白き樹神兵 アルシュール

肉まん大王(nikuman-daiou)

第1話~昇格試験からの異世界へ~

モンテラ大陸の中心の大都市アーバスに母親が戦の神ヴァラーガ信仰の聖騎士、父親が自然・慈愛の神アルシュール信仰のプリーストの両親を持つリーナ(17歳)がいた。


身長150cm、容姿は茶髪(肩まで)瞳は碧色(青緑色)


そして娘がクレリックからの昇格試験を明日に控え家族で夜ご飯をしていた。


「リーナ、明日の試験は何処受けるんだい?」


リーナの母親カリンがわざとらしく言うと


「何処って、中級だって言ったじゃない」


「ふーん中級ねぇ、あんたなら上級でもいいんじゃない?」


この世界では一定の基準(信仰度、知識、習得魔法レベル、冒険の経験など)となっていてリーナは既に中級の基準を超え上級の基準を満たしていた。


「上級ってお母さんはいつもそうやって順番抜かしちゃうの」


「そうだよ母さん順番はちゃんと守らないとだよ」


父親のクラウゼンがそう言うと母親のカリンが


「だってリーナはもう上級の条件をクリアーしてるし中級なんて言わないで一気に上級受ければいいんだよ面倒だし、そして早く聖騎士になって私と一緒に・・」


「母さん!リーナはビショップになって私と一緒に・・」


両親がそれぞれの夢を語りだすとリーナは「あ、また始まった」と思い、巻き込まれない様にと席を急いで立とうとするが間に合わなかった。


「ちょっと待てクラウゼン・・何でビショップ何だ?」


カリンがそう言うとクラウゼンが


「そりゃリーナは私と同じ自然・慈愛の神アルシュールを信仰しているし、アルシュールの聖騎士なんて見た事も聞いた事もない、そうだよなリーナ」


「アルシュールの聖騎士がいたっていいじゃないか、そうだろうリーナ」


そしていつもの流れでカートライン家恒例の卓上の宗教戦争が始まった。


リーナは2人に言われたがここでビショップ又は聖騎士のどちらかを答えると言われなかった方が当分の間抜け殻状態になってしまうのでいつも両方を褒める事にしていた。


「このまま頑張ってビショップにもなりたいし、アルシュール初の聖騎士ってのもいいかも・・あまり運動が得意じゃないけど・・」


リーナがそう言うとカリンがクラウゼンを指差し


「どうだクラウゼン、リーナは聖騎士でもいいって言ってるじゃないか」


「いや、アルシュール初って響きはいいが、リーナが最前線で戦うなんて母さんじゃあるまいし」


「私じゃあるまいしってどんな意味だ」


そしてここからお互いいじりが始まるが結局口が達者なカリンがほぼ勝利する。


「母さんの127勝0敗20引分っと」


無敗の母親のガッツポーズを見ながらリーナが机の隅に刻まれた正の字に1本足してようやく開放される。


「リーナ明日の試験は母さんと父さんも見に行くから」


カリンは勝利の余韻に浸りながら食事の片付けを始め、そして負けたクラウゼンは立ち上がり悔しそうな顔で


「リーナの試験に遅れたら困るから・・もう寝る」


そう言いながら寝室に行ってしまった。


リーナは父親の悲しい背中を見送りながら「おやすみなさい」と手を振った。


父親がいなくなるとカリンが片付けを終え自分の席に座ると、氷で冷えたグラスを持ち揺らしながら


「母さんはビショップでもいいと思ってる」


「え?」


「リーナは頭は良いが運動が苦手だし・・アルシュールのビショップと違ってヴァラーガの聖騎士は時には人を殺さなければならない・・宗教上の理由は別としてもリーナにはそれが出来るか?無理だろう?・・だから聖騎士は無理だと母さんは思ってる」


リーナは理由はどうであれ人を殺すなんて自分には出来ないと思い黙ってしまった。


「まぁー父さんも母さんもリーナを守る為なら神に背いても人殺しするかもしれないけど・・でも虫も殺せない父さんには無理か」


カリンは黙っているリーナの頭をポンと叩きながら最後には少し笑って見せた。


「明日の試験は大聖堂で何時だっけ?」


「10時・・」


「10時ね、じゃー母さんは朝早いから寝るね」


カリンはそう言って寝室に消えて行った。


1人残されたリーナは母親が卓上の宗教戦争の勝敗が決まった後にいつもなら冗談を言って終わるのに何故こんな話をしてきたのか驚いていた。


そしてリーナがその意味を知ったのは後の話だった。



翌日、リーナは両親と一緒に試験会場の出発地点の大聖堂にいた。


試験会場には試験を見届ける各神の役職のある神官、参加者、参加者の家族、参加者の先輩後輩など大勢の人が集まっていた。


試験は初級、中級、上級、最上級、超上級、馬鹿みたいな級、笑っちゃう級の7段階があり受験者の階級により等級が変わっていくが、20年前に試験内容が過激で危険と言う事から現在は初級から最上級までが行われていた。


試験は中央にある魔法陣に受験者が上がり、本人、家族の指名した位のある見届人又は指名が無ければ現行のビショップが高さ1mほどの石板に上から順番に初級、中級・・と書かれた文字を押すと魔法陣が試験会場となる場所まで送り、試験をクリアすると戻る為のゲートが現れ帰還すると言う仕組みになっていて、行き先については試験問題の漏洩とされ口外禁止になっていて罰則も法律で決められていた。


ちなみにリーナが以前受けた初級はこの大陸にある国に行き幾つかの簡単なお使いクエストをクリアして来る事だった。


そして噂であるが超上級以上の等級は異世界へのクエストと言われこの大陸では無い何処かに飛ばされるらしいと言われていた。



時間になり初級から始まり中級の番が来た、今回中級を受けるのはリーナを入れて3人でリーナは最後に受ける事になった。


2人が無事に中級の試験会場に送られリーナの順番になり名前を呼ばれると中級で必要な荷物を持ち魔法陣に上がると少しして紹介と共に見届人、法・秩序の神フェアレイ アークビショップ イグナート・マクシフが杖をつきながら何故か母親カリンに支えられながら現れると会場がとどよめきだした。


リーナは教科書に出て来る様な人が現れ驚き『何でこんな偉い人が』と思いカリンの方を見ると知らん振りされ、会場にいる父親の方を見ると親指を立てながらドヤ顔で立っていた。


イグナート・マクシフはアーバスの最高齢のアークビショップで御年98歳、1年に数回しか人前に現れない生きた化石とも言われている存在であった。


イグナートがカリンに支えられながら10分程で石板に到着すると体を震わせながら杖を持ち上げ石板の中級の文字を目指し杖が触りかけた所でカリンが支えていた手を「自然」に離すとイグナートが前にふらつき杖を落としてしまいそのまま倒れこみ反射的に近くにある物に手を出しまった。


そしてイグナートの手の先には『笑っちゃう級』と文字が書かれていた。


「おしい、杖落とさなければ上級だったのに・・」


カリンが小さな声で残念とばかりに言うと今度は笑みを浮かべ


「まさか・・そこに行くとは・・これも運命なのかしら」


そして首に掛けて赤ワイン色の水晶の中に十字架が入っているネックレスを外すと魔法陣にいる娘に投げた。


「リーナ!これを持って行きなさい!」


「え?何?ちょっとまっ・・」


リーナが赤いネックレスを受け取ると同時に試験会場に転送された。



こうして母親の陰謀でとある場所に転送されたリーナの試験と言う名の冒険が始まった。

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