第25話 タイムリミットと静かな怒り


がちゃん。


「おはようございます。」


「『おお、なんじゃ、早いな。ナーノか。』」


「ラフィーラ…お姉さま、おはようございます。」


部屋で飲み物を飲みながら待っていたのは伯爵姫ラフィーラちゃん一人だけだった。

…いや、もちろん、彼女付きのメイドさん達はたくさんいるんだけど…

あれ?ハーレムメンバーはどうしたよ?


「あのヤロ…じゃなくて、お兄ちゃん達は…?」


「『ん?コリカンか?あ奴はいつも昼までは寝ておる。』」


「えっ!?それで大丈夫なんですか?」


アイツ、一応「代官」…要は公務員的な業務をしてる人だよね?!


こっちの世界の政治はよく分からないけど、それでも、冒険者の登録所だけでもかなりの人がいろんな取りまとめや登録・紹介・依頼の受付・斡旋等…

…相当数の業務があったように見えたんだけど?


「『無論、あ奴は有能故、午後だけで職務をこなすのはいつもの事じゃ』」


「えーと…でも、仮にお兄ちゃんが有能だとしても、一般の人はそうはいかないから…

結局、困る人が出るんじゃ?」


「『ははは、そのためにワシやミカティアがおるのじゃ。』」


「えっ!?ラフィーラお姉さまが執務を?」


マジか。

まだ小学生程度だよね!?この子…


「『そうじゃ。ほとんどはミカティアの補佐じゃがな。簡単なトラブルや罪人の捌き等はワシが手がけておる。』」


なんと!?

も、もしかして、この子に頼めば、リーリスさんと隊長さんを何とか牢から出す事が出来るんじゃ…?!

そう考えていた時、扉が開く音が響いた。


「『おはようございます、ラフィーラ様!それに、ナーノ…?』」


「あ、リリィレナさん。おはようございます。」


「『おお、ナーノか!見違えたぞ!!』」


「『うむ、リリィレナか、どうじゃ?こやつの衣装もコリカンの見立てじゃ。』」


…でしょうねぇ…煮凝ってますからねぇ…。


「『良く似合っているぞ、ナーノ。』」


「はははー…あー、ありがとうございます…」


乾いた笑いが漏れちゃうよ。


女性陣が3人揃った所でメイドさん達が朝食を持ってくる。


この朝食は、昨日の夜食べた日本風の物と違い、こっちの世界の標準…なのだろうか?

見慣れない薄い紫のスープにマッシュポテトみたいなもの、

キャベツっぽい色が薄目の野菜の煮物、

星形のフルーツ?の乗ったサラダ、

そして鮭のような色の…クレープの皮(?)が乗ったお皿が運ばれてくる。


その朝食に付いてくる飲み物はあの宿屋でも見かけた黒く濁った熱い汁だ。

おぉう…あの丸薬をもっと貰っておけばよかった…!


「あの…これは…?」


僕が薄い紫色の汁を持ちあげてみる。


「『ん?黒トマトのクリームスープじゃが?』」


「『ナーノは食べたことが無いのか?』」


「あと、これも…」


鮭色のクレープの皮を指差す。


「『それは紅焼卵じゃな。

昨日は卵黄を大量に使用した故、卵白が余ったのじゃ。

それに紫トマトと赤ビーツの汁を加え味を調えて良く練り、薄く焼くとこういう風に仕上がるのじゃ。』」


「『主食のフォス芋のラピラにもよく合うぞ?』」


そう言うと、リリィレナさんは、そのクレープ状の卵焼きでマッシュポテトをくるりと包み、口に入れる。

これは、手で食べても良い料理らしい。


手を使っているのに、リリィレナさんはとても上品に見えるんだから、美少女はお得だよね。


美味しそうじゃないか!

…この世界…そんなに日本の食文化を無理に称賛しなくたって、十分立派な食文化が発達してるんだよね。


「いただきまーす。」


うん、これはこれで美味しいよ!

薄焼き卵にはしっかりめに塩味とトマトベースっぽい野菜のコクがついているので、

薄味のマッシュポテト…ラピラって言ったっけ…とよく合う。


白いご飯に味付け海苔で食べてるみたいな感覚だ。


良いんだよ、主食っていうのは、こういうので。

こちらのスープも、薄紫色が不思議ではあったけど、あっさりクリーミーでかなり美味。

玉ねぎみたいな、透明になるまで煮込まれた柔らかい野菜らしき代物が、優しく温かく眠っていた五臓六腑を揺り起こす。


「あー…染みるわぁ~…」


「『くくく…なんじゃ、ナーノ、年寄りじみた声を出して。』」


「あはは…いや、でも、このスープ、美味しいですね~。」


「『そうか?コリカンの特別メニューとは違うゆえ、特筆する味では無いのじゃが…』」


「そんな事ありません!僕、こーいう…い…色んな味を楽しみたいんです。」


ヤバイ、ヤバイ。異世界の味、と口走りそうになっちゃった。


「『ふふ、ではこちらのチェキギも食してみよ。この町の特産じゃ。』」


チェキギと呼ばれた品は、キャベツっぽい野菜の煮物…と思っていたけど、どうやらサボテンの葉の漬物であるらしい。

あの宿屋で食べたものを、もう一回り上品で洗練させ、甘めな味付けにしたもののようだった。


うん。これもさっぱりして美味しいよ?


サボテンが良く甘酢に漬かっていて、食感が「くきゅ」として面白いし。

何か呼びにくい名前だったから、くきゅ漬け、とでも名付けようかな。


この漬物と薄焼き卵を交互に食べると、甘い、しょっぱい、甘い、しょっぱい

…永遠ループが出来あがる。


「美味しいです!」


「『気に入ってくれて何よりじゃ。』」


ラフィーラ姫はそう言いながらも上品にサラダを召し上がっている。

流石…操られていてもお姫様だよなぁ。

すっ、と伸びた背筋と鮮やかに二股フォークを操る手つきが美しい。


おっと、僕も見とれていないで食べないと、と思って二股フォークを伸ばした先にある星形のフルーツ

…に見えたモノは、食感とか味的にキュウリに近い野菜でした。


…コリコリショリショリ。


リセットにはちょうど良い。

その流れで口を付けたサラダは、様々な野菜とミントみたいなハーブをみじん切りにした

ちょっと甘酸っぱい具沢山のドレッシングがかかっている感じで…

日本で食べ慣れてる味とは違うけど、それはそれとして美味しい。


あの黒い汁を除けば、味覚を楽しませるのには十分。


「『あら…皆、おはよう。』」


僕達が朝食を取っていると、清楚セーラーさんが扉から入って来た。


「『ミカティア殿…お早いですね?』」


「『ええ…少し、仕事が溜まってしまっているから…』」


「『昨日は……あの、えっと、休まれたのが遅かったのでしょう?大丈夫ですか?』」


リリィレナさんは少し気まずそうに頬を染めて清楚セーラーさんを気遣う。


「『大丈夫よ、私は、自分に回復魔法も使えるし。』」


「『ミカティア、他の者はどうしたのじゃ?』」


「『ふふ…まだ夢の中じゃないかしら…コー君、強いし。明け方まで…だったから。』」


そう言いながら、腰をトントン叩く清楚セーラーさん。

これは…もしかしてチャンスかも?


「あっ、あの…!」


「『どうしたの、ナーノちゃん?』」


「ぼ、僕にもラフィーラお姉さまやミカティアお姉さまのお手伝いをさせていただけませんかっ!?」


そして、あわよくば、リーリスさんと隊長さんを開放してしまいたいっ!!


「僕も、オ、オ兄チャンの役に立ちたいんです!」


お兄ちゃんの所だけ声がひっくり返ってしまったな…まぁ、この程度許容範囲だろう。


「『まぁ…ふふふ…それは、助かるわ。それに、ナーノちゃんも【獣使い】の祝福を得たんだし、仲間も必要でしょうから…。

商会に問い合わせをしておかないといけないわね。』」


「『…そう言えば、ナーノ、あの小鳥はどうしたのじゃ?』」


「あ、レイ…じゃなくて、ピヨちゃんは、お散歩に行ってます。やっぱり、お外を飛び回りたいみたいで…」


「『大丈夫か?外区には奇妙なデカイ鳥が出た、と噂が出ているらしいが…』」


「ピ、ピヨちゃんは飛べるので大丈夫ですよ!ああ見えて、高速でぴゅーんって飛ぶんですよ!!」


レイニーさんの事を突っ込まれると、どうにも冷汗が出るな。

回答がわたわたしてしまう。


しかし、少女達は操られているせいなのか何なのか…

多少、僕の言動が怪しくてもそこに言及したりしないようだ。


ふぅ…ちょっと助かったかも…。


あの「僕もお手伝いしたいです」発言は特に怪しまれる事無く…

あの後、無事にラフィーラ姫の補佐、と言う事で、お手伝いに参加させてもらえる事になった。


朝食を終えたリリィレナさんは鍛錬と町の警備の仕事がある、と部屋から退出し、遅れて来た清楚セーラーさんは朝食を取っているので、僕とラフィーラ姫は先に執務室で準備をする事になった。


案内された執務室と言うのは、お城の一角…すぐ隣には謁見でも出来るような立派な部屋に付随した会議室のような所だった。


そこへ、ラフィーラ姫付きのメイドさん達が複数個の書類の詰まった箱と筆記用具の入っている箱を持ってくる。


「『今日の分はこれじゃな…』」


「へー…これが?」


「『ナーノは神官文字が読めるのか?』」


「え?神官文字…?」


ちらりと見た書類には…異世界の文字の他に、やっぱり日本語が振ってあるのが見えた。


「えーと、これが神官文字ですか?」


僕は、そのルビが振ってあるように見える書類を指差す。


「『そうじゃ。』」


「大丈夫です。読めます。」


よし!

普通の身体をあきらめてでも手に入れた翻訳機能さんが良い仕事してくれてます!!

ありがとう!!

試しにパラパラとその書類の束を見てみると、内容は多岐に渡っている。


えーと?

これが…迷宮性地震で用水路が壊れて畑に損害が発生したらしく「緊急支援の要請」

で、こっちが「魔物掃討隊の要請」。

どうやら、冒険者が減ってしまったせいで、迷宮の魔物が増えすぎてしまい…

このままだと溢れそう、との事。


「あの、迷宮から魔物が溢れる事って有るんですか?」


「『ああ、困ったものじゃ。最近は魔物の数が増えすぎてのぅ。

溢れてしまったら、町にも被害が及ぶしのぅ。』」


結構、大ごとじゃないですか。


「それは、どうすれば防げるんでしょう?」


「『うむ、要は数が問題なのじゃ。』」


どうやら、

弱い魔物が増える→魔物の密度が上がる事で魔物達がストレスを溜める→さらに増える魔物→臨界点を超える→迷宮から抜け出し暴走→暴走時にはあらゆるものを破壊しつくす、と言う事らしい。


つまり、弱い魔物で構わない…と言うか、むしろ弱くて数が多い雑魚を減らすのが一番の特効薬。


しかし、この「弱くて数の多い魔物」と言うヤツは、曲者なのだ。


わざわざ狩るとなると正直『労多くして、得るものが少ない』の代表格で冒険者泣かせ。

「弱い」とは言え魔物は魔物。


それなりに戦えば疲労するし、回復薬などは使ったら無くなるし、武器は消耗する…

だが、倒したところで利用できそうな部位といえば小指の先程の大きさの魔石程度。

まぁ、売り払った所で二束三文が精々。


ある程度、地下の深いところに住む魔物でないと、買い取って貰える部位が無いのだとか。

それでも冒険者がたくさん居れば、ある程度、自然…と言うか、

進むためには討伐が必須のため、その数は一定数以下に保たれている。


だが、今はその冒険者さんが激減しているらしい。


…まぁねぇ…

外区の町…活気が無かったもんなぁ。


そのうえ、あの野郎の祝福ギフトのせいで、奇妙な病気が流行ってるんじゃ?

とか思われてたし…

…そりゃ、人気も無くなるよねぇ。


「『フルル、リル、ティキ、リリィレナにも頼んでおるのじゃが…

フルルの得意な広範囲殲滅型の攻撃魔法やリルの大型ゴーレム、

ティキのモーニングスターやリリィレナの大剣のような大型武器は迷宮のような密閉空間ではなかなか使い勝手が悪いからのぅ…』」


まぁ、地下迷宮との相性は悪そうな武器だよな。


「『ワシも戦えれば良いのじゃが…』」


「え?!ラフィーラ姫…じゃなかった、お姉さまも戦うんですか!?」


「『そうじゃ!ふふふ…来月にはワシも戦えるようになるのじゃ…』」


「来月…?何かあるんですか?」


「『ワシの誕生日が来月じゃ!

来月でワシは12歳!

誕生日には正式にワシもコリカンの嫁となると言う訳じゃ!

コリカンの嫁となれば、更なる力が与えれられるのじゃ…!

たのしみじゃのぅ。』」


「嫁ぇ!?」


思わず素っ頓狂な声を出しちゃったよ!?

【俺の嫁】って事?


え?こ、この子を!?

お…お、おまわりさぁぁぁぁん!!


「お誕生日って…それは…何日後なんですか?」


「『10日後じゃ。』」


10日!?

マジか!?

これは…これは、何とかしてあげた方が良いんだよね?

僕は状態異常回復をこっそりと彼女に掛ける。


「ラフィーラお姉さまはお兄ちゃんの【嫁】になりたいの?」


「絶対嫌ですわ!!!…え!?ど、どうして…??

わたくし、言葉が…??」


おいおい…この子、口調はおろか、一人称まで違うやんけ。


このラフィーラ姫も、あの野郎の嫁になるのは嫌だと言う事は確定だな。

…ってことは、10日後までに何とかしないといけない訳か。

しばし混乱するラフィーラ姫だったが、直ぐに、また元の様子に戻る。


「『すまぬ、少し、ぼーっとしておったようじゃ』」


そんな話をしていると、唐突に執務室をノックする音が響く。


「『何じゃ?』」


「『ミカティア様がお見えです。』」


メイドさんがそう言いながら扉を開く。


「『ごめんね、待たせちゃったかしら?』」


「『いや、大して待ってはおらん。

今、ナーノに書類の説明と10日後に迫ったワシの誕生日の話をしておった所じゃ』」


「『あら、そうなの…ふふふ。

ラフィーラちゃんも私たちと同じコー君の妻になれて嬉しいわ。』」


二人は、そう言うと、誕生日への思いをきゃっきゃ、うふふと語り合う。


操られている、と考えてしまうと何ともお寒い『きゃっきゃ、うふふ』な気がしなくもないが、

逆に考えると、術者本人が居ない状態なのに、これでけのクオリティで操作できる、なら凄いのか?

書類を片手にそんな事を考えていると、ミカティアさんから声を掛けられた。


「『どうせなら、ナーノちゃんも、ラフィーラちゃんと一緒にどうかしら?』」


「へ?」


あ、聞いてなかった。

何の話だろう?


「『うむ、それは良い考えじゃ!』」


「え?あの、僕も?」


「『そうじゃ、共にコリカンの妻となろうぞ。』」


ブッ!!


「『前日から私たちが慣らしてあげるとは言え、ラフィーラちゃんの身体はまだ幼いから、一人だけでコー君の相手をするのは大変よ?

二人同時なら、ラフィーラちゃんの負担も減るんじゃないかしら?』」


「『どうじゃ?それなら良かろう?』」


何を言って…いや…


な に を 言 わ せ て る ん だ ?


…開いた口が塞がらないとはこの事か。

思わず手にしていた書類をぐしゃり、と握りしめてしまった。


腹が立つと目の前が真っ赤に染まる、とか良く言うじゃん?

あれ、人によるよね。


僕の場合、逆に、すぅ、と世界が青黒くなって、胸の奥に氷の塊を押し込まれたような…

そんな気分になるんだよ。

それから、ふつ、ふつ、とゆっくり、ゆっくり湧いてくる。


僕は血の気の引いた手で、ラフィーラ姫の右手をぎゅっと握った。


絶対嫌だ、って言ってたもんな。

うん。


「そうですね。では、10日…いえ、9日後…それまでに…全部の仕事を片付けましょうね。

…そう、全部。…ぜーんぶ。」


にっこりと微笑む。

この笑顔がはたして本当に笑顔だったのか、僕には自信が無い。


だけど、彼女たちにキレた所で、どうしようもない。

大きく息を吸って、何とか頭を切り替える。


「…ふぅ。ところで、ミカティアお姉さま?

ラフィーラお姉さまに伺ったのですけど…」


そう言いながら僕は例の嘆願書の束を引っ張り出す。


「現在、迷宮で、魔物が増えすぎているとか…?」


「『ええ、そうね。冒険者を増やすためにも本当はもう少し入場料の値段を下げたいんだけど…』」


入場料なんてものを取ってたのか!?


「『挑戦者が減ってしまった現状で、これ以上入場料を引き下げると、税収が苦しいの。』」


「でも、これだけ魔物が増えすぎている今は税収の事を言っている余裕は無いようなのですけれど…?」


「『そうねぇ…でも、コー君のお小遣いになる税収が減っちゃったら…コー君が嫌がっちゃうわ。』」


お小遣いかよ…!

思わず舌打ちしなかった自分を褒めてやりたい。


操られてる状態だと、コリカン様第一で、今ここにある危機が見えなくなってるんだろうなぁ…

あ、そうだ。こういう言い方ならどうだろう?


「でも、コリカン様は気高くて優しくて崇高なお方だから、迷宮都市の危機に対して、お小遣いが減ったくらいで悲しんだりしないんじゃないかなぁ…と、思うんですけど。」


とりあえず、あの野郎をおだててみる。


「『…確かに、コー君なら、きっとそう言うわ。』」


おや?

案外あっさり納得するのね。


「『それに、フルルちゃんたちにお願いして魔物退治もしているわ。

毎日地下10Fより深いところの魔物の魔石やアイテムを持って来て貰っているの。』」


地下10Fって凄いのかな…?


「…それは、日に何匹くらい倒しているんですか?」


「『ふふふ…地下10Fより深いところの魔物なんて、一日1匹でも多いくらいよ。』」


「へぇ…流石お姉さま、凄いんですね。」


凄いかもしれないけど、今は強い1匹より、弱い10匹の方が重要なんだな。

…この嘆願書を読むと。


「…あの、浅い所の魔物は間引かないんですか?」


「『ええ、たいしたお金にもならないし…第一、4人だけじゃ…どうしても、狩れる数に限りがあって…』」


「ですよね。…そこでご相談なんですけど、僕を迷宮の大掃除に参加させてください。」


「『でも…』」


「僕がお兄ちゃんから貰った祝福は【獣使い】ですから、弱い魔物を狩るには向いていると思います。

それに…今、外区に大きな銀狼と鳥型の騎獣を連れた商人が居る、って噂になってたんです。

もし、その子達と僕が『お友達』になれたら、きっと迷宮掃除でも、普段の生活でも、もっとお兄ちゃんのお役にも立てると思うんです。」


「『ふむ?そう言えば、そんな噂があったのぅ?

てっきり危険な魔獣かと思っておったが…』」


作戦名コードネーム:【獣使い】のフリをして、僕の味方をこの城に常駐させちゃおう大作戦!


そう!この城内に僕の「お供」として、オズヌさんとエルをキープ出来れば、不意打ち等も行いやすくなるはず!


オズヌさん達とは打ち合わせ全然してないけど…

乗ってくれるかなー。


たぶん、こう言えばこっちの女の子側は拒否しないと思うんだけど…

オズヌさん達には罠だと思われちゃうかな…?


いや、でも、夕方レイニーさんと打合せが出来れば…!


…エルの奴は嫌がりそうだけど…

でも、隊長さんも捕まっちゃってるから、案外乗ってくれるかも。


「『そうね…ナーノちゃんに使役獣を準備してあげるのは必要ね。

それが揃ったら…試してみるのも手かしら?』」


「『そうじゃな、迷宮の魔物退治には数が必須じゃからのぅ。』」


「『わかったわ。使役獣の件は募集の手配をしておきましょう。』」


よし!!

やったぞ。


「『別件なんだけど、コー君のお誕生日もあと5日後でしょ?

誕生パーティのメニューも考えないと…ね?』」


「『うむ!ぷりんは必須じゃ!!』」


「『ふふ…そうね。コー君は苦手みたいだけど、皆、ぷりんには目が無いもの…』」


「この町の名物料理とかは?」


「『う~む、どうかのう?コリカンの肥えた舌に合うこの町の料理などあるかのぅ?』」


「『そうね…コー君、色んなレシピを私にくれるし…その中から選んだ方が良いのかもしれないわね。』」


異世界に来て、異世界メシを堪能しないなんて勿体ないなー!


「でも、この町のご飯もあった方が…お兄ちゃんの素晴らしくて美味しいあの不思議なメニューが、より引き立つんじゃないですか?」


「『それもそうね。じゃ、料理人の手配もしましょう。』」


…何となく、ヤツがいない平常時、女の子達の行動を制御するルールが見えて来たぞ。

多分「コリカン様を持ちあげる事」が第一行動理由で、それ以外はかなり、おざなり、と言うかいい加減でも問題が無いっぽい。


「『ふふ…楽しみになって来たのぅ、ナーノ。』」


「はい、ラフィーラお姉さま。」


実際に、この山積みの嘆願書の内容よりもあの野郎が楽しいと思えそうな内容の話の方が、彼女達は乗って来る。


「さ、楽しいお話はこのくらいにして…お仕事、終わらせましょうよ?」


「『そうじゃのぅ。』」


「『そうね。じゃ、ラフィーラちゃんは承認をお願い。』」


午前中は、事務処理だけで時間が飛ぶように過ぎる。

やっぱり、迷宮性地震はかなり発生数を増やしているらしく、公共設備の修繕依頼が山のように届いていた。

一応、そう言った補修管理の実働部隊へ書類を届けたついでに、公共設備修理の土木建築員と思しき皆さんに疲労回復をかけておく。

だって、目の下にめっちゃ隈出来てるんですけど

…こちらの男性陣の皆さん…


一応、ここで異常を発動してないって事は【一般市民】なのかな?

超お疲れ様です。


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