悪文集

石嶺 経

ニート、寿司を食う

 腹が減っていたので、知り合いのニートと寿司を食うことになった。彼の名誉のために言っておくが、ニートとは「Not in Education, Employment or Training」であり、よく勘違いされているが、学生は言うに及ばず、今現在働いていなくても、就業訓練を受けているものはニートではない。だが、その定義に則ったとしても彼はニートである。一本筋が通ったニートと言えるだろう。

 私も似たような立場を経験していたので、説教するわけもなく、彼の横で無心で寿司を食らった。彼は、皿を醤油塗れにし、山葵をこれでもかと溶かし、最後にガリを添えて、汚らしい皿の上で、サーモンばかり食べていた。もちろん、そんな皿に浸しているとシャリが崩れるのだが、その米の一粒一粒も丁寧に拾って食べていた。育ちが良いのか悪いのか判断に困るが、まあ、私は(思うのは別として)立ち振る舞いにとやかく言う方ではない。そういうのはN君に任せている。それに回転寿司で何を、という話でもある。

 結局二人とも八皿ほど食べ、軽く挨拶をして寿司屋を後にした。私は酒を飲んだのもあって、少し気分が良かったのだが、頭の中には、さっきの光景が焼き付いてしまっていた。まるで脳みそが醤油に浸かっているようで、余韻に浸ることは出来ず、家に帰ってさっさと寝てしまった。思いの外、快眠であったことを付け加えておく。

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