第6話 フトゥーロ

 学校が終わり、電車で20分ほど揺られ、カナエの行きたいカフェの最寄駅に着いた。


「あった!あそこだ!」


 10分ほど歩き、カナエが指をさした看板には「フトゥーロ」とチョークで書いてある。

 店に入り、席に着く。

 思っていたより広い店内。

 2組、私たちを入れて3組しか入っておらず点々と座っているので少し寂しい感じがする。


「カプチーノが人気なんだって」


 カナエが喫茶店巡りに人を誘うのは、

「誰かといった方が楽しい」

 と本人は言う。それもあるが、違う種類のものを頼めば他の商品の味見もできるって言う打算もあるんじゃないかなって私は思ってる。

 ちなみにカナエは毎回ブラックのホットコーヒーを頼む。

 理由はその店の味を知るには一番基本の味を頼むに限るから、らしい。

 私は普通のコーヒー以外のオススメを頼むようにしている。

 これは自分が違うのを味見したいからってだけなのだが。


「なら私はカプチーノにしよ」


「さすがセナ、わかってる〜!」


 どうやら私たちはそれなりに分かり合えているのだろう。

 なんて考えて笑みがこぼれる。


「何ニヤついてんの?」


「私たちって友達だね」


「何いまさら〜」


 カナエがクスクス笑う。

 ちょうどいいタイミングで店員が来たので注文をする。


「進路決まった?」


「まだ〜」


「全然?」


「全然」


「余裕だね〜」


「全然余裕ないよ」


「え〜勉強できるしどこでもいけるから選び放題じゃん」


「いや私バカだから」


「知ってる。勉強できる人がみんな頭いいわけじゃないからね」


 顔をニヤッとさせたカナエが言った


「何それ、バカにされてる?」


「どうでしょうね?」


 またクスクス笑っているカナエ。

 完全にバカにしてる顔だ。


「絶対してる」


「よくわかったね、さすが勉強できるだけある」


 謎の拍手を受ける。喜びはわかない。


「誰でもわかるし!」


 そういってる間にコーヒーが落ち着いた大人の香りとともにテーブルへ届く。

 湯気の立っているカプチーノを一口飲む。

 うん、美味しい、カプチーノだ。

 正直私には違いなんてわかんない。

 美味しいかまずいかぐらいしか。

 バカ舌ではないと思う。みんなが美味しいと思うものは美味しいと思うし、まずいと思うものは私も同様にまずいと思っているから。

 ただ敏感ではないってだけだ。


「どう?」


「美味しい」


 コーヒーとカプチーノを交換して飲む。

 うん、苦い。

 カプチーノを飲んだから余計に苦く感じる。

 決して私の口がお子ちゃまだとかそう言うことじゃない! わかんないけど


「あたりね」


「よかったじゃん」


 ちなみにハズレとあたりの違いは私にはいまいちわからない。

 お店のコーヒーは大体美味しい。

 一口づつ飲み終えた後にカナエが砂糖とミルクを入れる。

 また一口飲んで

「うん」

 と頷きこっちに渡してくれる。

 私も一口飲む。

 ふわっとした砂糖の甘さとミルクのなめらかさが口に流れてきた後、コーヒーの香りが緩やかに滞在する。


 さっきより美味しい。


「バリスタになれる」


「お褒めいただき光栄です」


「うむ、苦しゅうない」


「それ使い方あってんの?」


「わかんない」


「あっ、それなんか久々に聞いた気がする!」


「えっ何が?」


「わかんないって言うセナの口癖」


 昔から口癖と言われていてそんなに自覚はなかったが、自分的には最近よく思ってる気がしていた。


「最近言ってなかった?」


「うん、全然」


「賢くなってわかることが増えたからね」


「来年の進路もわかんないくせに何言ってんのよ」


 カナエに笑いながらズバッと言われる


「うわー傷つくな〜」


「嘘つけ」


 二人で笑う。


 他の人に言われてたら傷ついたかもしれないがなぜか、カナエに言われても傷つかない。

 それどころか頑張ろうと思えるから不思議だ。


「進路で困ってる友人にアドバイスはないの?」


 カナエは、進路について情報とかは聞けば教えてくれるが、どうしたほうがいいんじゃない? みたいなアドバイスはくれない。理由は


「ない、好きに生きれば?セナがホームレスとかどうなっても私、関係ないし」


 清々しい。

 人によっては冷たいと思うこの言いぐさでも私はカナエのことも、この後に続く言葉も知っている。


「でも、あんたがどうなっても私はセナの親友だから、ただの友人じゃなくてね」


 迷いなく私を見つめて言い切ってくれる。

この言葉に私は割と助けられてると思う。

 

 わかんないけど


 帰る時間になるまでしっかり遊び、電車の中でもずっとカナエとのおしゃべりを楽しむ。

 正直カナエといればスマホはいらない。

 ずっとカバンの中にしまいっぱなしだ。

 基本、私は誰かといる時にはスマホはあまりいじらない。

 一人の時は割と触っていて、使用量でいえば世間一般の学生の平均値だろう。

 誰かといれば喋っている方が楽しいからいじる必要がなくなる。


 友達からは、遅い時はほんと遅いけど早い時は秒すぎると言われる。

 みんなはだいたいおんなじペースで返ってくるけど、私はきてるのがわかればすぐ返してしまう。

 恋の駆け引きなんてしたこともないしできもしない。

 別にしたいとも思わない。

 友達に暇かどうかすぐばれるのは少し微妙。

 まあそんなに気にすることではないと思う。

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