第32話:魔族との戦闘①

 「Bランク以下の冒険者は全員住民の避難に移れ!」


 この街の冒険者ギルドのギルドマスターが指揮をとっていた。


 そこに俺が現在の状況を尋ねる。


 「現在の状況は分かるか?」

 「君は?」

 「腕に自信のある通りすがりのFランク冒険者だ」

 「Fランク冒険者は住民の避難と聞かなかったのか?」


 ギルドマスターは飽き顔を続ける。


 「君見たいな冒険者がそんな事を言って何人死んで行ったか分かるか?今だから言う。早く避難誘導に行け」


 ギルドマスターは真剣な表情でそう告げる、が。


 「だが断る!」


 俺は断言する。


 これも運がいいのか悪いのか。そこへ扉を突き破って魔族が現れる。


 「ははっ!気配がしたから来たらまだいやがるぜ。」

 「な!魔族だと!?冒険者と戦闘をしていたのでは?!」

 「冒険者?この雑魚の事か?」


 魔族の男は手に掴んでいたそれを、目の前へてポイッと投げ出す。


 そこには変わり果てた女性冒険者が横たわる。まだ生きているようだ。


 「ネイン!」


 ギルドマスターが声を上げる。


 「ネインは近々Sランクになるはずの強者のはず…それがこうも」

 「強者?何を言ってる。無駄が多い攻撃ばっかりするのが人間では強者なのか?笑わせるな」


 魔族の男は笑みを浮かべ、


 「もういい。気配がしたと思ったが雑魚ばかりか。雑魚に要は無い。死ぬがいい」


 闇の玉が複数出現し高速で襲ってくる。


 俺は咄嗟にみんなが反応するより早く前へ出てギルドマスターと他を守る。


 煙が消えるとそこには無傷の俺達が立っていた。


 「なに?運良く耐えたのか?まあよい」


 そしてもう一度攻撃を放とうとした魔族に対して俺は口を開く。


 「何言ってやがる。てめぇの攻撃が弱かっただけだろ?」


 魔族のこめかみがピクっと反応。


 「……人間。お前が先に死にたいのか?」


 魔族が俺へと肉薄するも、


 「動きが遅いぞ」

 「なっ!?ふぐぅぅっ」


 光属性を込めた平手打ちで魔族を突き返し、魔族はそのまま壊して入って来た出入口から吹っ飛んで出て行く。


 俺はギルドマスターへと向き直る。


 「で、何の話をしていたっけ?」


 ギルドマスターはポカーンと口を開けて棒立ち。他も同じで何が起きたか理解が出来ていない。


 おーい。大丈夫か?


 目の前で手を振るも反応無し。


 少しして、


 「い、今魔族が…ふ、吹っ飛んで行ったような……」

 「そうだな」

 「お、お前がやった、のか?」

 「そうだな」

 「だがFランク冒険者……」

 「そうだな」


 口をあわあわし、


 「えぇぇぇ!?」


 「…うるさいのじゃ」

 「…だな」


 ギルドマスターは少しして我に返り


 「だから言ったろ?強いって」

 「だ、だがまだ信じられん……Fランク冒険者が魔族を一撃で……」


 扉の向こうから音がする。そして、


 「まだだ。まだ殺られてはいない!どんな卑怯な手を使った?!」

 「使ってねぇから」

 「何を!」


 「ま!まだ生きているではないか!だが」


 ギルドマスターが魔族が生きていた事に驚くも俺がCランクだからか、生きている事に納得する。


 そこに、


 「ま、まだ、だ。まだ私は、殺られては、いない!」


 ほぼ瀕死の冒険者ネインが立ち上がろうとする。


 「いや、無理はするなよ。もう瀕死じゃん」

 「これでもまだ戦おうとするとは、人間は恐ろしいのじゃ」

 「お前の方が恐ろしいがな……」

 「むっ!」


 俺は知らん振りをする。

 俺はネインへと告げる。


 「この雑魚は俺がやる。ゆっくり休んでろ」


 そう言ってネインへと回復魔法を掛けて完治させる。ネインは傷が全て癒えた事に驚くも、


 「き、傷が全て癒えている!?」


 ギルドマスターが驚愕な声を上げる。それもそうだ。完全回復など勇者並で無ければ有り得ないのだ。


 「人間如きに雑魚呼ばわりとは……もう許さんぞ!下等種族が!」


 魔族が暴走する。膨大な魔力が吹き荒れギルド内がめちゃくちゃになる。


 「もう殺していい?」

 「うむ。煩くて仕方ないのじゃ」

 「待ってくれ。傷を治してくれたのには礼を言う。ありがとう。だがコイツは私の獲物だ」


 ふーむ。どうしよう。

 考えるが倒せない事は分かっている。なら、


 「お前じゃ倒せない。諦めろ」

 「しかし!」


 暴走した魔族が一瞬で肉薄する。


 「死ねぇぇぇぇえッ!」

 「もう。いま取り込み中だから還れ!」


 光属性を込めた裏拳で顔面を叩く。


 「ふンゴァッ!」


 魔族は吹き飛びと絶命する。


 「ご主人よ。だから死んでるのじゃ……」


 そんなゼノアの言葉は俺の耳には入らない。


 「い、一撃で」


 ネインが驚くも、俺は無視してギルドを出る。

 そこにギルドマスターが俺を呼び止める。


 「待ってくれ!どこに行く!」


 「え?勿論狩りだが?」

 「狩り?」


 ネイン言う。


 「当たり前だろ。俺の平穏な日々を台無しにしたんだ。今日こそゆっくり寝れると思ったのに……。あの虫共め」

 「そ、そんな理由で行くのか?あの化け物共を倒しに。君のような子供もか?」


 ゼノアに訪ねたのだろう。ゼノアは答える。


 「当たり前じゃ。主がこのように言うのだ。妾も思っている事は同じ。雑魚だろうと主と妾の平穏は邪魔させない」


 なんとも言えない顔をする。ギルドマスターはゼノアに対して口を開く。


 「だ、だが君はまだ子供だ!そこにいる男は強い。これは分かった。だが君となると話は変わる」

 「妾が弱いと?人間如きが図に乗るな」


 ゼノアが威圧する。


 それだけで空間自体が悲鳴を上げるかの様に軋む。


 ギルドマスターや他、ネインもその圧倒的な力の前に膝を突く。


 「こ、これ程とは……。だがこんな化け物みたいなのがいるわけが」


 ゼノアはその言葉を無視して出入口へと向かう。それに続いて俺も向かう。


 「貴方達は一体、一体何者なの?」


 ネインは俺達が何者なのかを訪ねるも、


 「通りすがりで平穏にのんびり暮らしたいだけの冒険者さ」


 俺は振り返ってそう言い、ゼノアは、


 「妾はそんな主に一生共に付き添うと決めた者なのじゃ」


 そう言って俺達はギルドを後にするのであった。





 

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