第36話 領主会議①
鎮火の勇者の取り合い。
その言葉を聞いて最初に頭に浮かんだのは、「よく考えたらそうなるのが普通だよな」だった。
この世界に来たばかりの頃ならともかく、今は『鎮火の勇者が俺一人しかいない』という問題についても知っているし、むしろ今までそうならなかった事と、その可能性に考えが及んでいなかった自分自身が不思議だ。
「……取り合いという言い方を否定はしませんが、根底にあるのは皆『自分の土地を守りたい』という気持ちゆえです。そして他の土地がどうなってもいいと思っているわけでは無いという事もご理解頂きたい」
ガッツさんが毅然とした態度で弁明する。
だがその言葉に嘘は無く、正直な気持ちなのだという事は疑いようもなかった。
「ではラマニア
「え、ええ。お気をつけてお帰りください」
ガッツさんとタックスさんはラマニアと俺に深々と一礼して王城を後にした。
二人を見送るラマニアの表情は辛そうな、悲しそうな、複雑な色を含んでいるように見えた。
「ラマニア………」
「リン様……ご不快な話をお聞かせし、申し訳ありませんでした」
「いや、そんな事ないよ。ガッツさん達の立場からすれば当然の不安だろうし、俺も考えなくちゃいけない事だったんだ。むしろその事に気づかせてくれたと思ってるよ」
「リン様………」
「そこでラマニア、夕食の後でいいから色々と教えてもらいたい事があるんだ」
夕食後、俺はラマニアに頼んでこのサンブルク王国の事を詳しく教えてもらう事にした。
国土はどのくらいの広さなのか、どの地域へはどの交通網を使うのが一番早いのか、自分なりに学ぼうと思ったのだ。
二人目の勇者がいない現状では、それが俺にできるせめてもの事前対策だ。
と言うかそれしかできる事が無いというのがなんとも歯痒い気分だったが。
それから一週間の間に西のビロープ領という地域で『炎』が一度発生し
サンブルク王国の各地から領主達が集まり、今後の
場所はサンブルク王城の大会議室。
前もって言われていたように俺もその会議に出席する事になったが、いかにも偉い立場そうな人達の中にあって俺は場違いな感じがしたが、できるだけ堂々とした態度をとるよう心掛けた。
知らない人達ばかりの会議室の中で俺がわかる人物は王女のラマニア、ブルウッド領の領主ガッツさん、モスッド領の領主タックスさん、そしてエルフの聖地からモフカーニさんも来ていた。
それと俺は初めて見るが、会議室の中央にはこの国の国王でありラマニアの父でもある、ツィゼリー王が鎮座していた。
よくよく考えれば何故俺が今まで国王に挨拶もせずラマニアと
その国王に代わりラマニアがこの会議の議長代理を務めていた。
「我がサンブルク王国の各地を治める領主の皆様、本日は遠路はるばる足を運んで頂き感謝致します。今回の議題は皆様すでにご承知かと思いますが、再びこの世界各地で発生し始めた『炎』の脅威についてであります」
今回の議題についてはここにいる全員があらかじめわかっていた事のはずだが、あらためて人の口から『炎』と聞いて大きなため息を漏らす者が何人かいた。
「……まずはお手元にお配りした資料をご覧ください。過去に発生した『炎』に関するデータを集めたものです」
俺の手元にも同じ書類の束があるが、俺にはこの世界の文字が読めない。
なので前日の内にラマニアが俺にだけ資料の内容を読んで教えてくれていた。
「この資料は主に100年前に発生した『炎』を元に作成しております。正確には108年前になりますが、この時は最初に発生した『炎』から最後に発生した『炎』までの期間はおよそ一年間。それ以降は今年の最初の『炎』発生まで一度も『炎』は発生しておりませんでした」
「では今回も、この約一年間を乗り切れば良いという事ですな?」
「はい。前回と同じなのであれば、そのはずです」
約一年間か……。
まだ一ヶ月も経って無いんだよな。
「そして100年前のケースでは、『炎』の発生頻度を基準にして三つの段階に分けられます」
そう、昨日ラマニアから聞かされて一番背筋が凍ったのがこの項目からだった。
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