#11 ウルフカットの君
中学のときの友達で、ひとり疎遠になってしまったひとがいる。
大好きな友達。同い年とは思えないほど落ち着いていて、優しくて、佇まいがきれいなひと。姿勢も美しかった。笑うとすごくかわいくて、涼しげな声はずっと聞いていたくて。読書家で小説にはたくさん触れていたけど漫画には縁遠くて、唯一読んでいたのはジョジョ。
中学1年生の最初の座席順で隣になって、徐々に仲良くなって、私は最初ちゃん付けで呼んでいたけれど、彼女はずっと、何の飾りもつけずにきれいな声で私の名を呼んでくれた。
同じクラスになれたのは最初の1年だけ。でも、それからも距離感は変わらなかった。
中学の卒業アルバム、彼女がくれた言葉は宝物だった。それがたとえお世辞でも、上辺だったとしても、そのことに変わりはない。
それが、中学卒業後、連絡がとれなくなった。
数人の友達と一緒に受けた高校が、彼女だけ不合格だったらしいと、人づてに聞いた。
痛いほど気持ちが分かった。
公立高校の後期試験、合格発表。定刻通りに掲げられた番号の群れに自分のものがなかったときの絶望感。
受験した高校は違ったけれど、私も彼女と同じだった。
比べるものではないが、仲のいい友達は受かっているのに自分だけ、という思いがある分、彼女のほうがもっとむごかったのかもしれない。
分かるよ。分かってほしくないかもしれないけど、分かる。
でも、彼女にそれを告げる機会は来なかった。
高校に入学してしばらく経ったころ。
いつものように駅に向かうバスに乗って窓の外を眺めていると、そこに彼女がいた。髪が短くなっていたけれど、姿勢のよさと歩き方で、すぐにそうだと気づいた。
イヤフォンをしながら、いつもの優しい表情で歩いていた。ブルー系の制服が、ほんとうによく似合っていた。
窓から彼女の姿を見かけることはそれからも度々あった。その度に、「よかった、生きてる」なんて思った。
彼女と話したことが一度だけあった。高校卒業がすぐそこまで迫っていたころ。駅手前の横断歩道で信号を待っていた。
信号が青に変わるまでの、短い時間だった。その数十秒にどんな会話をしたか、もうニュアンスしか覚えていない。
ただ、最後に「またね」と言った。また、が来るのかどうかなんて分からないけど、「じゃあね」で終わらせたくなかったのだ。
昨夜、その日ぶりに彼女を見た。駅の改札を出る人の群れに、彼女がいた。
逆方向でそのまま押し流されてしまったから声をかけることはかなわなかったものの、その分 現在の彼女を焼き付けた。
青地の柄シャツ、ウルフカット。はじめて見る彼女の姿だった。
私の知らない彼女がそこに生きていることが、ひどくうれしかった。
元気ですか。好きな本は何ですか。いつもどんな音楽を聴いていますか。最近あった楽しいことは何ですか。心に留めてある言葉はありますか。大学でどんなことを学んでいますか。
ほかにもいろいろ。いろいろ。彼女に聞きたいことがある。彼女に話したいことがある。
いつか、そんなときが来ることを願っている。
あなたの生き方を、教えてほしい。
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