いろんな事から数年が経っていた。その間に色々なものを忘れたし、色々な事を覚えた。それに、色々なものを忘れないようにしたし、色々な事を覚えないようにもした。ゆっくりした時間は減っていき、反対に毎日はどんどん多忙になる。でも、必ず、僕のどこかには不思議な感じのする蟠りが隅っこにあった。

 そのせいか、今でも時々夢を見る。駅の夢だ。

 「今でも待っている?」

 「何を?」

 「何でもいい」

 「そりゃあ、誰だって何かを待っているんじゃないか?」

 「じゃあ、あそこまで来てくれる?」

 「あそこって何処だよ」

 「星の似合う場所」

 「はぁ?」

 「じゃあね」

 「ちょっ、きちんと質問に答えろよ!」

 「がんばってね」

 「はぁ?」

 「——」そして僕と話していた少女は列車に乗ってしまう。

 電話が途切れたような感覚。あの電子的な音が聞こえた気がした。

 跳ね上がる。

 布団の上だった。

 いつもの夢か……。

 でも、どこだろうか。

 星が似合う場所?

 丘?

 田舎?

 天文台?

 同じことを今まで何度、考えただろうか。いつも、夢の記憶は飛び上がるヘリコプターのようにフェードアウトしていく。

 「またか」

 あいつはいないはず。でも、この夢は何度も見る。これで、何度目だろうか。もう、数えてなんかいない。やっぱり、行くべきか。

 トンネルの壁を思い出した。灰色には、つまらない秩序を乱した赤い彩り、あるいは飾り。二度と忘れることはできないあの頃の記憶の映像がまだ残る。

 まだ残っているだろうか。きっと、あそこのトンネルだ。でも、あそこは確か……。それに、ルートもないだろう。

 それでも、行くべきだろう。ずっとそう思い続けてきた。

 丁度、その日が明日だった。絶好のタイミングだ。いったい、あれから何度季節が廻っただろう。そして、日々に追われすぎたかも知れないと感じる。

 翌朝は朝一の列車に乗ることになった。何度か列車を乗り換えた。途中で乗り換えするホームが分からなくなったので、駅員さんに聞いた。そんなときに、あいつがいてくれたらな、と学生の時の友人を思い出した。その記憶を思い出した瞬間、あの日のことが次々と脳裏をよぎる。あんなことや、こんなこと。どうして今まで思い出せ無かったのか不思議だった。これが、つまり、今までの蟠りかもしれない。

 目的地の姿を完全に思い出した時には、僕はバスの中で眠っていた。

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