第27話 問題児ちとせ

 ちとせの家を出て、ホテルに到着した。

 ベッドにダイブして、ようやく足を伸ばせた。


 ここまでずっとリラックス出来るような状態ではなかったので、一気に眠気が襲ってきたような気がした。


 とりあえず、シャワーに入る準備を整えて、シャワーを浴びるためバルルームへと向かった。



 ◇



 シャワーを終えて、LANEを見ると、ちとせからグループに招待をされていた。

 そのグループに入ると、ちとせ以外にも30人ほどのメンバーがいるグループで、今はちとせを含む4人のメンバーでグループ通話をしているようだった。


 だが、いつものように僕はその通話に入ろうとは思わなかった。なぜならば、先ほどちとせと楽しそうに話をしていたあの男も、その通話に参加していたからだ。


 一人部屋で寂しく夜を迎えるのも、なんか嫌な気分だったので、他のどこかでグループ通話が行われていないかを探した。すると、『幸せなメンバー』のところでグループ通話が行われていた。


 通話で話している人を見ると、あおいさんと遼さんの二人だけで、ちとせの姿はない。僕は迷うことなく、その通話に参加した。



 のだが…


『好きだよ、あおい。』

『うん…ありがと、遼♡』


 ・・・入るタイミング完全にミスったぁ~

 そういえば、あおいさんと遼さん付き合ってるの忘れてた。どうしてくれるんだこの気持ち。


『??あ、似鳥さん。こんばんは~』


 そっと通話から抜けようとした時、あおいさんに気付かれてしまう。


『お、やっほ~似鳥君!』

「こ、こんばんは・・・」


 僕は苦笑しながら挨拶を交わした。


「なんか、ごめんなさい」


 そして、二言目には謝っていた。


『え?なんで謝ってるの?』

「いや、今は言っちゃいけないタイミングだったなと思いまして…」

『あぁ!そういうこと!気にしないでいいよ!』


 いやっ、こっちが気にするんですってば。


『どうしたの?一人で通話は言ってくるなんて珍しいね』


 すると、あおいさんに鋭いところを突かれた。


「あぁ…いや、今日はちとせに会いましたし、もう充分かなと思いまして」


 そう理由を述べると、あおいさんも納得したように返事を返してくれた。


『えっ!?似鳥さんちとせに会いに行ったんですか?』


 今度は遼さんから質問を投げかけられた。


「はい、昨日のこともあったんで…」

『昨日のこと?』

「実は…」


 こうして、昨日グループ通話を抜けた後の出来事。そして、今日あった出来事を事細かにあおいさんと遼さんに分かりやすく説明した。


『なるほどね…そんなことが・・・』

『大変だったね、似鳥さん。』

「あぁ、いえ。出来る限りのことをしてあげただけなので。まあ、実際ちとせ本人が僕の行動をどう受け取ったかは知りませんが」

『いやいや、ちとせもそこは感謝してると思うよ?』

「そうですかね?空気のように扱われて、挙句の果てにはいらない扱いですよ?」

『あ~・・・それは後で私から怒っておくかなぁ・・・』

「ありがとうございます。気持ちだけでいいですよ。それはそうと、あおいさんには他に聞きたいことがあるんです」

『ん?何かな?』

「今までちとせって、昨日みたいに情緒不安定になって病院送りになったことってあるんですか?」

『う~ん・・・私も高校卒業してからはしばらく連絡とってなかったからなぁ、詳しいことはわらないけど、高校の時はしょっちゅう病んでて、学校の屋上に逃げ出して、私が慰めてたかなぁ』

『へぇ~そうだったんだ!』

『おめぇは、少し黙ってろ遼!』

『ごめんなさい、黙ってます』


 遼さん、完全にあおいさんに押し切られちゃってますよ。僕が苦笑していると、あおいさんは話を続けた。


『まあでも、昔なら暴力も振るってたし、ちとせも大分大人になって落ち着いたんだよ?昔なんて、学校の壁殴ってぶち壊したり大変だったんだから』

「ただの問題児じゃないですかそれ・・・」

『まあ、実際問題児だったからね、先生にも「ちとせさんはもう手が付けられない」って諦められてたし』

「それは、問題児にもほどがある問題児ですね」

『そうだよ?だから、私はいつも屋上にちとせを探しに行って、落ち込んでる理由聞いて慰めてたんだから』


 ・・・昔のことを思い出して、話すあおいさんは、表面上の口調は愚痴のように語っている者の、あおいさんでちとせのことを大切にしている愛情のようなものが言葉の裏から読み取れた。


「あおいさんは、ちとせのこと大切に思っているんですね」


 僕は話の途中でついそんな言葉が漏れた。


『・・・まあ、私はちとせのだからね』


 僕はその言葉に引っ掛かりを覚えた。そういえば、ちとせは一人暮らしだったな。

 両親の話も聞かなかったし、家族のことをちとせの口から耳にしたことは一度もなかった。あおいさんから聞いた高校の時の話と同じく、ちとせのことまだまだ僕は知らないことだらけなのかなと感じてしまう。


 その時だった、一通のLANEのメッセージが『幸せのメンバー』のチャットに届く。


『へぇ~私のこと話してるんだ。そっか。もういいよ。』


 その文面は、ちとせからであった。何かすべてを悟ったかのような言い草であり、その直後、何とちとせは『幸せなメンバー』のグループから退会してしまったのだ。


「あおいさん、なんかちとせが意味深な発言をしてグループ退会しちゃったんですが…」

『えっ!?』


 驚いたようにあおいさんがスマホの画面を確認しているのか、黙っている。


『ちょっと、待ってて、個人で通話してくるから』


 そう言い残して、あおいさんはグループ通話を抜けてしまった。


「どういうことだ??」


 確かに今までちとせは、他のグループで通話をしていたはずだ。なのに、なぜこのグループで自分の会話をしているのだと分かったのだろうか?可能性があるとすれば、知らないうちに一瞬通話に入って来ていたか、誰か内通者がいたかのどちらかであろう。


 だが、スマホの画面を見ながら通話していた限りでは、ちとせが入ってきたような痕跡はなかった。となると・・・


『誰かちとせに言ったか?』


 僕と同じ考えにたどり着いた遼さんがそうつぶやいた。


「そうみたいですね…」


 正直ここにいる人たちは、みんながちとせのことを大切に思っている人たち。正直疑いたくはなかったが、このような事態になってしまった以上誰がこの会話をちとせに伝えたのか、疑いの目を向けなければならない。


 犯人捜しは正直したくないのが、お互いの意見のようで、それ以上は青井さんが返ってくるまで何も発さなかった。




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