第47話 過射聖症

 翌朝。


 案の定、俺とラマニアは盛大に寝坊し、目を覚ました時は既に昼過ぎだった。


 その為、コウガ君のビロープ行きの予定は一日先延ばしとなり、この事について誰も怒る者はいなかったのだが、俺とラマニアはみんなに謝ってまわった。


 だがその中でヴィアンテ様だけはとても嬉しそうにしていた。



「予定が遅れた事はまぁ良い。それよりもリン、お主の成長には目を見張るな。よくぞこの短期間でそれほどの聖力せいりょくを身につけた。このぶんなら………」


「このぶんなら?」


「いや、何でもない。お主はこの調子で鎮火活動ちんかつせいを出せば良い」


「………はい」



 そして当初の予定から遅れること一日、二人目の鎮火の勇者コウガ君とラマニアは、サンブルク王国の西の大都市、ビロープ領へと旅立っていった。


 ラマニアとの暫しの別れは辛くないと言えば嘘になるが、この世界を守る事のほうが優先事項だ。


 ヴィアンテ様はと言うと、例の社長さんにしばらく休むと挨拶に行ったら相当ゴネられたらしい。


 それでしばらく休む代わりの条件として、何本か新作の撮り溜めをしてから再び地球へ行く事になったとかで、朝早くから出かけて行った。


 残された俺とティアロさんはレベルアップと鎮聖滓ザメインの採取を兼ねた聖交渉セクルスに励む………励まなきゃいけないはずなんだけど………俺はそんな気分になれなかった。


 ティアロさんも何度か俺の部屋を訪ねてきてくれたんだけど、どうしても『聖塔ミティック』を出す気になれない。


 こんな事じゃ駄目だ。


 もし今、こんな状態の時に『炎』が発生したらどうするって言うんだ。


 わかってるはずなのに、やる気と『聖塔ミティック』が起きなかった。


 何もせずベッドの上で寝転んでいるだけの、そんなダメ人間の俺の部屋をノックする音が聞こえた。


 またティアロさんだろうか?



「はい………?」


「こんにちは、リンさん」


「モフカーニさん」



 ノックの主はモフカーニさんだった。



「どうですか、少し気分転換に散歩でも」


「は、はい………」



 本当は散歩という気分でも無かったが、モフカーニさんににこやかに微笑まれるとどうも断りにくい。


 俺はモフカーニさんの後について行き、王城の中庭をぶらぶらと歩いた。


 ただ黙ったまま歩くのも気まずいな~なんて思い始めた頃、モフカーニさんのほうから話題を切り出してきた。



「さてと。本題を後回しにするのも時間の無駄ですし、さっそくですがリンさん。今、あなたの身に起きている症状についてお教えしましょう」


「俺の症状………?」



 この無気力状態の事か?


 これって何かの病気のようなものなのか?



「病気………そうですね、肉体のではなく、心の病気と言えるかもしれません。近いもので躁鬱そううつですね」


躁鬱そううつ……」



 俺の世界にもある病気だし、詳しくは知らないけどなんとなくはわかる。



「より正確に言うならば、『過射聖後躁鬱かしゃせいごそううつ』という状態です。あまりにも過剰に射聖しゃせいをし過ぎたために、体と心が休みたがっている、と言えばわかりやすいでしょうか」



 なるほど、つまりはあの夜の反動という事か。


 俺も心のどこかで多分あれが原因なのではと思ってはいたんだ。



「……ですので、今の無気力状態は『エルフの霊薬』を飲んで少し休めばすぐに回復します。問題なのは『過射聖かしゃせい』のほうです」



 たしかに………あの夜の俺は自分でも変だと思うほどにおかしかった。


 過剰な射聖しゃせいが原因なのだから今後気をつければいいというような簡単な事とは思えない。



「原因はいくつか考えられますが、まず一つ目はリンさんの急激な成長レベルアップに体が追いついていなかった。これについては心配せずとも、すぐに順応して安定するでしょう」



 モフカーニさんはまるでお医者さんのような口調で人差し指を立てながら解説する。


 そして次に中指も立てて続ける。



「二つ目はあなたとラマニア姫の『相性』が良すぎた事………と考えたのですが、お二人が聖交渉セクルスをされたのは初めてでは無い。となると考えられる三つ目………」



 薬指を立て、急に真剣な表情をするモフカーニさん。



「リンさん。あの夜の聖交渉セクルスは普段のとは違ったのではありませんか?」


「違った………?」



 そう言われて思い出してみる。


 だけど『聖塔ミティック』を『聖門ミリオルド』に挿入するというのはいつも通りだ。


 何か違いがあっただろうか?


 俺は目を閉じて、あの夜の最初の聖交渉セクルスの時の事を思い浮かべた。



「やはり………」



 突然モフカーニさんが納得の声を漏らした。


 あ、そうか、モフカーニさんは心が読めるんだった。



「原因がわかったんですか!?」


「はい」

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