第15話 アクアリウムの世界


平成の次の次の元号の時代の

全世界での話


その時代には地球上では、人間対エイリアンの

熾烈な争いが繰り広げられていた


エイリアンの存在は平成の終りごろに

SNSでの膨大な情報流通や

NASAが公式に発表した

太陽系が属する天の川銀河以外の銀河から

送り込まれてきた未知のエイリアンの探査機

発表により、急速に人類にとって現実のものと

なっていった


まず最初に人類が気が付いた事は

エイリアンが人間に擬態して地上に降り

人間に紛れて普通に生活している

という事実


擬態が一瞬フリーズして本体が露呈した

画像が様々なメディアに取り上げられる

ようになってからだ


最初はみな、愉快犯のCG映像だと思っていたが

映像の数が余りにも多く、全世界に散らばっている

中には全くCG映像に見えないシズル感に溢れた

動画も多数見受けられた


その段になって人類は

やっと真剣に対応を考え

各国の軍隊やあらゆる研究機関が情報を収集し

やっと以下のことが判明した


地球上で擬態をしているエイリアンは

どうやって擬態をしているのか


簡単に言うと、

人間に似た人工皮膚を着ぐるみのように被って着て

皮膚感覚まで相手に感じさせる

高度なホログラム3D映像で身体全体を覆い

人間らしく見せているのだ


人間に紛れている理由は?


地球人の観察

地球を支配する際のための情報収集


様々な理由が検討されたが

ハッキリとは解明されていない


次に

人間とエイリアンの見分け方の研究が

進められた


研究結果は実に不思議なものであった

大きく分けると二つに分類される


ひとつは「特定周波数帯の音圧に弱い」エイリアン

もうひとつは「特定の臭気に弱い」エイリアン


音圧を発生する機械も臭気を発する機械も

大きさは小型高圧洗浄機位のコンパクトさで

重さも二、三キロ程度で、機内持込サイズ位の

キャリーケースに収まり、ガラガラとひいて

持ち運ぶことも可能だ


ただ

臭気の機械の方は、定期的に臭気の元を

作る原料の補充が必要になる


音圧の機械の方は、幸いなことに

人間の耳には聴こえない周波数帯の物であったため

間違って人間に向けてしまっても害は無かった


臭気の機械の方は、ノネナールが主成分のため

人間の鼻にもハッキリと分かる位の加齢臭

おっさん臭さが漂った


エイリアン側も当然対応をしてきた

彼らのテクノロジーは当然人類よりも

遥か先を行っているので

エイリアンの擬態が融けて本来の姿が露呈した

場合、それを目撃した人間のその部分の記憶を

消し去ってしまうのだ


人類も再び対策を考える


記憶を消されないように頭にすっぱりかぶる

電磁波除去用の素材を応用した素材で

特殊メイクのベースとして使われる

頭皮の皮膚状の脳を保護するかぶりもの

を開発したのである


ただし、そのままかぶったのでは

怖いスキンヘッドの人になってしまうため

人々はそれぞれの社会生活に合わせて

その人口頭皮の上に植毛し

七三分けや短髪・ホスト風・様々な髪形に

アレンジして使用していた


人々だけでなくエイリアンも同じように擬態して

機内サイズのスーツケースを縦に二つ重ねた

五キロ程度の荷物をトローリーケースに詰めて

ガラガラ引きずって街を歩くことを余儀なくされた


世界中の大都市は

ただでさえ人口が密集して窮屈な状態なのに

持ち歩く二つの機械がさらに空間を圧迫して

水の中のような窒息感をおぼえる程に

窮屈さは達していた


そして

例えばビジネスマンなら、初対面の者同士で

機械を向けあう

どちらかが逃げようとすれば、それはエイリアンだ

逃げてくれればまだよいが、中には人間に襲い掛かって

くるエイリアンもいる


そうなった時にはもう生身の肉体でガチンコの対応

をするしか方法はない


銃の規制のない国では銃で

刀剣の規制のない国では刀剣で

日本の様な国では、一般的に購入可能な範囲の

護身具で


そういった状況で

世界中の人間もエイリアンも常に緊張状態を

強いられた


そんな状況が久しく続いても

お互いに理解しあったり

共存しあう方法は検討されなかった


遥か何百万光年の彼方

つぶさにその様子を観察している者がいた


それはエイリアンを地球に送り込んだ

責任者であった


今日もその責任者は地球の様子を観察

している


今日もまたミジンコ(人間をそう呼ぶ)と

チェリーシュリンプ(エイリアンのこと)の

攻防が激しく続いているな


人類が想像も出来ない程進化した

責任者の目には


地球という名前の水槽で

ミジンコが共喰いしたり

束になって

チェリーシュリンプを捕まえたりしている


そんな程度に見えていたのである


そんな水槽は他にも何百も責任者の元にあった


いつまでも同じことを気の遠くなる数だけ

繰り返し、あまり進化の見られない地球の水槽

を見て責任者はつぶやいた


そろそろこの水槽も見飽きてきたな

ミジンコにはこれ以上の進化は見られそうにも

ないし


近いうちに水槽の中を全部抜いて

また新しいアクアリムでも作るか

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る