助けを求めろ」だ……。


 ……そうできるなら、とっくにしていたに決まっている。状況は既にそれどころではないのでは……。



「いいから、持っていけ。そんなものが役に立たないのが一番良い……だが、自分の身を守る覚悟を、お前は持て」


「護身用……だよな?」

「そういう事さ。ライセンス無しでパクられないよう気をつけろよ?」


 表立っては使うまい。流石に命のやり取りは……普通の高校生のする事じゃない。


「……っていうか、どうやって持ち運べばいいのこれ?」


 こちとら日本の伝統衣装であるジャージで転移してしまった身である。持ち込み物に鞄とかも無いのだが……。


 銃、どこに隠すのよ?

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