第14話 やっぱり寝落ち通話

 夜、ちとせとの通話を終えて、寝る準備を整えてベッドに倒れ込んだ。


 今日はちとせは『ゆうきくん【彼氏(仮)】』と寝落ち通話をするため、僕は、一人寂しく就寝を迎えようとしていた。


 ちとせと出会う前までは、寝落ち通話なんてしたことなく、いつも一人で自室で眠っていたのでちとせがいなくても眠ることは出来るので問題はなかった。しかし、いざ久しぶりに一人で寝ようと思うと、物寂しさを感じてしまう。


 僕はベッドの横に充電コードに差しっぱなしのスマホを手に取って、画面を何となく開いてみた。ちとせから何かメッセージは来ていないだろうか、そう思ってわずかな希望を望んでいたからだ。しかしながら、当然ちとせからの連絡はない。今頃ちとせは好きな人だけに見せるような照れ笑いをしながら『ゆうきくん』と寝落ち通話をしているのだろうか…

 また、嫌気が差して、ナイーブな気持ちがぶり返してきそうだったので、首を横にブンブンと振って、考えていたことを忘れる。


 そうだ、今日はいつも構ってちゃんのちとせがいないんだ。今日はむしろ一人の時間を使える自由の身なんだ。そうポジティブにとらえて、夜を満喫することにした。


 いつもなら寝ている時間だったが、今日は起きてたい気分になった。

 本棚から、最近買い込んだ漫画を取り出して、ベッドの上に寝っ転がりながら読むことにした。久々にストレスなくこうして一人の自由時間を過ごしている。そんな気がした。


 あっという間に、1巻を読み終えて、続きを本棚から取り出しに行くため、体を起き上がらせた時だった。スマホの通知ランプがピコピコと点滅してるのが視界に入った。


 何だろう?なんかアプリの広告でも来たか?そう思いながら画面を開くと、LANEから一通のメッセージが届いていた。通知欄には、『暇・・・』と書かれたメッセージが書かれており、あて先は、ちとせからとなっていた。


 僕は急いで通知の枠を押して、LANEを開いて、ちとせのトーク画面にショートカットして向かった。

 ちとせとのトーク画面を開くと、何件かメッセージが送られてきていたようで、写真も送られてきていた。写真を確認すると、スクリーンショットで取られた、『ゆうきくん』と思われる人とのトーク画面が映し出されており、ちとせが『準備できたけどまだ??』『ねぇねぇ』『お~い』というメッセージに対して、既読が付かず読まれていない状態になっていた。


 そして、写真の次には、『既読付かないんだけど』というメッセージが書かれており、その5分後に先ほど通知欄で見た『暇・・・』というメッセージが書かれていた。


 時間を確認すると、ちとせから『暇・・・』というメッセージが送られてきたのは3分前。今返事を返せば、十分間に合うかもしれない。そう思って、僕は『どうしたの??』『返信きた?』と返事を返した。

 その瞬間、僕の返事を待っていたかのように即座に既読が付いた。


『まだ、付いてない…』


 と返事が返ってきたのに続けて。


『もういいや・・・にとお兄ちゃん通話しよ!』


 っと、今度は僕に向かってそう言ってきた。


 僕は、申し訳ないことをしちゃったなという罪悪感など一切なく、「うん、いいよ!」と即座に返事を返していた。この時の僕は嬉しかったのだ。心のどこかで、『ゆうきくん』と寝落ち通話してほしくない。そういった感情があったのだろう。さらに言えば、こういう時にお零れの方な形ではあるが、ちとせが僕を頼ってきてくれたのが何よりもうれしかった。あぁ…ちゃんとある程度は信頼されているんだな、といったような安堵感さえ生まれていた。


 僕は、勢いそのままに通話ボタンを押してちとせが出るのを待った。そして、ガチャいう音が鳴り、スマホを耳に近づけて、「もしもし?」と食い入るような口調で挨拶をしたとき、ちとせが『あぁ…安心する声だ…』っと言ったのを僕は逃さなかったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る