魔神召喚

 ココは黒い何かに向かって飛びつくものの捉えることができない。


 黒い何かはココの口から入り込む!!


「ココ!!」


 痙攣けいれんし始めるココ。

 次第に動きが無くなりぐったりと倒れこんでしまった。

 意識があるようには、見えない。


「ココォ!!」


「犬だと!? なんで入りこんでるんだ! 召喚はどうなった!? 犬ではだめだ!!なんとかならないのか!!」


「予備が!! 予備の魔力玉と素材があと一式だけあります!!」


「すぐに準備しろ!! 今夜を逃したら終わりだ!!」


 ローブのやつらはなにやら準備を進めると、再度詠唱を始める。


「ココ! ココ!!」


 ココが俺の声に反応しない。


「ココ!! 起きろ!!」


 詠唱は続き魔法陣の輝きが増す


 あいつら!! ココを話の通じない犬畜生だとでも思ってやがるのか!!

 ふざけやがって!!


 詠唱が続き、先程とは違い赤黒く浮かび上がる魔法陣が輝きを増す。


 あいつら全員ココと同じ目にあわせてやるからなっ!!

 口から舌が出しっぱなしになるような状況に追い込んでやる!!


「「「魔神様!! 再度降臨し我たちの王となり道を示したまえ!! 」」」


 さっきと違う!?


 ピアノもファンファーレの音も聞こえない。

 ただただ禍々まがまがしい気配だけが深く、濃くなっていく。


 魔法陣から赤黒い光が立ち上がる!


「来る!! 来てくれたぞ!! 」


 どうする!? 交わせるものなのか!?

 召喚はこれが最後なのだろう、会話の内容からもう素材はないはずだ、なんとかしなければ。

 立ち上がった赤黒い光に禍々しい気配が絡みつく。


「先輩!? 先輩!!! 」


 よつば!? 目が覚めたか!!


「よつッ」


 迫る気配が身体に絡みつき侵入してくる!!!


「ガアアアアーーーーー!!」


「センパーーーーーーーイ!!」


 よつばの悲痛ひつうな叫び声が聞こえるような気がしたが俺は体中から侵入してくる気配にそれどこじゃない。

 何かが俺の身体を動かそうと気持ちの悪い気配が体中を巡る。


 俺の!! 「俺の身体を支配するな!!」


 何者かの気配が身体の中にあるのがわかる。

 俺は意識が次第に・・・・


 あああ・・・・・



 意識が・・・



 ある・・・



 あるな?


 なんだ?


 これから死ぬのか?



「先輩!!!」


 よつばが俺に駆け寄ってくる。


 貢物みつぎものって言ってたしな、今から俺に食われるんだろう。

 ローブのやつらは遠巻きに様子を見ている。


「よつば・・・・死ぬ前に・・・・・・」


「先輩先輩先輩!!」


「死ぬ前に・・・・」


「せんぱああああい!!!! 」


 話聞けやぁ!!!!!!!!!


 こいつアホか!?


 死にそうなのよ俺!?

 変な魔神が身体の中に入ってきてさ!?

 わかってんのかこいつ!?


「よつば・・・・話を・・・・聞いて・・」


「先輩い!! うあああああん!!!!」


「お願い!! 話聞いて!? ほんと死んじゃうから!! 最後の言葉だよ!?」


「うううう・・・・・ 先輩・・・・」


 まだ泣いてるが何とか泣き止んだ。

 俺の人生27年間、最後の言葉くらい聞いて欲しい。


「死ぬ前に・・・・・・ おっぱいを・・・・・ 揉みたかった・・・」


「先輩!? 最後なのにそんなこと!? 生きてたら揉ませてあげますから!!」


「おっきいのがいいな・・・・」


「ぜ、贅沢ぜいたくいわないでくださいっ!!」


「他にも・・・ パンツも・・・・欲しい・・・」


「パンツも!?」


「ブラもセットで・・・」


「ほんと贅沢なこと言いますね!? 生きてたらあげますから!!」


 よつばは詠唱を始めると必死に【治療ヒール】をかけ続ける。

 よつばの額に玉のような汗が噴き出し全力で魔術を行使しているのがわかる。

 そうとう無理してくれているようだが・・・・残念ながら効果は感じられない。


「もういい。 よつば、やめてくれ」


 俺にまとわりつく暖かな気配を受け入れるものの、回復しているような気配はない。

 乳を揉めてブラもパンツもセットでくれる未来もあった。

 それを聞けただけで満足だ・・・・


 俺は目をつぶると身体の力を抜いた。


 俺は意識を魔人に乗っ取られ・・・・・・・・・・・





 ない。


 なんだこれ?


 ほんとに召喚されてんのか?


 失敗したんじゃないかあの鼻くそローブのやつら。

 あれだけ仰々ぎょうぎょうしく魔法陣なんて光らせやがって、こけおどしかよ。



≪どういうことだ!? なぜ身体を支配できない!?≫


 !?


 身体から声が聞こえる!?

 頭の中からか!?

 もしかして魔神!?


≪そうだ! 吾輩わがはいは72柱が一柱 魔神まじん総裁そうさい オセ である!! ひれ伏せ!!≫


 は? オセ? 総裁? ひれ伏す? 身体乗っ取らないの?


≪乗っ取れんのだ!! なぜだ!? どうなってるんだこの身体は!! 説明しろ!!≫


 わからん。 何言ってんだこいつ。


 コミュ障か?


≪ふざけるなよ!? お前にすがっている女を殺すぞ!?≫


 身体乗っ取れないのに?


≪なぜだ!! どういうことだ? 吾輩の魔力が霧散むさんし消えているぞ!! この身体には魔力が感じられない!! どういう事だ!? 支配ができない!!≫


 魔力ないらしいからな。


≪魔力がないだと!? この世の生物には全て魔力が宿やどるのだ! 世界のことわりを無視するな!!≫


 つまりお前は乗っ取れないの? 俺が消そうと思ったらお前消せんのか?


≪・・・・・・・・≫


 答えないと追い出すぞ。俺の身体に召喚されたんだ、外に出されたら消えるんじゃないのか? 


≪・・・・・・そうだ。消すな≫


『オセ』だっけ? お前がいて俺に得あんのか? 魔力もないんなら俺が魔術使えるようになったわけじゃないし、うるさいだけだろ。


≪・・・・・・せっかく数百年ぶりに現界げんかいしたんだ! もう少しこの世界を楽しませろ!! 魔神界は暇なんだ!! 視力だけでいい!! 我に外を見る許可をよこせ! ≫


 なんだそりゃ? 俺の意識一つでできんの?


≪できる! 我はお前に支配されている状態だ。支配する予定だったが仕方ない。せっかく来たんだから頼まれろ!≫


 偉そうだな。 代わりに? お前は何をしてくれんの? 


≪代わりにか・・・・ 吾輩と取引をするというのか? 悪魔みたいなやつだなお前は≫


 嫌なら追い出すだけだ


≪まぁ待て、我は身体を変化させることができる。我の固有能力の一つであり魔力を使うわけではない。 今のお前ならそれが使えるはずだ。 我が消えればもちろんその能力も消えるがな≫


 身体を変化?


≪そうだな。 試しに手に刃物でもイメージしてみろ。 強く、強くだ。 出来ると念じろ。 出来て当たり前だと思うのだ≫


 身体変化か・・・・・ そういえば今縛られたままだったな。

 紐を切るか。


 イメージ、イメージだ。

 俺の左手は短刀だ。

 その短刀で俺を縛る紐を切断し自由になる。


 イメージしろ、俺の手は短刀、短刀だ。

 俺の手に巻き付いている紐だろうが、パンツの紐だろうがサクッと切れるナイフだ。


 左手に意識を集中し、強くイメージ、念じていると手首がざわつくのがわかる。

 変化のきざしなのか、手首から先の形が曖昧あいまいに感じる。


≪もっとだ! イメージは力だ。 吾輩の能力を信じろ。 どれだけ切れる刃なのか、強度はどれほど硬いのか、刃渡り、厚さ、色、形状をイメージしろ!≫


 言われたとおりなるべく具体的にイメージを固める。


 形状・・・・硬さ・・・・太さ・・・・長さ・・・・色・・・・


 なんかあれだな、下半身の棒状の物を想像しそうになる。

 

≪ば、馬鹿者! お前の手の形を見てみろ!≫


 左手が27年連れ添った相棒、慣れ親しんだ形状へ変化しつつある


 ふああああああ 笑えない!!

 すぐにイメージを修正、鋭く細い短刀をイメージする。

 

 よし!!


 俺の左手は指の感覚がなくなり創造した真っ黒な短刀に感覚が移る。

 自分の左手だが他人の左手のような。なんとも奇妙な感覚だ。

 そのうち慣れるのだろうか。


 目を開けると俺にすがっていたよつばは驚いた顔をしていたが、なんと言っていいかわからないようだ。


 俺は変化させた左手の短刀で縛られた紐を切り裂く。

 あまりにもあっさり紐は切り裂かれる。ついでに足の紐も切る。

 切れ味は抜群だな。


「その・・・左手・・・・せ・・・先輩・・・ですか?」


「魔神様!! 魔神様では!?」


 俺の指先を見てよつばは驚きの声を、ローブのやつらからは感嘆かんたんの声が上がる。


「召喚に成功した!」

「これでやっと!」

「魔神様ぁ!」 


 様々な声が聞こえるが一様いちように嬉しそうだ。


 ここはどう切り出すべきだろうか。


「よつば、大丈夫だ。 ちゃんとお前の大好きな陽介先輩だ」


「う・・・うああああん!!! 」


 また泣くか。


「なんだ? どういう展開ゾ?」


 クローディアはやっと起きたのか、寝ぼけた様子で俺たちに近寄って来る。


「起きるの遅いなお前・・・・」


「何やらたくさんの人がおるな?」


 あ、やばい、チャンス!!って顔をして


「わらわの名はっ」


「ちょっと! クローディアちゃんストップ!!」


 慌ててよつばがクローディアの口を塞ぐ。

 この微妙な状況で名乗っている場合じゃない。

 ローブのやつらは状況を把握できておらず、微妙な空気が辺りを支配している。

 どうしたものか。


 セト、この身体変化なんだけど、大きくすることもできるのか?


≪できる。慣れれば自分ほどの大きさの変質は可能だろう≫


 そうか。あとさ、こいつらのこと知ってる?


≪わからん≫


 話してみるか?お前に用があるみたいだぞ?


≪ほう。 話してみよう≫


 俺は会話の許可と、外を見る許可をセトに与える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る