第2話 「リビングデッドは生きてるうちに入りますか?」

「前を向くのは素敵なことだけど、ちゃんと足元も見ないと怪我をしてしまうよ?ㅤまあ、おかげで僕は、闇夜に迷った天使と出会えたのだけど」


 ……と、おじ様はウィンクしながら言ってくる。


「僕の名前はティート・リッリ。こう見えて、かつてはマフィアで相談役コンシリエーリを……ああ、それは今関係ないね。お嬢さんの名前を聞かせてもらっても構わないかな」


 そっと私を地面に下ろしながら、ティートさんはいたずらっぽく微笑んだ。うーん、かっこいい。地下はひんやりとして涼しいし、案外悪くない経験かも……。


「わ、私は月花つきはなゆきって言います!」

「ふむふむ。ユキさんか……美しい名前だね」


 ……あれ?ㅤよく見たらこの人……片腕なくない?ㅤあれ?ㅤ白い骨みたいなのがちらちら見えてない?

 いや、うん、見えてる。思いっきり骨がチラチラしてる。


「あ、あああの、腕、腕どうしたんですか!?」

「ん?ㅤ……ああ、元からこうなんだ。君は羽根のように軽かったし、受け止めて落ちたわけじゃないよ。安心して欲しい」

「そうじゃ!ㅤなくて!ㅤ骨!!ㅤ骨が見えてます!!」

「ああ、死んだ時に手榴弾で吹っ飛ばされてしまってね。……とと、済まない。物騒な話をしてしまった」


 なるほど、物騒なお仕事だったから片腕で私を受け止められるんだ。……って、言ってる場合じゃない。


「し、死んでるって……どういうことですか……?」

「ん?ㅤそりゃあ、ここは地下墓地カタコンベだからね。死んでる住人が大半だよ」


 心臓が縮みあがった。……ま、まさしく、ホラーの世界だ……!!

 と、ということは、噛まれたら私もゾンビになっちゃったり、幽霊に取り憑かれて自分が自分じゃなくなったり、足を引っ張られて殺されかけたりしちゃうのかな……!?

ㅤそこ、苦手って言いながら案外見てるじゃんとか言わない。


「怖がらないで、お嬢さん。別に大したことはないよ。みんな、各々マイペースにリビングデッド生活を楽しんでいるから」

「それ生活って言うんですか?ㅤ死活じゃないんですか?」

「そうとも言うかもね」


 茶目っ気たっぷりに笑うティートさんからは、危険な気配は感じない。たしかに、安心していいような気もしてきた……。


「大丈夫。僕は美しいお嬢さんに迷惑をかける輩が大嫌いでね。見つけ次第蜂の巣にすることにしているんだ」


 前言撤回。結構やばい人だった。


「まあ、ともかく、出口を探さないとね。僕もどこにあるかは知らないけど、エスコートくらいはしてあげよう」


 穏やかに微笑んで、ティートさんは私に手を差し伸べた。


 正直に言いましょう。

 超渋カッコイイ。




 そんなこんなで、私、月花雪の帰り道探しと、地底でリビングデッドせいか……死活をしている愉快な面々との波乱の出会いが幕を開けたのであった。

 正直なところ、先行きは不安でも、どうにかなりそうな気がしていた。……この時までは……。

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