第6話 VS コボルト

過酷な環境下では、明確な目的を持ち、その実現に向かって努力を惜しまず行動せねば生き残れない


昔聞いたような気がする、ありがたいお言葉を励みに頑張ることにしたワタル


そして、かざした目標は『コボルトにリスクなく勝てるようになる』である


そのために、ここ一週間を『対コボルト戦に向けての強化週間』とした


『嗅覚強化』でアルミラージの場所を特定し、ひたすらに殲滅を繰り返していく


痛い思いを我慢して必勝法で順調に『核』を吸収したおかげで、今では剣技のみで渡り合っても、危なげなく勝てる


便利なもので魔改造された、この体は『核』さえ吸収すれば水も食料も必要としない


飲んだり食べたりは出来るようだが、未だ口にしたことが無い


何故なら、火を焚くのは危険だからだ


セーフハウス内と言えども、入り口から煙が漏れれば、魔物が集まってくる可能性が高い


最悪の場合、ステルスモードが機能しなくなるかもしれないのだ


そうなれば、ご馳走にされるのは自分だ


まぁ、不味いとされるゴブリンの肉を食おうなどと言う物好きはいないだろうが




もはや、不意を突かれたり油断さえしなければ、アルミラージに敗れる事は無い


だが相手がコボルトとなると、まだまだ安全に勝てるとは言い切れない


ゲームと違い、死んだら生き返らない


ゴブリンとして生き返ったが、これは例外


勝てるだけではいけない、リスクなく勝てるようでなければならない


それゆえの強化週間である




強化週間に入ってすぐ、その時はやって来た


何時もの如くアルミラージの臭いを辿り、走り寄り切って捨てる


何かがいつもと違う


そう感じた刹那


(おめでとうございます ワタルはレベルアップしました)


嬉しさのせいか、いつもより若干テンション高めに感じるアナウンスが脳内に流れた


(よっしゃぁ! 打倒魔王に一歩近づいたぜ!)


宇宙の彼方への一歩であるが、念願のレベルアップである


(ん? 今おめでとうって言ってくれた?)


返事はない、レベルアップ時のテンプレートなアナウンスだったのだろう


レベルアップすると、『核』を吸収した時よりも大幅に身体能力が高まる




更に朗報


『錬成』の拡張スキルをゲットできた


最大数は不明だが、どうやらレベルアップする毎に『錬成』の拡張スキルをゲット出来るようだ


こうして強化週間の間にレベルは4にアップし、『錬成』の拡張スキルである『変形』『分離』『融合』が手に入った




『変形』 対象の大きさや形を変える


『分割』 対象を指でなぞった通りに分割する


『融合』 複数の対象を繋げたり、張り合わせることが出来る

更には完全に混ぜ合わせ、それぞれの特性を併せ持った物を創り出す




何もこの一週間、兎狩りだけをしていた訳ではない


『対コボルト戦必勝アイテム』を製作するため、『錬成』および拡張スキルの鍛錬も欠かさずに行っていた


そして強化週間を終え、ワタルはコボルト殺戮マシンへと変貌を遂げた!


というのは少しオーバーかもしれない


(グッバイ アルミラージ ハロー コボルト)


さぁ狩りの始まりだ




第一階層も順調に踏破し、マップもずいぶんと埋まってきている


そしてコボルトの生息域も、大まかにではあるが掴んでいる


『嗅覚強化』を発動し、捜索を開始する


自信の表れか、力強く敵地へと足を踏み入れるワタル


早々に、センサーに反応アリ


臭いを辿り、ターゲットへ接近を試みる


歩みを進めるにつれ、臭いが強くなる


近づいている証拠だ


遂に目視でも確認


二足歩行の犬が、こちらを振り返り両者の視線が交差する


コボルトは、こちらに向けて走り出した


(フフフ 遂にこいつを使う時が来たぜ!)


構想一日、製作に五日


『対コボルト戦必勝アイテム』が遂にそのベールを脱ぐ時がやって来た




コボルトが有効射程距離間近に接近!


アイテムボックスから取り出したのは鼻栓


『錬成』したベッドから『分離』で切り出した欠片を『変形』で成形した


ゴブリン工学に基づく逸品である


これを手慣れた手つきで、素早く装着


次に取り出したるは、アルミラージの皮で作った袋


手にした袋に、剣で素早く切り込みを入れ投擲


全力で駆けてくるコボルトに直撃!


「ギャウっ!? クゥ~ン」


袋をぶつけられたコボルトは、身をビクリとさせたかと思うと、途端に弱々しい鳴き声を上げ、明らかに動きに 精彩をなくす


(よっしゃぁ! 命中! ヒャッホー!)


投げつけた物の正体は『臭い袋』


中身はアルミラージの内臓を腐らせ、同じくアルミラージの皮を『錬成』の拡張スキルである『変形』で作成した袋に入れたもの


『錬成』したベッドを『変形』させた容器に、倒したアルミラージ内臓をすべて放り込みじっくりと熟成


その匂いの強さと言ったら決戦前夜には鼻栓をしても涙がでてくるほどの威力だった


同じくベッドから『分割』で切り取った欠片から『変形』でじょうごを作り、袋に超熟内蔵を流し込んで、注ぎ口を『融合』でふさいで完成


自爆を防ぐため投擲前の鼻栓は必須である


ワタルのテンションが異常に高いは、このまさしく涙の結晶が効果を上げたからに他ならない


嗅覚の鋭さが仇となり、臭い袋の威力に、もはや死に体のコボルト


その後は、ワタルの圧倒的に優勢な展開のまま幕を閉じた




サーチ アンド デストロイ


サーチ アンド デストロイ


臭い袋の素材は、アルミラージからコボルトへと変わったが、その絶大な効果は変わらず


コボルトの『核』を取り込むたびに、弱々しかったゴブリンの身体もずいぶんと逞しくなった


もはや、コボルト強敵にあらず


レベルも順調に上がっている


次の目標は決まった、『上位種への進化』『レベル10への到達』である

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