第40話 天狗党の乱(9)

 十二神将をモチーフにした十二体の式神が屋敷中に散らばった。カラス天狗達は大騒ぎしている。中庭に、池に、屋根の上に展開した式神たちが大暴れしている。それを迎撃しようと多数のカラス天狗が群がる。

 魔紗も応戦を始めた。手近なカラス天狗と激しい白兵戦を繰り広げている。

そして朧木も抜刀する。彼は二人のカラス天狗と向かい合った。


「中堅の天狗が出てきたか。だが、押し通らせてもらおう!」


 朧木の威圧にカラス天狗達も負けじと怒気を上げる。一触即発。

 先に動いたのはカラス天狗だった。


「きえええい!」


カラス天狗が手にした錫杖で殴りかかる!


「そんなのを受けていられるか!」


 見え透いた大振りの攻撃だ。朧木は受けずにかわした。恐らく注意をひきつける狙いだろう。朧木は視点をずらしながら戦う。

 もう一人のカラス天狗が回りこもうとしている。挟み撃ちを狙っているようだ。しかし、朧木もうまく足運びで目の前のカラス天狗ともう一人のカラス天狗を同じ視線上に立つように立ち回る。


「おのれこしゃくな! たかが術師風情が刀を持って侍気取りかぁ?」


 カラス天狗が威嚇をする。しかし、朧木は挑発には乗らなかった。敵はあくまで朧木の冷静さを奪って優位に立とうとしている。朧木は天狗の連携を軽視してはいない。


「さて、まず目の前の一体を片付けないと・・・・・・」


 朧木が左手の人差し指と中指を立ててくるりと円を描いた。


「おっと、例の月魄刃とやらでも使うつもりか?」


 眼前のカラス天狗がにやりと笑った。


「おや。こちらの手の内は知られているのか」

「木の葉天狗からの報告は受けている。陰陽師の使う三日月の刃を飛ばす術には気をつけろとな!」


「ならば受けるがいい! 月魄刃!」


 朧木が左手で月魄刃を飛ばす!


「破っ!」


 狙われたカラス天狗は錫杖で月魄刃をバチィッと弾いた。・・・・・・理力の宿した杖で術を受け流したようだ。


「おっと、使う術を知られていればこんなものか」


 朧木は冷静に結果を受け止めた。月魄刃ははるか頭上に弾かれたようだ。


「ふぅはははは! この程度か東京の陰陽師!」


 カラス天狗が勝ち誇ったように笑い出す。その間にももう一体のカラス天狗は隙をうかがい続けている。どうやら会話で意識を片方へとひきつけようとしているようだ。

 そのような手に乗る朧木ではなかった。彼はもう一つの懸念をも意識したまま戦っている。それは大天狗の動向だ。大天狗は座敷に立ったまま動いてはいない。今のところは何かをする気配も無い。だが、あれが動けば状況が変わる懸念があった。


「どこを見ている、陰陽師!」


 眼前のカラス天狗が錫杖を振り回して襲い掛かる! 木の葉天狗のような未熟な腕前ではない。修練を積んだ者の一撃。それは軽視できるものではなかった。朧木は一つ一つの相手の攻撃をきっちり見切ってかわす。それは正確無比な攻撃だった。


「たゆまぬ修練をなぜこんなつまらぬ事に用いる!」


 朧木は怒号を飛ばした。カラス天狗は怯まない。変わらず錫杖による攻撃を繰り出してくる。

 ついにもう一体のカラス天狗が側面に回りこんだようだ。朧木は挟み込まれる形となった。じりじりと間合いを計る二人のカラス天狗。


「フハハハハハ! これで二対一だ! 貴様を倒せば俺様も褒美をたんまりもらえる! あぁ、俺は大天狗様の付き人の女を一人貰おうか!」


 カラス天狗がおのれの欲望をあらわにする。


「つまらぬ欲に振り回されているのか。修験者でありながらこれほど堕落した者達だとは思わなかった」

「馬鹿を言え! この世はおのれの欲望を満たす為だけに存在する! 高尚さ? そんなものがなんの役に立つというのか!」


 カラス天狗が二人がかりで一斉に襲い掛かる!

 が、朧木は片側を剣でけん制しながら、中指と人差し指を立てた左手で空を指差し、それをもう一体のカラス天狗のほうへと向けて振り下ろした。


「畜生道か、はたまた餓鬼道か」


 朧木がそう呟く。

 ヒュパッという音。頭上から落ちてきた月魄刃がカラス天狗の腕を切り裂いた。


「ぎゃあああああ!」


 カラス天狗の絶叫。もう片方のカラス天狗の攻撃も剣で受け止められ、挟み撃ちに成功したと思っていたカラス天狗が怯んだ。


「術は術者のコントロールが可能であるから術なんだよ。どこへと飛ぼうが僕の制御下にあった」

「おのれおのれおのれ!」

「術を軽視しすぎだろう。君達も修験者なら、それ相応の術というものは使えるのではないのかね?」


 朧木はそれとなく意識せず発した言葉だった。それは予期せず、カラス天狗への挑発になった。


「う、うるさい! 神通力に目覚めないからなんだというんだ! かつての天狗ならその程度は使えたというが、そんなものが無くとも俺はやれる!」


 カラス天狗が苦し紛れに何かを言っているが、結局神通力が使えないのは確かなようだ。

 朧木は嘆息した。天狗の堕落振りが想像以上だったのだ。


「天狗は昔よりも劣化したというのか。まったく、近頃の天狗と来たら・・・・・・。こうなっら奥義を持って応えよう。受けるがいい・・・・・・」


 朧木は両手で剣をくるくると回し始めた。


「なっ、今度は何の術を使うつもりだ!」


 カラス天狗が警戒して身構えた。


「それはこのような術だよ」


 朧木が大げさに剣を構えた。カラス天狗が身構えたところ、ゴキャッ! という鈍い音とともにカラス天狗は倒れた。背後には魔紗の姿。どうやら背後から一撃見舞ったようだ。


「良介、これで貸し借りはなしよ?」


 魔紗はヒュンとロングソードを一振りしてから次のカラス天狗に狙いを定めて突っ込んでいった。


「やれやれ。ま、こちらも連係プレーくらいはやって見せなきゃな」


 朧木は倒れたカラス天狗を見てそう呟いた。

 カラス天狗の注意をひきつけるためにわざと大振りの動きを見せたのだった。

 朧木の周囲にはカラス天狗はいなくなった。他のカラス天狗の相手は魔紗と式神達がやっている。

 大天狗は畳に刀を突き刺し、仁王立ちで酒を呑んでいた。

 朧木は大天狗に狙いを定めた。真っ直ぐ大天狗まで歩いていく。


「随分と余裕そうじゃないか。僕らの相手くらい余裕だとでも言いたげだな」


 朧木の言葉に大天狗が「くっくっく」と笑い始める。大天狗は手にしていた盃を床に投げ捨てた。


「近頃の天狗と来たら、か。確かに構成員の質は落ちた。それは否めん。だが、規模はもはや過去の比ではないぞ。今度こそ我らが天を握る。その手始めに、まずは貴様を地獄へと落としてくれるわ!」

「地に落ちた者が天を握ると? 笑わせてくれるね。落ちるなら地獄まで落ちやがれって言う話さ。貴様らにこそふさわしいのは地獄だ」


 朧木が破軍を片手に大天狗を睨む。


「かつて我らの覇道を阻んだのが朧木という陰陽師だった。貴様がその末裔だというのなら、貴様のしゃれこうべで盃を作ってくれるわ! 地獄など生ぬるい。その魂、魔道に落として永劫に迷わせてくれよう!」


 大天狗が刀を畳から引き抜いた。あらゆる欲に溺れた天狗のはずだが、その威容は朧木にプレッシャーとなって圧し掛かる!


「同胞の命を救わんがため、諸天善神よ。我に力を!」


 朧木は再び祈りの言葉を天に叫んだ。

 跳躍。大天狗が一足飛びに朧木に詰め寄った! それは飛翔。空を飛んでいる。

 がきぃん! 激しい金属音。朧木は初太刀を何とか受けきった。


「小童が。どれ、少し遊んでやろう」


 大天狗が様々な斬撃を繰り出す。それは一撃一撃がとても重いものだった。

 受ける朧木が見る間に劣勢になっていく。


「老人なら老人らしい動きをしてもらいたいものだな!」


 朧木はかろうじて軽口を叩くのがやっとだった。


「そう言うでない。これでも全盛期よりは衰えておるのだぞ。ふぅはははは!」


 大天狗の刀の攻撃が、空中からの両足による蹴り技が朧木に畳み掛かる。朧木は空を自在に舞うように動く大天狗を捉えられずにいた。


「受けるがいい、月魄刃!」


 朧木は左手を大天狗に差し向ける。その中指と人差し指の間に挟まれた青白い三日月の刃が大天狗を補足する!


「むん!」


 大天狗は刀を返して月魄刃を地面へと叩き落した。


「くっ、完全に見切られている!」

「聞き及び、直に目に見た術などいくらでも破る方法はあるわ! しかし、これほどの術を会得しているとは中々にやりおる。どうだ。ワシの手下にならんか? 金も女も思うままぞ?」


 大胆不敵。大天狗は朧木をスカウトしている。だが、朧木は嫌悪感をあらわにするだけだ。


「貴様もとんだ俗物のようだな。そのような誘惑、乗るとでも思ったか?」

「思うからこそやっておる。なんだ、欲しいのは地位か、名誉か? どちらでもくれてやろう」

「そんな手段で手にした地位や名誉などにいかほどの価値がある!」

「人生、ぬくぬくと安泰に暮らせるならば、それで十分ではないか。のう、小僧?」

「人を食い物にし、害する事さえ行う上での身の上の安泰など望まない!」

「まだ不満か。なら初めから幹部待遇で迎えようではないか。悪い話ではあるまい」


 朧木と大天狗の会話がかみ合っていない。致命的なまでに相互の価値観がずれていた。


「術すらまともに使えぬ天狗の仲間入りをしろと? 僕を見くびってもらっては困る。国家安寧の為、ここで貴様を討つ!」


 朧木は刀剣の切っ先を大天狗へと向けて言い放った。


「カカカ! ワシがそこらの堕落しただけのものどもと同じと思うたか? 長年の修行の末に神通力も会得しておるわ。受けよ、突風!」


 大天狗が両手を広げて突き出してくる。と、朧木は突然風の塊のようなモノにぶつかったような衝撃に襲われた!


 どうっ! 


 爆音。そして朧木があっという間に十メートルほど吹き飛ばされた。その衝撃で破軍はどこかへと飛ばされたようだ。

 ゴロゴロと地面を転がる朧木。彼の全身を激痛が襲った。


「ぐっ、流石に手下のように神通力なしというわけではないか・・・・・・」


 よろよろと立ち上がる朧木。


「くっくくくく! 朧木、聞いておったほどの者ではなかったようだな。先代の大天狗が無能すぎただけであったか。くはははははは!」


 高笑いする大天狗。

 朧木はまだ諦めてはいなかった。彼は懐から最後の一枚の形代を抜き取る。


「くらましの 道行くさだめ ひとのため 艱難辛苦 たちきり進む」


 それは和歌。鞍馬市の道行く定め、と晦ましの道行く定め、と掛けた歌。モチーフにしたのは鞍馬天狗。妖怪ではなく、頭巾をした剣士をモチーフに式神を練る。艱難辛苦を絶ち切ると太刀斬るをかけて道を切り拓く願掛けとした。

 朧木が形代を投げ払う。形代から放たれる閃光。現れたのは勤皇志士をモチーフにした神出鬼没の剣士。


「まだ奥の手を持っておったか。だが、式神風情がこのワシの相手を出来ると思うでないぞ!」


 大天狗はまたしても跳躍、飛翔する。屋敷の屋根より高く空を飛ぶ大天狗。急降下して式神に襲い掛かる!

 だが、式神もその動きを見切って軽やかにかわした。

 がきんがきんと壮絶な剣の応酬が始まる。式神の剣士は剣の達人だ。大天狗との攻防でも遅れを取ってはいない。或いは式神のほうが優勢かに思われた。


「ただの式神とて、この領域まで来れば見事と褒めてやろう。だが、ワシには必殺の術がある。吹き飛べ、突風!」


 大天狗がまたしても神通力を使う! 大天狗は式神へと向かって両手を広げる。式神に強力な突風が襲う!


 どうっ!


 再び爆音。吹き抜ける強烈な風。だが、式神はびくともしていなかった。モチーフの鞍馬天狗の名の源流は鞍馬天狗。こちらは大妖怪の名だ。鞍馬天狗は八大天狗とも言われる高名な天狗だ。天狗の技は天狗には通じなかった。欲に堕落した天狗の神通力などで吹き飛ぶほどには軽くは無い名だった。そういうことだ。

 駅前で天狗党についてを尋ねていた時に、老人から聞いた天狗が風の術を得意とする情報が助けとなり、天狗の術を破るのにふさわしいのは天狗という回答に辿り着いたからこその式神。


「ばかな! ワシの神通力が通じないだと!?」


 技後硬直。それは勝敗を決する大きな隙だった。式神の刀が寸分違わず大天狗を捉えた。

 太刀を受けて大天狗が地に膝を突く。


「そんなばかな!こんな事があろうものか・・・・・・」

「勝負あったな!」


 朧木は勝ちを確信した。

 と、どこかから聞こえてくるパトカーのサイレンの音。屋敷での大騒ぎに周辺の住人が通報したのだろう。

 パトカーから降りてきた警官達が朧木達を取り囲む。奥のパトカーから降りてきたのは矢吹だった。


「つかまえろ、その男を捕まえろ! 朧木良介を捕まえろ!」


 矢吹は朧木を指さしてそう叫んだ。

 朧木はしまったと思った。矢吹は天狗党の人間だ。警察関係者への影響力は大きい。


「くっくくくく! 形勢逆転だな、小童!」


 大天狗が笑った。


「待ってくれ! 僕は都の依頼を受けて仕事でここへやってきた! この件は○特案件として扱われている!」


 朧木が叫んだ。


「残念だったな、朧木。この件は○特案件入りはしていない!」


 矢吹がそう勝ち誇る。


「矢吹さん・・・・・・あなたやはり僕の依頼を握りつぶしていましたね?」

「さて、なんのことかな。・・・・・・お前ら、あいつらを捕まえろ!」


 矢吹が同僚や警官たちにそう命じる。だが、同行してきた刑事達の様子がおかしい。


「矢吹さん、やはりあなたも天狗党の人間だったんですか!?」


 その同僚の言葉に矢吹が驚いた。


「矢吹さん。あなたが事件の○特案件入りを阻んだ事は、東京の知り合いの刑事に尋ねた段階でわかっていました。ですから、東京都の警察側から天狗党の件を○特案件として立件させてもらいましたよ」

「なんだって!?」


 今度は矢吹が驚いた。


「先輩、話は署で伺います。同行願えますね?」

「くっ!」


 矢吹は警官たちの隙をついて逃走した。慌てて警官達が矢吹を追う。


「すみません。皆さん。この大天狗の事はお任せします!」


 朧木は矢吹の後を追った。朧木は矢吹が許せなかった。同行者のうち二人が死亡したのは間違いなく矢吹が絡んでいる。

 四方田と逝佳の仇。

 朧木にはもう式神を呼ぶための形代もない。破軍もどこかへ飛ばされたままだ。だが、矢吹をみすみす逃すのは己の矜持にかけて許せなかった。

 その一心で矢吹の後を追う。

 夜の地方都市を大勢の警官と朧木が矢吹を追いかける。朧木は直感だけで矢吹を追いかけた。鳥の式神は大天狗に切り倒されていない。こんな時に鳥の式神が使えたならと思わずにはいられない朧木ではあったが、ハイレベルな魔術師の直感は時として高度な占いと同じ働きをする。

 路地裏に差し掛かったところで、朧木は単身矢吹を追い詰めた。


「やぁ、朧木さん。困るんだねぇ。わたしはあと少しで定年退職だったのだよ。何事も無い人生だった。そこにあなた方は現れた。困るねぇ。天狗党に招集をかけられたよ。せっかく彼らのおかげで安泰な地位まで登ったというのに、君たちを始末する命令を受けて手を汚さざるをえなかったというわけだ」


 矢吹が冗長にしゃべる。


「一体どれほどの悪事をなせば気が済むというんだ。あなたは人の法の裁きを受けねばならない」

「やだな、朧木さん。わたしは法の番人の側。法を人に、妖怪に振るう側なんですよ。なぜわたしが法で裁かれねばならないのですか」


 矢吹には法に触れる真似をしたというつもりは全く無いのか。人を殺害しておいて何も思わないのか。朧木には理解不能な男であった。


「法の番人が法の外側を歩いていてどうするんですか!」


 朧木が矢吹ににじり寄る。

 ドン! 発砲音!

 弾丸は朧木の頬をかすめた。朧木は咄嗟に物陰へと隠れる。


「ちぃっ! 外したか! 君が悪いのだよ、朧木さん。大天狗が捕まった以上、天狗党も終わりだろう。ここで君を殺しても、わたしには何の得にもならないんだよ。頼むから見逃してくれんかね?」


 発砲してきておいて飛んだ言い草だった。この男は邪悪だ。どこまでも自分の事しか考えていない。朧木はそう感じた。野放しにするわけにはいかない。


「世のため、人のため。影にひなたに歩く道。諸天善神よ、どうか我に力を・・・・・・」


 朧木はそう天に祈った。物陰から飛び出す朧木。


「月魄刃!」


 朧木が右手を矢吹にかざす。三日月の刃が矢吹を切り裂く!


 ドン!


 発砲音。苦し紛れに発砲した矢吹であったが、弾丸は朧木の頭上の街灯を打ち抜いていた。矢吹は腕を押さえながら拳銃を地面に落とした。月魄刃は狙い違わず矢吹の利き腕を切り裂いたようだ。

 連続の発砲音があったのだ。流石に他の警官たちは気がついて集まってきた。


「そんな・・・・・・このわたしがなぜこんな目に・・・・・・」


 人をも殺害しておいてのこの言い分。大天狗以上に邪悪な存在だった。


「矢吹 幸三確保!」


 数人の警察官達が矢吹を取り押さえたのだった。



 その日の大事件は鞍馬市を賑わした。パトカーは全車両出払い、救急車も駆けつける大騒ぎに付近の住人達は恐怖で眠れない夜を過ごしたのだった。

 朧木が大天狗のいた屋敷に戻ると、大天狗と殆どのカラス天狗は警察官に捕まっていた。

幾人かのカラス天狗が逃亡を図っているようだったが、こちらもいずれ間もなくつかまることだろう。

 朧木は屋敷の中を見回す。十二神将の式神は三分の二が倒されていたが、無事役割は果たしたようだった。

 魔紗が駆け寄ってくる。


「良介、無事だったわけ!? どこへ行っていたのさ!」


 魔紗が怒っている。それもそうだろう。天狗達との戦いがまだ完全に終わっていない状態で屋敷を駆け出していったのだから。


「矢吹に引導を渡しに行っていたのさ」

「あー、あいつか。あいつのせいで何人が死んだ事か・・・・・・」

「だからきっちりと捕まえておいたよ。こっちはもう落ち着いたかな?」

「大天狗が警官に捕まってからはカラス天狗達もおとなしくなったわ。やつらは全国的に指名手配されることも決まったから、いずれは関係者も全員捕まることでしょうね。四方田の手術をした医者も天狗党員だったらしいわ。・・・・・・逝佳さんも遺体で発見されたってさ。元は妖怪の仕業とはいえ、こんなひどい事になるなんてね。天狗党の協力者は思っていた以上に多いみたい」

「ひどい事件だったな・・・・・・」


 朧木はひどく疲れきっていた。大天狗の術にやられた時の痛手も大きい。


「流石にまだ天狗党がどこに潜んでいるのかわからないところで休む気にはならないでしょ。このまま東京まで帰らない?」


 魔紗が提案した。朧木はその意見に反対しなかった。

 鞍馬市の夜はまだ終わらない。そんな地方都市を後にする朧木達であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る