本たちの論戦~誰が書店を殺したか~

黒井真(くろいまこと)

プロローグ 閉店した書店

 今日も書店がひとつ閉店した。


 今日つぶれたこの書店は、地方都市のさびれた商店街の一角にて、界隈の人口に比して不釣り合いなほどの売り場面積と品揃えで、町の人々に娯楽や最新情報、ちょっとしたトリビアや勉強の手段などを幅広く提供していた。


 閉店後、シャッターが下ろされて「閉店のご挨拶」の張り紙が張られた。この店に客のにぎわいが戻り、レジが音を立てることはもうない。


 深夜――棚の中で、あるいは平台ひらだいの上で、誰の手にも渡ることのなかった本たちは、おしゃべりをし始めた。


「今日でお終いだな」――会社員向けビジネス書。

「なんだか寂しいわねぇ」――女性週刊誌。

「僕たちどうなるの?」――カラフルな虫の絵がいっぱいの絵本。

「お引越しよ。また次のお店で売られるのよ」――ママさんブロガーによる料理のレシピ本。

「お前ら、取次ぎ(*1)に引き取られて、別なところで売られるんやろ? ええなぁ、ただの引越しで。ワシら雑誌類はおそらく廃棄やで」

 と、サラリーマン男性向け週刊誌がボヤいたところで、一際大きな叫び声。


「引越しぃ? そんなに甘くはないぞ!」

 声の主は、中米の革命家の伝記本だった。




■用語について

(*1)取次ぎ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%87%BA%E7%89%88%E5%8F%96%E6%AC%A1

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る