第20話 黒髪街にて

 どうやら黒髪街の場所はあの荒屋あばらやとは真逆の方向にあるようだ。中心地だと思われる広場から突っ切った向こう側にあるらしい。

 中心部を過ぎると徐々に街が寂れていくのはシーラの家と同じものらしく、少年を連れてシーラが進む道も、また徐々に込み入った、人通りの少なそうなものへと変わっていった。


 人に見捨てられたような場所に少年たちが暮らす四角い建物があった。

 まったく今まで見た街の景観とは違いすぎる灰色の建物は、まるで温もりを感じさせない。

 人気は少ない。住民の年齢はバラバラ、だけどみんなシーラがオシャレに見えるほど粗末な衣類しか着ていなかった。

 そして、住人の全員が瞳と髪の色が真っ黒だった。


「ようこそ。最下層のの貧民たちの街、『黒髪街』へ、歓迎するよ」


 少年が小さく言う。人が変わってみたいに冷たい声だった。


「特に、あんたは同じ黒髪だからね……」


 絶対に、歓迎されてはいない気がした。


「なんで、あんたも黒髪の偽人のあんたが、そうやって普通に暮らせるの?」、少年は問う。


「……異国人だからな」


 いや、違う。それは理由ではない。


「全部レオンハートさんと、そっちの色無し白人のおかげだろ?」


 俺は言葉を失った。まさしくその通りだ。

 特に、シーラの助けがなければ、俺はどうなっていたのか。


「黒髪は、黒髪らしくしてるべきだ」


「少年。その考えは賛同しかねるぞ」

「あまり褒められた言葉ではないと思います」


 少年の言葉をシーラとアレックスくんは咎めた。


「様々の色を持つ一般人は互いに違う事が許されているが……、黒髪だってまったく同じ人間なんていないのだから、みんながみんな同じ『それらしい』振る舞いをしなくたっていい。

 アタシは赤毛で白じゃない。肌は白くて黒ではない。しかしまぁ、それでもアタシはアタシが大好きだ。


 我ら聖刻騎士団にたとえ権力が無かろうが、アタシが騎士だから騎士なのだ! 少年ももっと自分に自信を持つといい!」


 まさかシーラからこんな熱い言葉が出てくるなんてな。俺は苦笑する。

 ところどころ突っ込みどころはあるが、概ね理解できる。


「それに、アサクラはアタシの相棒バディであり、部下だっ! まぁ、非常に頼りない男だけどな」


「……なんか申し訳ない……!」、俺は答える。


「まぁ、そこそこ面白い男だから使ってやる! 今後の働きに期待するぞアサクラ」

「なんかちゃっかり上下関係が入れ替わってないか!?」

「む、おまえがアタシの上だったことなどないだろう」

「いや、否定はしないが……」


 少年はそんな俺達を不思議そうな目で見ている。


「……なんで、なんでアサクラは特別なの?」

「アタシが特別扱いなどするはずがないだろう。騎士は公平!

 なんというか……アサクラはこういうやつなんだ。ちょっとはアタシに敬意を払ってもいいのに……! しかしまぁ、媚びへつらうアサクラなんて想像するに虫唾が走るけどな……」


「ええと、このお二人はとても中がよく、お互いとても変わり者のようでして……そういうわけです」

 アレックスくんが紳士スマイルで少年に説明する。


「レオンハートさん……」

「ところで少年、少年の仲間はどうした?」


 シーラのなんかカッコいいスピーチのせいか、貴族ルックスのアレックスくんのせいか、どうも建物の方から視線のようなものを感じる。


「カラスー!」


 という声とともに、建物からは一人の長髪の黒髪の男が出てきた。

 カラス、とは少年の名前らしい。


「レニー兄貴!」


「街でお前だけ逸れたって聞いて気が気じゃなかったよ。そっちのちっこいお嬢さんたち……と……、な、なに! 貴族様が何故このようなところに!?」


 アレックスくんを見るなりペコペコとしだす男、なんだか分かりやすい。


「アサクラさん? これがフツーの黒髪の反応だからね?」と、少年が言う。

「う……うん、今後気をつける……」


「で、そっちの見かけない黒髪は新入りか?」

「別に入会してない……!」

「ウチらはいつでも歓迎だ、稼ぎ頭は多い方がいい!」


 案外、黒髪街でこき使われる方が俺は生き方として正しいのだろうか……少し考えてしまう。


「まぁ、立ち話もなんだしな。汚いところだが上がったらどうだい貴族さんたち?」


 結構気さくな人である。


「ぐー」


 ん? なんだ今の変な返事?


「ごめん……お腹減った……」

 やはり、シーラは自由人なのである。

 そう言えば昼を食べずに捜査に出てしまった。


「レオンハートさん! 是非ウチで食べていってください!」

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