第22話 やりたいこと

「あ、おかえりー」


家に戻ると、美香がいつものようにだらしのない格好で出迎えてくれる。出てないし迎えてないか……。


「なぁ、お前いつまでいるの?チケット取ってるんだべ?」


「んー?まだ取ってないよ?お盆くらいまで?」


「馬鹿がいる……」


「なによ!馬鹿ってことないべさ!」


「お前……、お盆前後の混雑具合なめすぎだろう。チケットなんかとれないぞ?」


「え?うそ?マジで?」


「あぁ、マジだ。今からじゃ予約はとれないぞ。これだから田舎者は……」


「じゃぁ、お盆過ぎるまでいればいいじゃん」


まるで焦る様子もみせずに期間延長を宣言される。

こいつはこっちに来てから何をやっているんだろう?大体いつもゴロゴロしてるし……


「お前はいつも何してるんだ?」


「ん?夏期講習に行ってる。ヒロ兄と違って勉強好きだもん」


馬鹿に馬鹿にされてしまったが、事実なので「あぁ、そうですか」と軽くあしらっておく。田舎とはいえトップクラスの進学校の生徒は怠けているようで勉強してるんだな。クラスに一人はそういうヤツいたな。


「ヒロ兄はどうするの?」


「どうするって何をだ?」


質問の意図が全くわからなかったため、オウム返しになってしまう。


「だって、今年でヤス兄卒業でしょ?ヒロ兄だってもういい歳じゃん。やりたいことやるの今の内だべ?」


お前は俺の母親か!と突っ込みたくなったが、こいつはこいつで気を遣っているのだろう。

仕事をしてお金を稼ぐ、弟を卒業させる……。自分のやりたいことってなんだ?看護師になってからは「医者になりたい」とはおもったことはあるけど、あまり現実的ではないとおもって諦めている。よくよく考えてみると自分の空っぽさ加減に呆れてしまう。


「ヒロ兄って彼女つくったりとか結婚したいとかないの?」


「ないなぁ。今はそんなこと考えている余裕なんかないよ。自分の仕事で精一杯だ。こっちの心配より自分の心配でもしてろ」


「あ、怒ったー。あたしは余裕だもんねぇ。好きなことするしぃ」


そう軽い口調で話す美香が急に羨ましく思うのと同時に、やりたいことが何もない自分がちっぽけな存在に思えてそそくさと部屋に入った。


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