第2話 蟲毒 魔王の戯れ


なぜ自分の姿がゴブリンになってしまったのか


その答えは、そういう仕組みか視界の中に浮かぶ映像の中で白衣の子供『魔王』から語られた


「君の脳をねぇ」


「ゴブリンに移植したんだよ」


(はぁ? 何訳の分かんねぇ事言ってんだよ!)


そんなことが出来るはずがない


しかし鏡の前の自分は、紛れもなくゴブリン


触った感触も見た目通りであり、幻影魔法で惑わされているわけでもない


否定できない


だが認めたくない事実であった




ショウタロウと名乗る白衣の少年


彼が魔王になってから600年


その間に彼に滅ぼされた街や村の数は数知れず


彼が本気を出せば、国どころか、世界から人を根絶やしにすることも出来ただろう


でも、彼はそれをしなかった


「皆殺しにしちゃったらさぁ」


「いたぶる相手がいなくなっちゃうもんね」


それでは詰まらない


なのでいつも魔物を送り込んでは、適当に蹂躙させていた




だがしかし、人もただ黙ってされるがままではいなかった


脆弱な人の身でありながら、災害と言っても過言ではない強力な魔物を容易く葬る強者たちが現れ始めたのだ


英雄や上級冒険者と呼ばれる存在の出現


「僕が出向いて殺しちゃったら面白くないじゃん?」


そこで彼は強い魔物を創り出す実験を始めた


ダンジョンを作り、魔物を放り込んで最後の一匹になるまで殺し合わせる


あくまで自分は手を出さず、人が苦しみ泣きわめくのを見ているのが楽しいのだと、ゆかい気に話す魔王を見て、ワタルは吐き気を覚えながら思った


(まるで『蟲毒』ってやつだ)




『蟲毒』とは古代中国において用いられた呪術


壺の中で蛇、カエル、ムカデと言った、様々な毒を持つ生き物を食らい合わせ最後に生き残ったものから毒を採取し、人に害をなす呪いの一種


そして今、自分はその蟲毒の壺の中に放り込まれた一匹の虫


しかも最弱と言っても過言ではない存在 ゴブリン


体長およびその身体能力は人の子供程度、異常な繁殖力で数を頼りに時には強者を、まれに起こる大量発生時には、村を丸ごと喰らい尽くし滅ぼすこともある


しかし今、彼は一人きり


唯一のアドバンテージも役に立たない


生き残れる確率は絶望的に低い


(ああ 終わったな俺・・・)


しかし、終末的な状況から一転


唯一とも言える希望の光は、皮肉にも魔王の口から吐きだされる


「君も含めて、ダンジョンの中にいる魔物の『核』は僕がちょっといじっててさ」


「ほかの魔物の『核』を取り込めば、その魔物の『固有スキル』と力を吸収できちゃうんだよね」


どや顔の魔王を見ると殺意が沸々とわいてくるが、今は忌々しい声を聴くことに集中する




『核』とは、人が『魔石』と呼んでいる、魔物の心臓付近にある石のような物体のことである


魔王曰く、『核』にはその魔物を構成するすべての情報が記録されているらしい


(DNAみたいなものか?)


更に、火竜の『炎のブレスを吐く』シャドーパンサーの『影の中に身を潜める』バンパイアの『魅了する』と言った、それぞれの魔物が持つ独自の能力


『固有スキル』の情報も記されている


そして、ゴブリンたるワタルを含め、このダンジョンにいる魔物の『核』には、倒した魔物の『核』を取り込めば、その魔物の『固有スキル』が使えるばかりか、身体能力の向上も可能な機能が組み込まれていると言うのだ


「がんばれば、進化とかもしちゃうかもねぇ」


『核』の中に内包されている力を一定以上取り込めば、上位種へ進化も可能


(だったら最弱のゴブリンでも生き残るチャンスはある・・・のか?)




それを聴けば、動き出さずにはいられなかった


ワタルは壁にぶら下げられていた武具を身に着けてみる


皮鎧はあつらえたように体になじんだ


剣も盾も勇者専用武具とは比べようもないが、生き残るためには魔王が用意したものであろうが使う


盾を持ち上げ剣を一振りし、具合を確かめると、生きる力が少しではあるが湧いてくるように感じた


「それでは健闘を祈ってるよぉ」


「まぁ、あんまり期待はしてないけどね! ぶふっ」


「 じゃあねぇ!」


その言葉を最後に映像が消えた


(そうやって、見下してればいいさ)


周囲の気配を探りながら部屋を出る


(固有スキルもガンガン手に入れて、進化もしてやるよ!)


(そして、お前をぶっ殺してやる!)


蟲毒の壺


魔王のダンジョンでのバトルロイアルが始まった



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