第25話 監禁された男


気が付くと

全く見覚えの無い部屋にいた


いつから

どういう理由でここにいるのか

男には全く分からなかった


男は一刻も早く

自宅へ戻りたかった


自身でデザインをして建築家に

図面を引かせて二年かかりで

建てたあの我が家へ


床材一枚にも凝り

わざわざギリシャから特注で

取り寄せたとても貴重な

真っ白な大理石の床材が敷かれた

我が家へ


しかし

どうしても今の現状が思い出せない


思い出せる事は

我が家での楽しかった想い出の数々と


一時ガレージに収められていた

フェラーリやランボルギーニとの

想い出の数々だけであった


どうしてこんなに狭い

留置場みたいな場所に

自分が入っているのか


なぜ誰も居ないのか

自分一人なのか


疑問だらけで有った


しかし

幸いなことにここは日本であった

日本語が通じるので色々と情報を

集めた


場所はどうやら沖縄らしい

自宅は横浜にあったのに

どうして沖縄に監禁されたのだろう?

一体誰が何の目的で・・・


かろうじて財布の中に現金が残って

いたので、見知らぬ土地の見知らぬ

店で食糧は買えた


その部屋には鍵が掛かっていなかった

から出入りは自由に出来たのだ


でも何か様子がおかしい


地元の警察署に

何者かに拉致・監禁された

と飛び込んでも全くとりあってくれず

憐れむような視線を向けられたのだ


状況が全く理解できずに

時間だけがどんどん過ぎていく

手元の現金も減ってきた


そんなおり

男は警察で言われた一言を

ふっと思い出した


早く医者に行って診て貰った

方がいいよ

なるべく早く


その言葉を頼りに

男は病院に行った

しかし、何か所かたらい回しに

された挙句にやっと診断を告げられた


ええーっとですね

端的に申しますと

あなたの病状は

精神分裂症と記憶障害ですね


えっ??

自分が精神分裂で記憶喪失だって??

それは何者かに監禁された際に

拷問でも受けたからなのか??


男は混乱しつつも

医師の奨める治療を受け

薬を飲んだ


すると次第にぼやっと

記憶の一部が蘇ってきた


そうだった・・・

あの素晴らしい我が家は

再開発事業で取り壊されたんだった・・・


築年数まだわずか十三年で

鉄骨作りのため本来なら五十年

耐久性の有った我が家が


ガレージ付きの三階建てで

ルーフバルコニーを入れると

三百㎡以上あった我が家は


あの日いくつもの重機によって

ズタズタに引き裂かれたんだった・・・


その光景を見たショックで

意識と記憶を失った様子を

かすかに思い出した


そして

ついに全てを思い出した


そう

今監禁されている部屋は

沖縄に移住して

自らが

購入した家であった事も・・・

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