第26話「暇を持て余したリビングデッドたちの遊び」

「……そういうコトなの。アンタ、ほんとに女の子からの頼みには弱いのね」


 物陰に佇むは、男ふたりの影。

 隻眼の男は、はぁ~……と深いため息をつき、続ける。


「でも、アタシに教えないってのはいただけないわね、ティート」


 紫煙が立ちのぼる。隻腕の男はくく、と小さく笑い、言葉を返した。


「だって君、マフィアのくせに嘘が下手だからね」

「……何よ、悪かったわね武力行使専門で」

「いやいや、別に悪いとは言っていないよ。アマデオ」


 沈黙が流れる。はぁ、と再び煙を吐き出し、隻眼の男は相手を睨んだ。


「アマンダよ」

「ああ、そうか。ごめんごめん」


 ぎらりと、片方しかない瞳が薄暗い物陰に光る。


「ねーえ、久しぶりに喧嘩するのはどう?ㅤハンデが欲しいならそれでもイイけど♡」


 相手の隻腕を捉え、蒼い隻眼は愉しげに瞬く。

 タバコを咥えたまま、グレーの瞳が静かに銀の光を帯び、煌めいた。


「随分と乗り気だね。お坊ちゃんバンビーノ

「あらやだ、せめてお嬢ちゃんバンビーナって呼んで欲しかったわ。……そろそろぶっ殺すぞテメェ」


 一触即発。ばちりと火花が飛び、辺りの冷たい湿気が殺意に満たされていく。


「……全く、死んでからも何十年と君と殺り合う羽目になるとはね」

「腐れ縁上等ォ!ㅤ楽しもうぜ、その銀色の眼光オッキオ・ダルジェントがナマらねぇうちになァ!」


 ぼてっ。

 喧騒を中断させたのは、そんな擬音が相応しい間の抜けた音だった。


「あっ、す、すみません!ㅤぼくのことは気になさらず!!ㅤ別に覗いてたとかそんなの特にないですから!!ㅤホンモノのドンパチかっちょいぃ~とか決して思ってないですから!!ㅤでは!!!」


 猫耳の使用人は慌てて立ち上がり、パタパタと走り去っていく。……と、思いっきり人にぶつかった。


「あら、ジューン。大丈夫ですの?」

「こ、このおっぱいは……!!ㅤキティさん!」


 キラキラと目を輝かせるジューン。その様子を確認し、アマンダは静かに構えた手榴弾をカバンに戻し、ティートも懐の中で撃鉄にかけた指を静かに外し、目配せのみで休戦の合図を交わした。

 いつも通りの賑やかな喧騒。……ただ一つ、違いがあるとするならば……

 客人が存在することだろうか。



 ***



「アーベルさん」

「何?」


 私の目の前には散らばったトランプ。……ちなみに、今のところ7割くらいの確率で負けてる。

 いや、ユージーンさんは9割がた負けてるけどさ。


「ババ……持ってるよね」

「さぁ……どうかな」


 にこり、と笑うアーベルさん。その横で何度も何度も震える手で手札をいじるユージーンさん。

 とりあえず続ける。


「カイさんが上がった時……変だなって思ったんだ」

「ふーん?」


 アーベルさんの視線もちらちらユージーンさんの方に向いているけど、2人して気付かないふりをする。

 カイさんの勝率は半々、アーベルさんはそこそこ高め。


「カイさんが札を引く時に、惜しい……って、顔してたよね」


 してなかったけどね。


「さぁ、そんな顔したかなぁ?」

「してたしてた。……ババを持ってるのは、もうわかってるんだよ」


 ここで、ほっとした顔になるユージーンさん。

 勝率80パーセントのノエさんが、アーベルさんとは逆側の隣でやれやれとため息をついている。


 ユージーンさん、分かりやすすぎるよ……。


「……って、待ったぁ!!ㅤなんで私たちはここでババ抜きしてるの!?」

「なんでって、そんなの決まってんだろ嬢ちゃん」


 一足先に上がって、ゆうゆうとリンゴを食べてたカイさんが言う。


「暇を持て余してるからだよ」


 きらーん、と、白い歯が輝いた気がした。

 私は別に暇じゃないんですけどぉ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る