Second war ―紫電昂雅、第二の戦い―

リ名塚 伊ギス

プロローグ

紫電昂雅は改造人間である。


彼が改造されたのは八ヶ月前のこと。二十三の平行宇宙を手中に収め地球に侵攻してきた時空帝ウラナガンの手によってである。

侵略の第一手としてその世界の人間を改造、洗脳し尖兵とするのが、異次元世界からやって来たこの暴君のやり口だった。


ウラナガンの手足となっていた二ヶ月間のことを昂雅は一切覚えていない。そもそも記憶という行為を脳が実行していたのかも怪しいところだ。


その彼の記憶が不意に蘇ったのが六ヶ月前。

この忌まわしい洗脳から解き放たれた瞬間からだ。


洗脳を解いたのは地球人たちによるレジスタンス組織『オーダー』の一員である識者シュメイルによってである。

一面瓦礫の山となった故郷の町。行方知れずとなった家族。二ヶ月ぶりに目覚めた昂雅に突きつけられた現実は過酷なものであった。

怒りに震える昂雅がオーダーに加わり、ウラナガンとの戦いを決意したのは必然の流れだと言えるであろう。


それは復讐の戦いであった。


昂雅の武器はウラナガンより与えられていた戦闘用バイク、エナジーブレイド、鳥型支援メカ、といった兵器をオーダーが研究し再改造したもの。

そして改造手術により昂雅自身の体内に埋め込まれた約七千億のナノマシンだ。

ウラナガンの超技術により作り出されたこれは昂雅の身体能力を向上させ、それのみならず宿主の如何なる傷をも修復し、体内に入りこんだどんな毒物、ウィルスも瞬く間に中和してしまう。

そしてこのオーバーテクノロジーの極めつけといえる機能が宿主の意思に従い全身に戦闘用プロテクターを装着する『トランスフォーメーション』であろう。


トランスフォーメーション――底上げされた身体能力を更に飛躍させ、一人の人間を戦闘兵器へと変貌させるこの脅威的機能を使い昂雅はウラナガンの戦闘兵器を次々を撃破していった。


オーダーの部隊とともに『タワー』と呼称されるウラナガンの前線基地を初めて潰したのが二十八日前のこと。


四つ目のタワーを破壊し、ウラナガンの居る時空城の位置を特定したのが九日前。


オーダーによる最終作戦『ヴァルカンズハンマー』が発動したのが三日前で、オーダーの仲間とともに昂雅が時空城へと乗り込んだのは十三時間前のことだ。


オーダーの部隊との共同作戦で一人最深部へと到達した昂雅は四天王最後の一人近衛剣士シュナと相見える。

地の利を知るシュナに苦戦するもその右腕を切り落とし退けたのが七十分前。


群がる近衛兵を蹴散らし玉座の間で時空帝ウラナガンと対峙したのが三十五分前。


ウラナガンの能力に翻弄されながらも、昂雅は気力を振り絞り怨敵の胸部にエナジーブレードを突き立て見事復讐を完遂してみせる。

ウラナガンが最後の悪あがきを行い時空城の機能を発動。昂雅を異空間に引きずりこんだのは次の瞬間――六分前のことだった。


足元から地面の感触が消滅し、万華鏡を覗き込んだように千変万化する極彩色の模様が昂雅の眼前に広がっていく。

全身を包み込むのは急速な落下の感覚と強烈な船酔いにも似た酩酊感だ。


背中に固い物がぶつかりこのトリップから開放されたのが一分前……いやもう二分前になるだろうか。


トリップしていた時間は一瞬か、数時間か、昂雅には判断がつかなかった。

まずい――慌てて目を開け、両手両足を動かし拘束されていないことを確認しつつ素早く起き上がる。

その彼の完全に広がっていたのは見知らぬ異世界の風景であった。

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