世界樹

 

 朝。起きて色々と準備をする。魔法で水を用意したら、昨日に引き続き、木が吹き飛んだけど仕方がない。これだけ大きな森なのだから、十本や二十本なくなっても地図には影響ないはずだ。


 そうだ、魔王様が目を覚まされたら、ワイルドボアはもう嫌だ、と進言しないと。


 肉ばかりだと栄養が偏るとか、太るとか血圧が上がるとかそれっぽいことを言えば、何とかなると思う。魔王様のことを思ってのことなのだ。決して自分のためではない。魔王様なら分かってくれるはずだ。問題は魔王様がワイルドボアを食べていない、ということか。




 食事を済ませて、片付けをしてから魔王様に進言した。


「ワイルドボアばかり食べると栄養が偏るかもしれません。今日のお昼ぐらいから別のものを食べましょう」


「ん? ああ、そうか、ワイルドボアばかりだったね。うん。別のものも食べたいよね。昼と夜はそれぞれ別のものにしようか」


 魔王様に私の気持ちが伝わった。良かった。野菜とか果物とか食べたい。その辺に生えてるだろうか。何なら薬草でも可。


「じゃあ、出かけようか」


 魔王様が出かける準備をしたので、その前に聞きたいことを聞いておこう。食べ物のことばかり考えているわけではないのだ。


「魔王様、出発の前にお聞きしたいことがあるのですが」


「うん、何だい?」


「人族と友好的な関係を結ぶために人界に来たのは分かりましたが、この森で迷……探索しているのはどういった意味なのでしょうか」


「ああ、言ってなかったか。まずは人族と接触するのが目的なんだけど、いきなり大きな都市に魔族が行くとかなり高い確率で戦闘になると思うんだよね。だからまずは小さな村にでも行こうかと思っているんだよ。この森にあるはずなんだけどね」


 なるほど。いい加減に探索しているのではなく、ちゃんとした目的があったのか。魔王様、信じてました。


「それともう一つ。世界樹というのがこの森にあるんだ」


「世界樹、ですか」


「うん、エルフ達が守護しているはずなんだけどね」


 本で読んだことがあるので、エルフは知っている。ただ、世界樹は知らない。念のため魔王様にエルフのことも含めて聞いてみよう。


「エルフと世界樹のことを教えてもらえますか」


「えーと、エルフというのは、外見的には男女とも美形が多く、耳が少しとがっているね。あと特徴といえば長命。だいたい四百年から五百年は生きるよ。閉鎖的な種族でね、一生、生まれ育った森からでない、というエルフも多いらしいね」


 閉鎖的……引きこもりというやつだろうか。


「ちなみにエルフの森にある木を傷つけたり、果物とか勝手に持っていったりするとエルフ達は怒るよ。百年単位で」


 なるほど。長寿だから時間の感覚が私たちとは違うのか。面倒くさいので怒らせないようにしよう。


「この森はエルフの森なんでしょうか?」


 そこが問題だ。結構木を吹き飛ばしている。魔王様も木に目印をつけているし、エルフ達に怒られるかもしれない。


「いや、この辺りは違うね。同じ森の中であってもエルフの森は明確に領域が違うらしいよ。分かりやすく言うと、この森の一部分がエルフの森だね」


 そういうものなのか。結構広い森だから全域をカバーできないとかの理由かな。


「あと世界樹はエルフの森にある大きな木だと思ってくれればいいよ」


 大きな木。というと、その実も大きい可能性がある。食べたい。


「もしかすると、魔王様は世界樹についた実を食べたいという理由で行きたいのでしょうか?」


「え? いや、そういう訳じゃないよ。ちょっと用があるだけ」


 言葉を濁された気がする。あまり突っ込んで聞いてほしいことではないようだ。それとも私の言った理由が図星だったのだろうか。私もぜひ食べたい。


「なるほど、勉強になりました」


「うん。それじゃ出発しようか」




 お昼はワイルドスネークだった。私の期待した食べ物ではない。いや、大丈夫だ。近くに野菜とか果物がなかっただけだ。意図的にワイルドスネークをとってきたのではないはずだ。夜に期待しよう。


 そういえば、人族もエルフ族にも会わなかった。結構森を彷徨っているが一人も会わないとなると相当広い森なんだろうか。もしくは、森にいる人族やエルフ族は個体数が少ないのかな。


 まあいい。午後も頑張ろう。




 夜はワイルドベアーだった。違うんです魔王様。なんというか、肉がもう嫌なのです。太るから。


 もうちょっとこう、しっかり意思を伝えたほうがいいのだろうか。いや、魔王様は優秀な方だ。私の気持ちなど手に取るようにわかるはずだ。


 そう考えてみると、私は忠誠心を試されているのかもしれない。


 そう考えると合点がいく。森で迷ったと見せかけた上に、同じ食べ物を食べさせて極限状態を作り、その状態でも忠誠を誓えるかどうか試しているのだ。


 危ない。そんな罠に引っかかる私ではない。魔王様への忠誠心は魔界一だと自負しているし、この程度では魔王様への忠誠は微塵も揺るがない。ちょっとモヤっとするが、それだけだ。


 日記にもしっかり書いておこう。私の忠誠は揺るがないと。


 よし、明日も魔王様のために頑張るぞ。

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