第19話 ちくわの男


その男は

今晩の晩酌のつまみに

ちくわを口にしていた


どうしてそんなことを

したのか


今でもハッキリとした

理由は分からないが


その日

男はなぜかふっと

ちくわの穴を覗いて

反対側を見たい衝動にかられた


すると

まるで万華鏡のように

反対側には

幻想的な異次元の光景が

広がっていた


驚いた男は

あわててちくわの穴から

目を離す


すると

いつもと変わらぬ我が家の

部屋の中の光景


訳が分からず

恐る恐る再びちくわの穴を覗き

穴の向こう側を見る


やはり同じだ

ピカソやダリの絵画のような

幻想的な光景が広がっている


自分の身に起きている事態が

ただ事ではないとぞっとし

男はあくる日すぐに

脳神経外科と精神科を受診した


検査の結論が出るまでには

三か月もの時間を要した

そして、結論は信じがたい

もので有った


現代医学では全く原因も理由も

分からないが


男の身体は

丸い穴を覗く

つまり視覚的に見ると


目の視神経と繋がっている

脳のある部位のニューロン異常

により


実際の光景ではなく

脳の中で脳自身が見ている

幻覚や幻影が見えてしまう

のだという


現代医学では想像もつかない

ような病気がまだまだあるものだ


男は怖さ半分・好奇心半分で

あらゆる穴を覗きたい衝動に駆られた


そしてとうとう

彼女に何度も何度も頼み込み

彼女の耳の穴を覗かせてもらった


そこには

また更に彼自身も思いもしなかった

光景が広がっていた・・・

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